第13話 俺たちのルーティン

 俺たちはすぐに地上に帰還できるよう女神像が設置してある5階層の入り口からほど近い狩場に陣取り、ワイルドボアと呼ばれる巨大なイノシシ系モンスターを狩ることにする。

 ちなみにワイルドボアの肉は人気食材で、ちょっとした稼ぎになる。ワイルドステーキは若干の癖はあるももの、肉の旨味と値段の割に食べ応えもあり食欲旺盛な冒険者には欠かせない定番メニューである。俺もよく食べる。


「じゃ、ちょっとくるわ」


 この場合の『釣り』とはいわゆる魚釣りの釣りではなく、モンスターを群れから一頭だけパーティーの下に誘導することを指す。これはダンジョンバトルでの基本戦術だ。多頭戦は乱戦になりがちでリスクが高い。やはり各個撃破がど安定なのだ。

 ちなみに忍者ニンジャは性能的に釣りが得意中の得意である。

 俺は〈隠密〉で透明人間のごとく気配を消してワイルドボアの群れに近づき、足元の石ころを無造作に拾う。その石ころを剛腕ピッチャーよろしく振りかぶってむれから孤立するワイルドボアに狙いを定めて投げる。

 〈投擲強化Ⅰ〉の恩恵でただの石ころが弾丸のような勢いでその丸みを帯びた横っ腹にずぶりと突き刺さる。

 瞬間、ワイルドボアは特大の敵視ヘイトを俺に向け猪突猛進してくる。俺は怒り目を血走らせる一頭のワイルドボアを引き連れてメンバーの下へと疾駆する。


 ワイルドボアが攻撃レンジに入ると待ち構えていたルルが〈楔の呪縛Ⅰ〉を放つ。魔法で生み出された漆黒の楔がワイルドボアの身体をブスリと撃ち抜く。

 鈍足効果で動きの鈍くなったワイルドボアへとラヴィが間髪入れずに身の丈ほどある大剣でドカンと斬りかかる。

 続けざまにエドが〈妖精の羽ばたき〉を俺とラヴィに付与する。鱗粉のような煌びやかな粒子が身体にふわりと降り注ぐ。途端に手にしたショートソードが軽くなる。

 自然術士ドルイドの〈妖精の羽ばたき〉は装備品の重さを軽減するバフ系魔法アビなのだ。

 俺はワイルドボアの鋭い突進を回避し、時にショートソードで受け流し、できるだけ被弾しないように立ち回る。しばらくして敵視ヘイトが俺に固定されたのを見計らってエドも杖で攻撃に参加する。

 ――その時だ。

 ラヴィの大剣がヒットするや否や、稲光いなびかりのエフェクトと共に炸裂音が鳴り響く。クリティカルダメージの合図だ。

 暗黒戦士ダークウォリアーのパボの効果もあってワイルドボアのライフがゴリッと削れる。一瞬にして怒りの矛先ヘイトがラヴィに向く。

 俺は間髪入れずに〈影縫〉を発動させワイルドボアを影の鎖で縛り付ける。その間にラヴィには距離をとってもらい敵視ヘイトが下がるのを待ってもらう。

 再びワイルドボアの敵視ヘイトが俺に向いたタイミングでラヴィが攻撃に加わる。あとはワイルドボアが力尽きるまで基本的にこの繰り返しである。


 これが俺たちパーティーがこの5階層までのバトルで生み出したルーティンだ。


 いや、生み出したと言うと聞こえはいいが、俺たちのジョブ構成や手持ちのアビからして、これ以外の選択肢がなかったというのが実際のところだ。

 課題は見ての通り、ラヴィが攻撃を休んでいる時間だ。これが改善されれば一気に狩りの効率が良くなるはずだ。


 そして、ようやく俺はその瞬間を迎える――――。


 三頭目のワイルドボアを撃破すると、俺の身体が淡い光に包まれる。それはレベルアップの証だ。

「おめでとうジュノンくん」

「おめでとうジュノン」

「おめでとうございますジュノンさん」

 皆の祝福に応えようと口を開きかけた時だ。鼓動がドクンと跳ね、脳裏に新しいアビリティの情報が雪崩れ込んでくる。


「うおおおおおおおおおお!」


 興奮のあまり俺は思わず両の拳を握り締める。

「ジュノンくん。ひょっとして……新しいアビを覚えたのかい?」

 皆の視線が注がれている。俺はしっかりと頷く。皆が歓喜の声を上げる。だからこそ俺は言葉を選んで続ける。

「その、実際に試してみないと確実なことは言えないが……もしかしたら、今回、覚えた新アビで俺たちのパーティーの問題が解決できるかもしれない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る