第12話 希望と課題②

「やっぱり俺がタンクじゃ敵視ヘイト管理が難しいな……」


 敵視ヘイトとは、モンスターの怒りの矛先のことだ。

盾役タンク敵視ヘイトを稼いでモンスターの攻撃を一手に引き受けることでバトルを安定させることが役目だからさ」

「だね。回復役ヒーラーとしてはタンクが敵視ヘイトを固定してくれると負担が減るんだよね。特にジュノンくんは回避率が高くて被ダメが少ないからね」

「ただ基本的に忍者ニンジャは紙防御だからさ【重装騎士アーマーナイト】や【重装歩兵ファランクス】とかカッチカチの盾役と比べるとどうしても被弾した時のダメージがなぁ……」

「エドすまない。あたしもだな。アビを使用すると戦士系とは思えないほどの紙防御になる……しばらくは〈サクリファス〉や〈デスパレード〉の使用は控えたほうが良さそうだな」


 暗黒戦士ダークウォリアーの〈サクリファス〉は防御力を犠牲に攻撃力をアップさせるアビで〈デスパレード〉はライフの一部をを削って放つ捨て身の強攻撃である。


「ラヴィ悪いな。装備なりアビなりなにかしらの解決策が見つかるまで様子を見てもらえると助かる」

「ジュノンが気にする必要はない。癖の強い暗黒戦士ダークウォリアーのあたしが皆に合わせるのが筋というものだ」

 口調こそ平然としているが、ラヴィの小さな背中はお預けをくらった子犬のように寂しげだ。心が痛む。

 これまでさまざまなパーティーで不遇な扱いを受けてきたであろう彼女をこれ以上我慢させたくない。落ちこぼれ同士、気持ちが痛いほど分かるからこそ、ラヴィに思う存分戦わせてやりたい。


(……だが、弱ったな。これは致命的な問題だぞ)


 さすが戦闘系種族鬼族オーガと言うべきだろう。その小さな身体のどこにそんなパワーがあるのか。本気のラヴィの火力は目を見張るものがある。

 断言できるが、暗黒戦士ダークウォリアーが真価を発揮できる環境を整えることができればこのパーティーは強くなる。だが、問題は俺の火力がなさすぎて、本気を出したラヴィに易々と敵視ヘイトを奪われてしまうことだ。

 当然の摂理なんだが、モンスターは自分にとって『より不利益な相手』に対して怒りの矛先を向けるものなのだ。

 忍者ニンジャのパボで暗黒戦士ダークウォリアーの回避率が上がってるとは言え、ライフが減り防御ダウンしているラヴィが敵視ヘイトを抱える状態はあまりにリスキーだ。

 だが、彼女が手加減していては火力不足で10階層のボスを撃破することは不可能だろう。ダメージソースに乏しい俺たちにとってラヴィの活躍がカギなのだ。


(この課題が俺たちが越えなければならない最初の壁かもしれないな……)


 しかし、残念ながら目標の5階層にたどり着いても有用な解決策を見つけられないままだった。


          ◆◇◆◇◆ 


「5階層だね。まさか初日にここまで来られるとは……信じられないよ」

 エドが顔に充実感を滲ませる。

「皆さんのお陰で呪術師シャーマンのレベルが上がりました! ありがとうございます!」

 ルルは喜色満面の笑みを湛える。

「おめでとう。ルル。あたしも嬉しいぞ」

 ラヴィが安堵に胸をなでおろしている。

 だが、ただ一人。黒髪のくせっ毛弱気野郎だけが冴えない表情で佇んでいた。俺は迷っていた。

 無言の俺に代わって年長者のエドが提案してくれる。

「きりも良いし今日はこのあたりで地上に戻るかい?」

 全員の視線がリーダーの俺に注がれる。俺は悩んだ末、皆に切り出す。

「悪いみんな。あともう少しだけ俺に付き合ってくれないか?」

 ごくりと俺の喉が鳴る。


「実は、その、あと少しで忍者ニンジャのレベルが上がりそうなんだ……」


 胸中に『皆に迷惑そうな顔をされたらどうしよう』という恐怖心がうごめく。

 出会って日は浅いが、三人がそんなあからさまなタイプじゃないことは理解しているつもりだ。だが、過去に幾度となくパーティーメンバーから拒否されてきた記憶トラウマは簡単には拭えない。

 

「もちろん、いいよ」

「お付き合い致します」

「ふむ。さくっと上げてしまおう」

 

 だからこそ、三人からの快諾に俺は戸惑いを隠せない。

 これまでのパーティーで忍者ニンジャの提案がすんなりと受け入れられたことがあっただろうか。いや、ない。落ちこぼれの俺に発言権はないに等しかった。

(パーティーメンバーと対等な関係であること、そんな当たり前のことがこれほど嬉しいとは……)

 改めて俺は思うのだ。この四人で10階層を必ず突破したいと。

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