六、都市から来た一家(下) 香田太一の失敗
麻井陽太は挫折を知らない。
格式高く経済力がある家の麻井家、その長子として生まれた。生まれたときから周囲には自分に付き従い、世話を焼く人間がいた。
また、本人の持つ才も、眼を見張るものがあった。一度聞けば苦もなく覚え、自ら学び、答えを導き出すことができた。
体も丈夫で運動神経が良く、スポーツの類で人に遅れをとったことは無かった。本人が、努力を厭わない性格であったことも、その才を伸ばした。
更に、容姿にも恵まれた。富豪である代々の当主達が、それなり以上に美しく教養のある女性を妻に迎えたため、麻井の本家一族は、美形が多い。
そのうえで、麻井の家の後継となるための教育を、義務教育と同時に受けている。
生まれの環境。本人の資質と研鑽。教育。これだけのものが揃い、人口の絶対数の少なさから突出した才を持つ者がいなかった髭守において、麻井陽太は小さな王様であった。
両親を除いて、自分の意に従わない者はいない。道理として無理がなければ、通らない話も無い。大概のことは思うがままだ。
挫折をする機会など、訪れるはずも無かったのだ。
そして王国の家臣達を引き連れて中学校へ進学したその日に、初めて興味深いと感じるものを見た。
自分に正面から意見をする女。自分よりつまらない者の相手をして、こちらを眼中に入れない女。自分以外では、まず収めることはできないと思っていた場を、その意図も無く収めた女。
これらはまず、単純に初めての経験であり、『予想外』という新しい感覚を覚えさせるものだった。
愛らしい容姿に、純粋さと快活さを感じさせる健康美も好印象であった。
古い考えを持つ麻井の家の者として、伴侶には丈夫な子を期待できる、健康的な女性が望ましい。
学級内において、一派閥の中心人物という点も悪くはない。
自分と一緒になったのなら、家の奥向のことを任せるし、要人との付き合いのため、外に連れ出すこともあろうだろう。そのときに恥をかくような人間では務まらない。ある程度の地頭と、人を惹き付ける魅力があれば望ましい。
その他諸々が、陽太少年の好みとする、ありとあらゆる箇所に突き刺さった、その、もの。
言うまでもないが、村上愛子だった。
鞆浦の人間、というあたりは気に食わないが、聞けば生まれは東京らしい。そして、父親も東京の研究所に籍を置く、名の知られた学者だと。
それなら、自分が嫁として麻井の家に迎え入れたい、と父に嘆願しても、頭ごなしに反対はされないだろう。
どうかすれば、妻となった愛子の鞆浦での伝手を用い、麻井の影響力を鞆浦まで広げることができるかもしれない。そうすれば麻井の家はこの地域一帯を抑えることになるし、それを成した自分の名は、後々まで残ることだろう。
…………本人の思考が歳不相応にひねているために脳内ですら言い回しが高圧的かつ物騒になっているが、あえて言葉を崩し最奥の本音を引きずり出すなら、要するに『入学初日にとっても気になる女の子に会った。ぶっちゃけ結婚したい。ていうか彼女にしたい』になる。
麻井陽太、初恋の瞬間であった。
入学式早々に強烈な存在感を放った村上愛子の名前は、学校中に知れ渡った。
けして「響き渡った」のではない。あくまで人伝に知れ渡ったのだ。曰く、アレは麻井(さん)が狙っている女だから、軽々に手を出すな、と。
入学式当日には学年中に。翌日の下校時までには、学校中に、といった具合だ。
当然、それは鞆浦側の生徒の耳にも入った。
愛子を私物化するような物言いには憤る者もいたが、上級生から「ある意味、髭守の連中から何ぞ被害を受けることもない、っちゅう保証にもならあな」と諭され、渋々頷いた。
そのうえで、愛子を麻井に渡してなるものかと、同学年を中心に大勢の男子が恋心と独占欲の炎を滾らせた。
何せ愛子はモテる。愛らしく、純粋で、人の善性にこそ主眼を置く性格をしている。好かれないはずがない。
鞆浦小では愛子に色恋の気配は無かったが、それは愛子自身がまだ幼かったこと、周囲の女子のガードが鉄壁であったこと、男子同士が水面下での鍔迫り合いに終止しており誰か一人の抜け駆けは確実に阻止されてきたことが、要因として上がる。
ついでに言えば、小学校時代なら愛子の幼さが先立って興味を持たなかった上級生男子達も、中学に入学し、徐々に大人の女性への変化を始めた少女を目の当たりにすれば、考えも変わると言うもの。
愛子の父智昭には、漁の手伝いや研究への協力の際に会ったことがある。気持ちのいい人だと思った。
そして智昭や漁師達の口から、愛子の話もよく聞いている。上級生にとって、愛子は親戚にいる年下の女の子、といった感覚だ。
そんな、「密かに『いいな』と思っていた獲物を鳶に攫われるような真似」を許していいのか。それも、その鳶は髭守の人間だ。いや、断じて許してなるものか。
愛子自身への物理的距離は、残念ながら同級生の麻井のほうが近い。自分達が下手に動いては、愛子が危険に曝されるかもしれない。そう考えて自重はしたものの、猪投中学校中の、愛子の学級以外の男子も揃って、一人の女生徒にギラついた目を向けるようになった。
ちなみに、上級生の女子達は、若干白けた空気になっていた。
三年生ともなれば、受験を控え、部活でも最後の年だと気合が入り、下級生の規範となるよう責任感により大人びた考えを持つようになる。肉体の成熟も進むために、外見的にも子供らしさが抜けつつある年頃だ。早い子なら、中学生でも化粧はする。
それらが相まって、本来、学校のアイドルは、自分達の誰かが選ばれていたはずなのだ。その座を、入学したばかりの去年までランドセルを背負っていた下級生に奪われるとは。
普通であれば妬みや不快感から、いじめに発展してもおかしくはない。
そうならなかったのは、愛子自身がそのお姉様方へ向けて裏表無く憧れの気持ちをぶつけて行ったからだ。
邪険にしようが、他の生徒に睨まれない程度に嫌味をぶつけようが、愛子はまるで意に介さなかった。
受験のストレスがあるのだろう。中学校の序列とはそういうものなのだろう。愛子はそう考えたし、何より、「クールなお姉様方がとっても素敵」だったからだ。これは仲のいい女子生徒にそのまま惚気けるように零した台詞でもある。
自分達は嫌っているのに、やたら懐いた犬の如く一途に慕ってくるのだ。嫉妬も怒りも、馬鹿らしくて長続きはしなかった。
また、愛子のあまりのしつこさに根負けしたのか絆されたのか、ファッションやら化粧について教える者も出てきた。
お姉様方から教えられることなら何だって喜んでいい反応を寄越すものだから、教える側も悪い気はしない。
そのうち、男女の恋愛の話になり、肉体的接触のあれこれになったあたりで……村上愛子には特別目を光らせていた教員達の網に引っかかり、生活指導担当からこっぴどく叱られた。
ネタがネタだけに、まだキスも済ませていない愛子は未経験の酷い羞恥心に曝されたが、お姉様方と一緒に叱られている、と思えば、それも少し楽しかった。
一人っ子だった愛子にとって、小学校時代以上に年上感を味わわせてくれる上級生女子は、一人残らず大好きな相手だった。
さて。村上愛子が猪投中学においてどのような立ち位置にいたのか、については触れたが、ここで話を香田太一に戻す。
そして『やらかし』とやらの前に、軽く香田の小学生時代に触れる。
香田の両親の移住計画失敗については触れたが、その煽りをもろに喰らったのが息子の太一だ。
香田の両親は、けして悪人ではないものの、とにかく評判が悪い。そのせいで、「あの香田さんとこの……」と、太一の名前と顔も、悪い意味で皆の知るところとなった。
度々言及しているが、大人の態度は子供に波及する。
大人達が香田一家を、村八分、とまではいかずとも腫れ物に触るような扱いをしているなら、子供達とて「香田太一には、そのような扱いが許される」と考える。
何せ、それら差別的不条理を叱らなければならない大人が、率先して行っているのだ。子供達の態度も無理からぬ、というものだった。
唯一、香田にとって幸運だったのは、同級生に『小さな王様』とも言える麻井陽太がいたことだった。
麻井は尊大ではあったが、特定の誰かをいじめることで嗜虐心満たす趣味は、持ち合わせていなかった。別にそんな低俗な娯楽に興じずとも、王の権力を以てすれば、できることは他にいくらでもあったからだ。
そのため、学校中から後ろ指をさされつつも、香田は実害という面において、そこまで深刻な被害を受けていない。
寧ろ、大きな怪我こそしなかったものの直接手を出されていた、都市時代の学校でうけたいじめのほうが、被害としては酷かったようにも思えた。
それですら然程苦にしていなかった香田少年としては、「この程度、別に」といったところだ。案外この少年、太いところがある。
ただ、逆に言えば、実害こそほぼ無いものの、香田が腫れ物扱いをされ続けているのは、忘れてはならない事実だったのだ。
それを、中学校入学という環境の変化と、当日に起こったちょっとした騒ぎのせいで、香田は自分がどのような目で見られていたのか、一時失念してしまっていた。
立場の弱い者は分を弁えるべき、だとか、波風立てずに大人しくしているべき、だなどとは間違っても言わない。
言わないが、事実として香田はどうということもない言動で、学校中の嫌われ者になってしまった。何が悪いという話をするのなら、もうここまでくれば『運が悪い』。
香田達が入学して半月が経った頃。化学の授業で実験を行うことになった。
そして化学教師である
決める基準は、当日の日付であったり、その瞬間視線を向けた時計の秒針であったり、まちまちだ。『テキトー』でありながら『適当』であれば何だっていい、というのが安永の考えである。
班分けをランダムにする理由は、実験に対して慣れを感じさせないためだ。
化学の実験には火や薬品を扱う関係から、危険が伴う。しかし、慣れた面子で実験に臨めば、油断から事故が起きかねない。
塩化ナトリウム水溶液が手に付着した程度なら、すぐ水で洗い流せばいい。
だが、もし目を話している内に、制服の袖が燃えでもしたら? もし塩酸などの強酸が眼球に付着し、水で洗い流すのが遅れたら? それらの危険を思えば、実験の度に授業時間が五分程度遅れるのは、安永にとって許容範囲内だった。
それに、余程仲のいいグループができあがっているならまだしも、入学直後であれば、普段の教室では離れた席に座る相手との交流も図れ、教師としては一石二鳥であるとも考えていた。
その初めての化学の実験で香田は、村上愛子と同じ班、それも隣の席になる。
実験自体は順調に進んだ。愛子は実験自体に興味津々で、化学反応を記録する際にも、目を輝かせて詳細にメモをとった。
香田の他の男女二人も、愛子の世話を焼こうとしたり、愛子にいいところを見せようとして、実験を危なげなくこなした。おそらく二人共、鞆浦小出身であったのだろう。
香田自身も比較的真面目な優等生であるため、香田と愛子の班は、実験を終えて片付けまで済ませても、まだ時間に余裕があった。
安永は管理主義者というわけでもないので、時間が余ったのなら、自習するか、他の班の邪魔にならない程度なら私語も許していた。
愛子はその時間を使って、他の薬品であったならどんな反応を見せただろうか、温度や、濃度や、反応させる時間によっても違うかもしれない、などと友人の女子に小声で捲し立てている。
余程、初めての化学実験が楽しかったのだろう。聞いている生徒も、楽しそうな愛子を見て幸せそうである。その隣の男子生徒も、微笑ましそうに眺めている。概ね、平和で穏やかな時間が過ぎていた。
一人だけその時間を共有できていないのが、香田であった。
香田が愛子をまじまじと見たのは、入学式当日のみである。そのほかの時間は、愛子の周りには、いついかなるときも男女を問わず多くの取り巻きがいた(正確には、気まぐれに興味を持った何かしらへ突撃していく愛子を追いかけることも多々あるため、取り巻きの位置が「周り」から「後ろ」になることもあるのだが)。
そのため、香田は愛子に興味を持ちはしても、なかなか会話をすることができずにいた。
麻井陽太をして一目惚れさせる少女である。香田もそれなりには意識している。それに、聞けば自分と同じく他所からこの地域へやってきた人間だと言うではないか。
意中の相手との間に共通点を見つけたのなら、それを会話の糸口にしようと考えるのは、自然の成り行きである。
ただ、共通点を見つけはしても、自分とは真逆の行動を取っている、と感じることがあった。香田にはそれが、どうしても気になっていた。
だから、深く考えず、口に出してしまった。
「村上さんは東京から来たんだよね。なのに、どうしてこのあたりの訛りに合わせて喋っているの? いじめられないように? それって疲れない?」
香田には、本当に深い意図など無かった。このあたり一帯の訛りを貶めるつもりも、愛子がそれを話すことを咎めようとも、一切思っていなかった。
ただ、いわゆる日陰者として小学校時代を過ごした香田が、学校中で話題の『気になるあの子』と持てた唯一の共通点であったため、警戒心が緩んでしまった。
ついでにいえば、言外に「僕が相手だったら、そんな気を遣わずに話したって平気だよ」と告げる、ある種の傲慢な考えもあった。とはいえ、コミュニケーション不足の中学一年生が考える思いやりなどその程度だ、と言ってしまえばそれまでなのだが。
香田の失敗の要因の一つは、この話を愛子と二人きりのときにしなかったことだ。尤も、先述のとおり、愛子が一人でいることなど、ほぼ無いのだが。だからこそ、隣の席になったこの機会を逃すまい、と焦ってしまったのだが。
そして香田の不幸は、それを鞆浦町で生まれ育った生徒が二人、間近で聞いていたことである。
鞆浦町にとって、村上一家とはやや特別な家である。
住民にとっても、もう意識のうえでは仲間であり同族であるが、一家が鞆浦町に来たのは、まだ六年前のことだ。古い町の人間から言わせれば、他所者である。
しかしその空気を、家長智昭や妻依子の努力によって払拭し、居場所を作った。今では、鞆浦町で村上一家を悪く言う者はほとんど居ない。
もし居ても、口に出せはしない。出したが最後、周囲の住民が理と情を以て「先生達の何が不満かよ? お? 言うてみ。聞いちゃるで」としつこく絡んでくるからだ。
そして愛子は愛子で、子供社会において強固な地盤を作り上げた。
子供特有の盲目さを勘定に入れるなら、どうかすれば智昭よりもずっと熱狂的ファンが多くいる。特に女子に。
男子からはアイドルとして好かれ、女子からは半ばマスコットとして好かれている。
中学校入学と同時に髭守町の生徒達と合流することから、どうなることかと心配はされていたが、持ち前の気質で見事に乗り切った(本人にはその気が薄いが)。
愛子の足元は、しばらく崩れそうにない。
そんな稀有な女子生徒に向かって、よりにもよって、同じ髭守町の生徒からも腫れ物扱いされている男子生徒が、この地域の人間には絶対できない方向から、同類扱いしたのだ。
何年も愛子と共に過ごした面子としては、許せるものではない。特に、都市の出身、という生まれのアドバンテージとして使われた点が、だ。悪い意味で絶妙に田舎者の神経を逆撫でしている。
大袈裟な例えだが、鞆浦町の人間からすれば大事な仲間を、都市側へ攫っていこうとしているようにも見えるのだ。
男子生徒が授業中ということも忘れて香田の胸ぐらを掴み、「お前、香田言うたかの……」と据わった目で喧嘩の開始合図を告げた。
同席している女子生徒も、全く止める様子が無い。安永が止めに入るだろうが、その前にこの他所者を、痛めつけられるだけ痛めつけてしまえ、とさえ思っている。
しかしこれも繰り返しになるが、愛子は頭の出来が悪いわけではないが、人の悪意に多少鈍感ではある。
だからこそ、対面に座る男女二人の生徒の怒りにピンと来ないまま、落ち着かせ、自由になった香田へ答えた。
「何でって言われても困るわ。私が鞆浦に来たんは小学校に上がる歳じゃけ、物心ついた頃からで言えば、こっちのが東京より長いわ。だで、私は自分のこと鞆浦のモン思いよる。鞆浦モンが鞆浦の訛りで喋ったって当然やし、疲れるわけもないわ」
香田は、同級生を怒らせた自分の迂闊を呪い、それを執り成してくれたことには感謝の念を抱いたが、いくらかの絶望感も味わった。
唯一の共通点だと感じた話題は、特にその役目を果たさなかった。
この東京出身の少女は、自分と同じ他所者でありながら、地元の人間としての立場を確率している。自分とは違う。
香田は、自分の両親が苦労しているのを知っている。それは本人達の準備不足と理解不足が主な原因であると、中学生にまでなった香田は流石に理解してはいる。それでも、現に苦労はしているのだ。
ならば、この少女の一家にも、同様の苦労があっただろうことは想像に難くない。であるのに、自分達とは違い、最良に近い結果を得ている。
香田の胸中には、村上一家に対する仄かな羨望と、同程度に弱い嫉妬を覚えた。
香田太一が一人衝撃を受けて「へんなことを聞いてごめん」と話を打ち切りはしたが、ことはそれで済まなかった。
当たり前だが、化学実験室は体育館ほど広くはない。
香田は愛子の隣の席になったことで舞い上がってしまったが、その隣の班の生徒からの距離も、然程離れてはいないのだ。
一連の会話は、全て聞かれていた。そして運の悪いことに、その生徒は髭守町の生徒であった。
これが鞆浦町の生徒であったなら、仲間が怒りを示し、愛子が諌めたことで矛を収めただろう。
しかし髭守町の生徒なら違う。既に「陽太さんが狙っている女に手を出すな」という暗黙どころではない絶対の掟が出来上がっている。それを、他所者の香田が破った。
ここでも他所者だ。香田一家が地域に居場所を作れなかったことが、何処までも響いている。
そして香田が愛子に軽い気持ちで話しかけてしまったことにも、実はこれが絡んでいる。
香田は髭守小学校時代、腫れ物扱いされてきた。要するに、ほとんど誰とも会話をしていないのだ。当然、入ってくる情報も乏しい。
麻井陽太に関しては、周囲の人間が従者の如く侍っていることから、あまり関わらないようがいいだろう、とあたりはつけていたが。
今回、その乏しい情報収集能力が仇となり、見事に地雷を踏み抜いた。
その日の放課後、香田は麻井の取り巻きに校舎裏へ呼び出された。
暴行でも受けるのかと思ったが、そういうわけではないらしい。だが、宣告された内容からすれば、自分一人が殴る蹴るされたほうが、まだマシだったと思った。
「お前、前々から思うとったが、えらいふてぶてしいヤツよな。まぁでも安心せいや。俺等は陽太さんが言うけ、お前をどうこうすることはないで。目立つ真似をしたら、俺等が陽太さんに叱られらあ。
やけ、俺等はお前に何もせん。シカトこいてハブりもせん。殴りもせん。せんが、ただなあ、陽太さんが『不愉快だな』っちったんは事実なんじゃ。もしかしたら、お前ら一家が違う場所に越して行きたい、なんて思うようなふうには、結果的になるかもしれん。
それは俺等の知ったことではないでの。とりあえず、それだけ覚悟して、いつまで続くかはしらんが、この学校では大人しゅう過ごせや」
香田がしたことは、同級生の女子に話しかけただけ。話の内容はどうあれ、全く大した行動では無い。
それを不快と思う連中からの報復は、『いじめらしい、いじめはしない』とのこと。冷やかしくらいは受けるかもしれないが、『実害は与えない』と宣言された。
だが、そのことがかえって不気味だった。
香田はこの段になってやっと、自分が特大の『やらかし』をしてしまったのだと、理解した。
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