第43話 無制限地獄リレー

 まだ夕食まで時間があったので、再度鍛冶屋へと向かう。短剣持参だ。


 ガイヤスの店の前まで辿り着くと、ガイヤスの店は開いていたが相変わらず誰も客がいない店で、優理は同情し、心配になった。


 本当は優理の短剣を修理する為に、優理が前回来た時から毎日夕方から閉店まで店を開けていて、それ以外の時間は鍛冶や他の事に充てていた。優理が前回来た時から今日まで20日程度経っている。いつまで経っても来ない優理にイライラしていたのは言うまでもない。


 ガイヤスは新しい武器の構想を練ったり、自身の心と身体を鍛える時間に使う為に時間を使いたかったのだ。だがしかし、優理に努力しているところなど見られでもしたら本当の意味での負けと思っているので、こうやって格好つけて優理が来るのを待ち続けていたのだ。頑固者である。


 ここのところ活力に漲り、鍛冶に精が出て現役時代並みとはいかないが、まずまずの作品を作れるようになってきていた。本人的にはまだまだらしく微調整が必要だと感じている。数カ月する頃には現役を超えるのではないかとガイヤスも感じており、謎の活力が原因だとは思ってもいないが、結果が伴って本人も満足そうだからそれでいいのだろう。


「こんにちわー。おじさん」


「ああ、ようやくきたか小僧。短剣見してみろ。全然研いでないだろ。」


「よろしくお願いします。」


(あ、お金足りるかな)


「なんじゃこりゃ。どういう使い方してるんだ? 戦闘での切り傷でもないし刺し傷でもないな?」


「そうですね」


(これはどうみても・・・解体用に使ってるとしか思えねえ。つくづく俺の腕をバカにするやつだ。俺の自慢の短剣を・・・くやしいぜ。ぶっころしてえけど、それだけ俺の武器がこいつにとっちゃ解体用ナイフ程度で補助武器にもなりゃしねえってことだ。・・・・くそ。)


「まぁいい。研いでやる。待ってろ。」


 ガイヤスは優理に弱みは見せない。いずれ勝負する。今はまだその時ではないからだ。殺意すら湧き出るこの感情を持って、鍛錬と鍛冶に向き合うのだ。


 ただの研ぎでも手加減はしない。これだけはこいつには負けないというプライドがある為だ。本当は圧倒的にガイヤスの腕の方が高いのだが本人が気づくことはない。頑固で質問すら出来ないのだ。


 怒りを集中力に変え、全身全霊で研ぐ。研ぐ。


 ガイヤスはこの時集中して気づいていないが、ガイヤスの加護が全身を覆い、微量だが身体が光り輝いている。ガイヤスの持つ莫大な魔力が加護により漏れ出しているのだ。


(あーここで手斧買えばよかった。ざっくざく切れそうだこの斧とか)


「ほら、終わったぞ。手入れしろよ少しは」


「やり方わかんないんで。」


「剣を扱う職なら当然の技術だろ。何してやがったんだ今まで」


「今まで必要なかったんで。」


 ガイヤスは確信した。


(な・・ん・・だと? まさかこいつのメイン武器の付与の一つは自動修復か? おいおいレジェンダリー級の武器じゃねーか!! まじかよ・・・)


 ガイヤスはランク5の武器までは打ったことがある。このランクを超えて打てる鍛冶師は世界広しと言えど、指で数えるほどしかいないだろう。横並びなのだ。


 ガイヤスは戦慄していた。せいぜいランク6、ランク7クラスの武器だと思っていたこの少年のメイン武器が、ランク8かランク9の可能性すら見えてきたからだ。


 なので気合を入れ直し、ランク6、ランク7を打つつもりで己の精神を鍛え上げ、最高の状態を目指して修行していたところだった。心が折れそうだった。


 ランク8,ランク9の武器なんて世界に指で数えるほどしか存在していない武器だ。そんな物作れる鍛冶師なんて一生現れる事なんてないと言ってもいいくらいに絶望的な状況だと理解してしまったのだ。


 だがそこはドワーフ。ドワーフに掘れない穴も、打てない剣もない、という持論自負がガイヤスにはあり、根っこからの鍛冶師であるが故に、鍛冶神からの加護を授かっているのだ。


 ガイヤスは心の中で叫ぶ。 精神だけではだめなんだと。


 すべてだ。


 心、身体、知識、技術、運、魔力、己の全ての限界も超えて尚、それすらも軽々と超えていかなければこの男にも頂・・・神にも届きすらしないのだ。


 神。創世記時代の武器を作ったとされる創造主たちだ。


 ガイヤスは震える。この男と出会えた事に。


 優理は震える。なんだかこの街は寒気がすることが多いことに。


「そうか。まぁ大切に使ってくれているのは伝わったからよ。あんがとな。大事に使ってやってくれ。お互い頑張ろうぜ」


「ん? ああ、頑張りましょう?」


 優理が帰ったあとガイヤスは限界を超える方法で修行を開始するための準備、思考、考察を開始した。





 莫大な魔力を扱える精神。


 それに宿す刀身を鍛え上げる肉体。


 全てに通じるもの、それは魔力操作であり

 

 身体強化である。


 身体強化で強化し加速した己の肉体を最大限に引き出し


 その威力でもって行う必要性。繊細な作業を行う技術力。


 神すら身に宿すほどの精神力。そして運。





 まったく関係がないかもしれないし、あるのかもしれない。それでもいい。今の自分が思う限界、この活力から溢れてくる自分自身の本当に求めている行動の原動力。この気持ちに素直に従う事が全てにつながっている。そんな気持ちにガイヤスはなっていた。気分は晴れ、心が軽い。何者にも縛られず、何者にも侵されない聖域のようなそんな己の中にある境地。はたまたこれは鍛冶神が見せた幻なのか。己の願望が見せた蜃気楼なのか。そんな事はどうでもいい。やらないといけない。いや、やりたい。自分がやりたい。こんな気持ちにさせてくれて





ありがとう。




ガイヤスは深く、深く、感謝した。



 こうしてガイヤスが始める。身体強化を魔力枯渇限界値まで使用し、魔力操作で魔力を澱みなく身体に流れさせる死に戻りゲーム。


 現実と地獄の間を行き来する無制限地獄リレーがスタートした。





 



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