第42話 後半戦 葛藤
(ふう。なんとかご購入いただけましたね。予想通りです。)
「さて、情報との事でしたが、どういった物をご希望でしょうか?」
(気、抜いたな?)
「そうですね、では値段はそちらで決めていただいて結構です。金貨8枚までなら出します。この道のプロに聞くんですから。もし値段を超えるように感じたのでしたら話さなくてもいいです。このまま帰りますので」
「畏まりました」
(雰囲気が変わった? それに試されている・・・さきほどの取引で読み切れなかった事といい自信がなくなりそうだ。私だって元Cランク冒険者、修羅場だって潜り抜けてきてきたんだ。負けてなるものか・・・)
「プロスさん。」
「はい」
「この質問にはまだ答えなくてもいいです」
「・・・」
「あなたは好きな人が、愛する人がいますか?」
「その人にとって、大切な物がわかりますか?」
「娘、旦那、恋人、家庭だったり、宝石だったり、思い出だったりするのでしょう。」
「景色だったり、花だったりするのでしょうね。」
「さて」
「ここで質問です。」
(十分に溜める)
「私は大切な世話になった恩人にプレゼントを考えています。」
「その人には旦那さんがいて、私は旦那さんにも世話になっている。」
(エレーヌであり、アンガスでもある。)
「友達だ。」
「そのプレゼントを買える場所、教えてください?」
<プロス>
・・・・な・・なんだ? 心理戦・・なのか?
答えは、正解は何だ?
これは普通の質問ではない・・
罠だ・・・
この頃業績がうなぎ上りで調子に乗っている私への
現実を突きつける巧妙な罠だ・・・・
私にも妻がいるし
妻にプレゼントを考えるのは楽しい。
気持ちはわかる。
最近構ってやれていなかったな・・・
今夜あたり・・・
いかん!呑まれてしまっている!そうだ答え
私の妻に他の男がプレゼントをしようとしている?
それを買える場所? なんだと?
私の妻にプレゼントを?
ここは私個人の意見を聞かれている場じゃない
私は会頭だ。私情は挟むな!!
当然私の店にもそれなりの商品数は用意している
アクセサリーもあるし、家具や洋服だってある・・・
これか・・・これなのか・・・
会頭として仕事を選ぶか 嫁を選ぶか
俺は試されているのか!!
なんてことだ決めきれん
私は大勢の職員を抱えている!!
仕事も家庭も大事だ・・・くそ!
最近構ってやれてなかったのを思い出したら
なんだかむらむらしてきたな・・・
この私が仕事中にこんな・・・くそ!!
取引の場でするような話じゃないだろう!
それを言うのは簡単だ。
しかしこれは会頭として職場でされている話だ
報酬がある歴とした取引の内容だ
正直バカにはできない。
この男が風潮して回れば
ここまで頑張ってきた私の人生は
どん底に突き落とされるかもしれん!!
悪魔の取引だ・・・この悪魔め・・・
ふう。落ち着こう、今までのどんな修羅場より
スリルがあって楽しいじゃないか
乗り越えてみせよう!!
冒険者時代を思い出して血が騒ぎおるわ・・
でも嫁と仕事・・・・・・ ∞
・・・・・・
(ここまで5秒、優理はこの沈黙が耐えれなかった。)
(冷静に考えて大人が大人にする質問でもなく恥ずかしかったのだ)
ただ素直になれず、真剣な面をしているおっさんに、おっさんが恋愛相談みたいな事を質問して、それをおっさんが真剣に考え悩んでくれているこの空間がたまらなく恥ずかしくなり、耐えれなかったのだ。
「ふう」
「ちょちょっと待ってくれ!まだだ!まだ私ならやれる!」
「時間ですね。」
(帰りたくなってきたし)
「ももう少しお時間を! ここまで来ているのです! ここまで!」
「いやそんな先っぽだけみたいなのは効かないですよ。男なんで」
「ぐぬぬぬぬ」
優理は立ち上がり
「プロスさん、またの機会に、ということで。本日はありがとうございました。失礼しますね」
瞬間、プロヴァンスは膝から崩れ落ち、優理が立ち上がり帰る背中に一生分の敗北感を味わっていた。
商品を売り、利益はあがっている。
おそらくほぼ読み通りの展開で、プロヴァンスの手のひらの上だったであろう取引だ。しかし最後の質問で全て心の内をむき出しにされ、敗北した。
腕を失った時より、ギルドを脱退し冒険者を引退する時より、ずっと濃厚な敗北のイメージを叩きこまれてしまった。
プロヴァンスはその日、仕事にならなかったが、家に帰ると久しぶりに嫁が優しく慰めてくれた為、男の活力が漲り復活し、無事夫婦仲良く朝まで運動したのだった。これで子供も増え、プロヴァンス商会は安泰になることだろう。
この日の取引は全てプロヴァンスの勘違いだが、優理は普通に商人なら珍しい物とか知ってるかも? 程度に聞いてみて、答えが返ってこなかったから帰っただけだ。
プロヴァンスは頭が良すぎで、知識が多かったのもあって、色々深読みしすぎてしまい、負けたのだ。勝負に勝って、自分に負けたのだ。
そんな事はどうでもいい優理は、背負子を背負い、手に手斧を持ち、調理セットを持って背中にシートをかけ、よくわからない恰好をしていたため、衛兵に声をかけられ不審者扱いされたのだった。
(配達頼めばよかった・・・)
いたずらばっかりしてるから罰が当たったのだろう。
その場のノリで事件系のドラマのようなシリアス展開に興奮し、おもっきしやらなくてもいいことまでやっちゃった優理は、大きいしっぺ返しをくらった後、心に刻むのだった。
宿に荷物を持ち帰った時もプリモちゃんに爆笑された。
グスン。
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