第44話 憂鬱な魔女

「もう夕方かー。そろそろ飯だし帰るか。」


 優理が宿に向かって歩き出すのを遠くから見つめていた貴婦人。絶世の美女と呼ばれてもいいほどの美貌と肉体を持ち、莫大な経験値から醸し出される瞳の魔力。シーナである。周りに通り過ぎる街の人は立ちどまりシーナに魅入っていて、話しかけようという勇者もいない。それほど存在として隔絶された存在感があった。


 シーナはあれから美容に目覚め、日々自分の肉体を虐め、慰め、美容関係の錬金アイテムを湯水のように使用し、努力を続けていた。全ては恋、優理に振り向いてもらう為だ。才能の無駄遣いである。


 シーナは150年間、恋をしたことがない。バリバリの現役時代であった時も異性や同性にも心動かせる者はいなく、魔物と過ごす日々を毎日繰り返す旅に若い衝動などいつしか消え去ってしまったのだ。


 シーナは強かった。そして天才だった。努力もできた。そしていつしか並べる才を持つものなどいなくなり、辛うじて他の才で同等の強さを持つ者としか話さなくなるほどに孤高だった。まさに魔処女だ。


 150年間も特定の感情を持たず生きてきたシーナにとって、優理の出会いは衝撃的で、魅力的、初の体験で、毎日夜の営みが激しくなっていく一方だが、それでも自分の思いにすらまだ気づいていない。


 ただ見たい。喋りたい。会いたい。震える。その程度だ。


 ただ普通の人なら、可愛いもんだ、と微笑ましくなるものだが、シーナはいかんせん天才だった。魔法、錬金術、知識。様々な物がシーナを変態にしていく。


 誰も作った事がないような機巧少年を作り、ユリエスと名付けた。誰も作った事がないような遠距離転写型映像装置を作り、優理を監視した。誰も作った事がないようなポーションで若返り、誰も使った事のないようなスキルも自力で生み出してしまった。スキル:変体。彼女は2種類の人間に変化する事ができる。ある時は老婆、ある時は絶世の美女。これからも沢山の才能を無駄にする事だろう。だが誰にも止められない。恋する乙女は止まらないのだ。


 現在のシーナは完全にストーカーだ。優理の形をした機械人形と身体を重ねてすらいる。いつでも監視しているし、特に優理の入浴シーンでは目から血が出そうなくらい目を見開いて監視している、監視だ。優理の為なら何でもできることだろう。


 果たして彼女が優理と結ばれる事はあるのだろうか。転移すらできてしまう彼女から逃げる事はできない。リュナやソフィアを差し置いてヒロインの座を奪い取る事ができるのか。それは誰にもわからないのだ。


 

 今日の夕食はこの前の件もあり、プリモちゃんとお話しながら食べる事になった。

相変わらず9歳とは思えない発育で、言葉はまだ幼いがエレーナさんの子供ということもあって、未来に期待もできることだろう。このままいったらあの魅惑の女性に近づくという事もあり、特に恋愛感情などはないが、想像するだけでご飯が美味しく心が癒されるのだ。


 プリモちゃんは来月誕生日らしく、それまではおにいさん。優理と過ごしたいといっていて優理もこの後ダンジョンに潜った後はゆっくりするつもりなので、記憶に刻み混んだ。


 成人の儀で職業選択する機会もあるので、このまま看板娘でいる未来もあるが、他の選択肢をとる未来もあるので、プリモちゃんの人生で一番の転機になることだろう。


 どちらにせよエレーヌさんに子供が出来たらプリモちゃんも手伝うだろうから優しいプリモちゃんの事だ、両親から離れず過ごすんじゃないかと思っている。


 相変わらずアン飯は美味しかった。幸せだなー。

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