第40話 綺麗なお姉さんには毒がある
「おにーさーん、おはよう」
「おはようプリモちゃん。今日も可愛いね」
「えへへ、おにーさんもかっこいいわ~」
「ありがとうな、じゃでかけてくるわ」
「いってらっしゃーい!」
宿から出た後は商業区の裏路地にある例の武器屋? 鍛冶屋の方まで進んでいく。おっさんの店は今日は休み? まだ営業時間じゃないのかな。看板も出ていない為、閉まっていると思い、店の前で立ち次の予定を考える事にした。
(ん~、他に用事もあるにはあるんだけど、どうしよ~かな~。ドアとか叩いたらあの怖いおっさん出てきて殴られるかな?)
店の前に立ちすくんでいると、目の前から来た綺麗なお姉さんに声をかけられた。
「もし? そこのお店に用がありまして?」
「はい、武器のメンテに来たんですけど、空いてなくて」
「そこのお店は夕方からですわね」
「そうなんですね。困ったなーどうしよっかな」
「ふふ、お暇でしたら一緒にお茶してくださらない?」
「お姉さんみたいな綺麗な人が苦手でして、すいませんね」
「あらお上手ですこと。そしたらお暇なようでしたら、そこの路地を少しいった先にある魔道具屋に行く事をおすすめしますわ。 なんか良い事がある気がしますの」
「そうなんですね。お言葉なので行ってみようと思います。ありがとうございました。でわ。」
(ふふ、私だとは気づかなかったようね。・・・・さて、店で先に待つとするかね。)
綺麗なお姉さんが去った後、優理は
(綺麗なお姉さんには毒がある。これは行かない方が吉だな。怪しすぎる)
違う方向へと歩き出すのだった。
優理が購入する予定の料理道具や背負子、簡易テント、斧、その他もろもろが売っている店を探すべく歩き出した。
―――プロヴァンス商会
辺境都市ゼフィストに突如として出店し、瞬く間に頭角を現したこの商会は、若年35歳にして一代でこの商会を大きくしたのはプロヴァンス・ダンディことプロスだ。
辺境都市ゼフィストにいる冒険者を相手にする為、扱っている商品のほとんどが冒険者向けの商材ばかりだ。
プロスは自身の遍歴から、難しいとされる錬金術師や鍛冶師とコネクションを構築し、自社製品としての商品ブランドを立ち上げ、安定した価格で冒険者に提供するところまで持っていき、価格を抑える事でシェアを拡大、同業との売買契約などの結びつきを作り、瞬く間に知名度を上げることに成功し、今最も勢いのある商会として有名の商会だ。
錬金術師には専属契約と引き換えに安定した研究施設を提供する事で、鍛冶師には安定した素材の提供を確約することで、その見返りとして、低級、中級の冒険者が扱いやすい武具を大量生産することに成功している。
なにせこの男プロスは、元Cランク冒険者としてこの地域で長い事活躍し、この地域の特性、それに冒険者の特性までも理解し熟知している。
Cランク冒険者ともなれば偉業のひとつやふたつ持っており、経験値も豊富だ。世間で出回らない情報ですら知識として備わっているのだ。
当人の持ち前の紳士的な性格から冒険者同僚からも慕われ、取引先となる錬金術師、鍛冶師、家具屋や道具屋、様々な種類の商品を扱う下地を得ていたのだ。それもそのはず、専属取引先などには部下や店員に任せず、自分の身体ひとつで自ら参加し、相手の立場になるよう勤め上げ、相手の気持ちを理解する手段、心意気というものを熟ししているのだ。
プロスはBランク目前、いや確実と言われていたが、とあるダンジョンで片腕を失い、冒険者活動を引退する運びとなったが、現在は売上から高級なポーションを手に入れ購入しその腕も修復している。
優理が立っているのはそんな新星プロヴァンス商会の目の前だった。
「うーわー。でかい。入りたくないな。」
振り向き帰ろうとすると、入り口の方から
「お客様。何かお探しでしたら静かな個室の方へご案内いたします。一点からでも些細な事でもお聞かせいただけましたら、力になれるかと。」
(ふーん)
前世でよく見た見た目から出来る男オーラをバンバン出している紳士を装ったイケメン。(またイケメン・・・ちょいひげ。ヒゲメン)がいやらしくない程度のいい笑顔でこちらを伺っていた。
(こやつ・・・できる。おもしろい、そのゲーム。のってやろう)
「じゃ、案内してもらえます?」
「ええ、喜んで、ささ、こちらです参りましょう。」
案内された先は、半個室になっているところが何部屋もあり、全て職員が一人一人相対して悩みや注文を聞いて対応しているのが見えた。
優理を案内した男、ヒゲメンは見栄えが良くそれでいてしつこくなく、すらっとしていてちょい髭なのに清涼感がある髪型や雰囲気をしている前世では同じ年くらいの男性だ。
「こちらでお待ちください。」
途中で案内役が綺麗な女性へと変わり、案内された部屋は調度品も高そうでもなく安そうでもなくちょうど良く、豪華すぎず庶民的な面も兼ね備えているような雰囲気が落ち着いた感じがするソファーやテーブルが置いてあるだけの部屋だった。
さきほど案内してくれた女性が、白のこれは少しだけ高そうな陶器のカップと飲み物の入った陶器を持ってきて、優理の前で紅茶? を入れてくれた。そのまま短くお辞儀をして、離れていった。
その女性の服装も所作も清潔そうで下品でもなく、エロさを感じさせない仕事着で、はきはきとした言葉遣いでそれでいて優しい雰囲気を出していた。プロスの指導が行き届いているような印象を受けた。
(やり手か。ふふふ・・・おもしろい。)
ゲーム。スタートだ。
Fランク冒険者ユリエス
VS
プロヴァンス商会会頭 プロヴァンス・ダンディ
「お待たせしました。この度対応させていただきます私プロスと申します。名前が長いので略称で失礼します。さっそくですが、ご用件をお聞かせ願いますか?」
(相手の出方を様子見する為に一歩引いた姿勢。雑談が好きではないタイプと読んだか。正解だ。+1だな。)
「はい。何点か購入を検討している物があります。値段を見て決めたいのもありますが。まず調理器具、簡易的な物でフライパンのような物とまた板がほしいですね。それと背負子。壊れないのであれば素材は何でも構いません。実用性重視でお願いします。それと斧ですね。牧割り用なので牧が割れればどんなものでも構いません。それとテント、こちらは購入するか検討中ですね。雨が凌げる布かそれに近い素材の物が両手の2倍くらいのサイズがあれば比較、検討したいですね。それにネットがあれば両手の3倍程度の長さの物がほしいです。あとは情報ですね。こちらはまた後で。」
「畏まりました、少々お待ちください。」
すぐさま従業員に伝え、現物を持って来るように指示する。一気に注文した為、従業員も何人かに分けて用意させるように分散させるよう指示しているようだ。
(畏まった話し方。注文から察するに外で活動する冒険者に見えますが貴族様の線が濃厚か?・・・いやその線は薄いな。目を見て話すところに平民を侮蔑する嫌な目線を感じなかったのもあるが、こちらの能力を見て購入を判断するという可能性が高い事を考えると貴族様ではあり得ない判断ですね。何者であるとかはこの際関係がないでしょう。無難な種類をいくつも並べて選んでいただくより、こちらのおすすめ、唯一要望のあった実用性に重点を置いて値段は気にせず提示してみますか。このようなお客様は珍しい。腕の見せ所ですね。)
――つづく。
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