第36話 クリーン効かないの?え

「クンクン、ユリエスさん?」


「え? 匂いしてないですよね?」


「ふふ、お盛んですね」


「クリーン効かないの?え?」


「若い時はしっかり遊んで、息抜きしてくださいね」


「はあ、では出かけてきます。」


(こ、こえええええ)


(匂うの? しかもエレーヌさんなんか艶艶だし・・・)


(アンガスやつれてたけど?)


(エレーヌさんって・・・化け物? おっとなんか寒気がしてきたぞ)


(ぼ、冒険者ギルドにシュッパツダー! おー!)


(その前にあそこいくか)


 並木通りを歩き、大通りに入る前の道を右にいってその奥に進む。


「すいませーん。院長さんいますか?」


「はーい、院長ね。いますけど、何の用ですか?」


「はい、少し寄付をしたくて寄ったんですが」


「そうなんですねー!」


「貴女でも構わないのですが、渡しておいて貰えませんか?」


「はいー!お名前を伺っても?」


「ただのその辺の冒険者ですよ、はい、じゃお願いしますね」


「ちょ、ちょっと待ったーーーー!」


「はい?」


「このやり取りに身に覚えが・・・!あなた!そういえばこの前の!」


「ああ君はあの時の」


「私はルリですよ!この前院長先生にちゃんと渡しましたよ!ありがとうございました!」


「そうですか、また寄付をしたいのですが、預かってくれませんか?」


「院長先生が会いたがってますのでちょっと待って!!!」


「ええ・・・ルリさん貴女が渡してくださいよ。」


「なんで面倒くさそうなんですか!院長せんせーいますから入ってください!」


「ええ・・・違う孤児院いこっかな・・・」


「だめです! いえいいですけどだめです!すいません!こっちです!早く!」


「えぇ・・・」


 可愛い元気な女の子に手を引かれ、促されるままに中に入ると外装はボロボロだが、中身はしっかり木造で作られて綺麗に整理されている孤児院? の一軒家に案内された。


「ルリ、どうしました? そちらの方は」


 初対面だが、ルリが手を引いて案内してきたからか、嫌な顔もせず、院長、シスターのような老婆は笑顔でこちらに軽くお辞儀をし、語りかけてくれた。


「この前の寄付してくれた方です! えとお名前は・・・」


「旅の者です。名前は忘れました」


「そんなわけないでしょ! ってないですよね!?」


「若造と申します。以後お見知りおきを」


「ふふ。面白い方じゃありませんか。この度は多額の寄付をありがとうございます。見ての通りあまり立派な家ではありませんが、ここには沢山の孤児や捨て子などが集まります。食べさせるのもやっとの状態のところであなた様のおかげで子供たちにお肉が入った食事を与える事ができました。ありがとうございます。」


「そうですか。では今回も寄付させてください」


 見た感じ老齢なこの女性とルリはやせ細っている。自分たちの食べる分まで子供たちに分け与えているのだろう。そんなやせ細った身体でもルリは元気に暮らし、子供たちも走り回れるほどの体力があるところを見ると、この老婆は良識のある人間なんだなと感じた。


「お若いのに。重ね重ね感謝申し上げます。」


「いえいえ、感謝される謂われもありませんよ。施してるつもりもありませんし。ずっとこの街にいるわけでもないので気にしないでください。私は十分にご飯が食べられますからね。使わないんですよ。未来ある若者に投資ってことで、ここはひとつ。」


「ありがとうございます。ルリ、子供たちと一緒に買い物にいってきなさい。お肉を買ってくるのですよ。」


「わかりましたー! じゃ何人かでいってきますー!」


 元気に駆け出していった。


「では今回も少ないですがこれを」


「ありがとうございます。えーと・・・この金額はちょっとこの孤児院では危険なので額を下げてもらうことは叶わないでしょうか。保管する場所もなく、ここを襲われたら子供たちを守れる力がないのです。」


 優理は自分が使わないからと言って、残りの全財産銀貨90枚を差し出した。一般人の数カ月分の給与になるだろうその金額。そんなもの裸金で持っていれば無力な子供たちや院長は襲われてしまう可能性もあるのだ。


「それは失礼しました。こちらの落ち度です。では、まだこの辺りで遊ぼうかと思っていますので、今回も前回と同じ額ってのはどうでしょう。これ以上は下げれません。」


「ありがとうございます。助かります。あなた様の信ずる神のお導きあらんことを」


 優理は前回と同じ銀貨20枚を渡し、この場を後にした。


「では、失礼します。」


 優理はスキルで孤児院の中にいる人物を確認していた。


 大きい反応はない。子供が8人、ルリと院長先生で10人だ。この小さな一軒家で過ごすとなると手狭に感じる事だろう。


 この世界の子供たちは10歳で成人の儀を受け、スキルや職業を授かると大人の中に入り、活動する。


 裕福な者は王立や主要都市にある学校へ行き、ある者はそのまま冒険者へ、冒険者ギルドの運営する学校なんてものもあったりするようだ。


 おそらく孤児院の子たちは冒険者になったり、どこかに下宿しながら仕事をしたりする生活をすることになるだろう。


 運よく仕事に有りつければ良いが、ここは大都会といってもいいほどに人が溢れており、相当な運がなければ何のスキルも経験もない者が就職できる先があることもないだろう。


 子供たちの中に、運よく上位の職業を引き当てた者がいれば、その人は王国に務める騎士にもなれるだろうし、冒険者として成功することも出来るかもしれない。


 生活に必須の職業ばかりではないが、世間の評価は完全実力主義と才能至上主義といっていいくらいには辛辣だ。


 優理のようにフィールドで税金も払わずお金を使わない生活ができればいいのだがなかなかそんな生活ができる人もおらず、想像すらしていないため夢物語の範囲の話になってしまう。


 優理が思考を続けながら、これもまた機会があればだなと打開策を頭の奥にしまい込み今度こそ冒険者ギルドにやってきたのだった。


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