第35話 以心伝心



 夜も深い時間といった事もあって、この辺りは歓楽街の明かりが眩しく、幻想的に見えて、気づけばまた歓楽街にやってきていた。


 エレーヌさんの魅惑の視線で17歳の若い衝動が再発動している状況では抑えるなんてことは無粋と言えるだろう・・・


 城門前にいた噂おじさんのおすすめの店がある場所まで歩いて進んでいく。



 辺境都市ゼフィストの歓楽街には様々な女性の店があり、男性の店も多数存在している。通称夜の中央街と言われる場所では所謂芸者さんみたいな人と食事やお酒を飲んでそのまま・・・といった店から、店内の個室でそのまま・・・といった事ができる場所など色んなところがあるとキャッチの人が言っていた。飲んでよし、遊んでよし、そのまましてもよしの素晴らしいところだ。


 昼の中央街は、公衆浴場だけどね!!!!!

 

 冒険者はいい稼ぎが入ったときは、たまにの贅沢で利用することが多く。商人など余裕のあるものは各町にある歓楽街の店で過ごすのもステータスのように感じている者もいるほどだ。こんな中でも金貨を超えてくるような店で遊べる者は、成功者といっても過言ではなく、そのステータスに自信を持つことができる側面もある。


 優理が噂おじさんから冒険者になって余裕ができたら必ずいってみなさいとおすすめされた場所にいってみると中規模くらいの店舗の外装だがしっかりと護衛もついていて、中には執事のような受付や接客係のものもいるサービスのいい店だった。



 店の名前は「今宵の恋人」



 衣装を見る限りバリバリのドレスだし特別恋人のようなイメクラでもないようだが、所属している女性の性格も良く、商売している経営者も人格者であり、最高の一夜が過ごせる場所と噂おじさんが言っていた。

 


 あいつはきっとスケベなんだろうと失礼な事を思い浮かべながら初めての異世界のお店に股間を熱くさせる優理だった。



「いらっしゃいませ、旦那様」


「今宵はどういったお相手をご希望でしょうか」



 入店して驚いたのは、お相手してくれる嬢がサイドラインに並んでいたことだ。恐らくランクの高いものはあのひな壇に立っているものだろうと感じさせる。


 目で見て相手を選べるとは、最高じゃないか・・・と優理が無表情で考えていた際に一人の女の子と目が合って、その子と見つめあってしまった。


「お客様? えーとあの子をご指名したいとのことでよろしかったですか?」


 数瞬考え、 「よろしくおねがいします。」と告げ、料金システムやプレイの内容、その他禁止事項などを確認した。


「2時間で」と言い、料金の支払いを済ませると、ボーイのような人物は安堵したような顔で、「楽しんで」とほほ笑みかけてくれたのだ。


 サービスのいい店だからこそ、お客を見た目で判断しない、そんなところがこの店の良さでもあるのだろうと勝手に評価を上げた。


 では、と目の前にさきほどの女の子がやってきて、腕に手を回してきたのち部屋へと案内してくれた。


 内装の調度品も丁度よく、ゆっくり過ごせそうな色合いの綺麗な個室だった。


「初めまして旦那様。私はメリルと申します。今夜のお相手をさせていただきます。」


「ああ・・・」


 メリルと名乗った女性は、黒髪を前下がりボブにしたパッツンの髪型で、優理の好きな髪型だった。整った顔で控え目な女性という印象があり、右目の下に泣きぼくろがあり、すごくいい匂いがした。黒のドレスを身に纏い、優しい声で話しかけてくれた。


 優理は黒髪ぱっつんが大好きだ。愛していると言ってもいいくらいに好きだ。それだけで魅力30%アップである。


 



 軽いエチケットを済ませたあと、二人ベッドに座り、見つめあう。


 優しく首元に腕を回してきたメリルにドキっとしながら


 目を閉じて近づいてきた彼女と優しくキスをした。


 とてもゆっくり優しくしてくれたキスに、徐々に心が溶けていくような感覚を覚え


 いつの間にか、興奮より、親愛のようなものを疑似的に感じていたのだ。


 そのまま横向きに二人ともベッドに寝転がり


 思い思いに抱き寄せ、キスをしていった。



 気づいたときには二人とも服を脱いでいて


 導かれるように 彼女の身体に誘われていた。


 素肌で優しく肌を触れ合わせた時











 優理はこの世界にきて初めて感じる









 よくわからない複雑な幸福感と虚無感と安心感から涙を流して泣いてしまった。





「旦那様?」





 メリルは何も聞かずに胸を差し出し、抱き寄せてくれた。久しく触れることのなかった優しさに、涙が止まらず優理は気が済むまで胸の中で泣いたのだった。





「ありがとう」





 そう告げると優理は、また彼女とキスをして、抱き寄せた。





「大丈夫ですよ、大丈夫」





 何を想像しているのかは知らないが、この言葉が優理にはすごく突き刺さった。謎の不安、緊張感、色々な負の感情が溶けていくのを感じ、優理が身体の力を全部脱力させると、優理はそのまま寝てしまった。



 メリルはそんな優理を起こさず、抱き寄せ、ずっと頭を撫でてくれていたのだった。








「旦那様、申し訳ございません。お時間になってしまいました。」



「ああ、ありがとう、いいんだ、幸せだったありがとう」



「お力になれて嬉しいです。」



「これはお礼だ。感謝している。受け取ってほしい。」



メリルにチップを金貨1枚渡し、最高の夜のお供に感謝した。



 メリルはまた会いましょうとは言わなかった。二人は服を着て外に出て、入り口フロアに向かう道で、キスをした。


 それだけで伝わったような気がしたのだ。


 ずっとメリルが手を握ってくれていたので、手汗がびっしょりなのに気づいたのは外に出てからだった。



 またのご利用お待ちしております、と優しそうなイケメンボーイに言われ、感謝の印として、少ないがチップをボーイに銀貨5枚ほど払い、「最高の夜だったよ」と耳打ちして帰った。



 この貧乏そうな見た目の男に苦言しないで、きちんと接客した男の勇気とプロ意識を買ったのだ。気持ちよく過ごせたのはこの男のおかげが半数以上を占めていることだろう。



 機会があればまた来ようと、密かに誓うのだった。





<メリル>


 暖かい人だった。



 この冒険者の多い街で、こうゆう仕事をしていると乱暴にされることも多い。たまには出禁になるが、殴ってきた人がいたこともあった。



 今までも優しく接してくれる人もいたし、プレイより話しが好きな人も沢山いた。



 ただ彼みたいな人に会うのは初めてだった。3言しか発してないし、名前もどうゆう人かもわからない。少し話してみたかった。



 これまでも泣いている人もいたのはいたけど彼のように何も語らないお客様は少なかった。




 ただ




 彼の力になりたいと。メリルは強く思った。



 そんなに恋愛の経験があるわけでもなかったが、一生懸命、彼を励ましたい。



 そんな気持ちで行動したのだ。



 最初から割れ物に触るかのように優しく触れられて、私も彼を優しくしようと

考えて、そこからは何も考えていない。


 

 導かれるままに、ただ思ったように、彼が喜んでくれるように。

 


 私は彼の心の隙間を埋めることが出来たのだろうか



 でもなんとなくわかる。きっと埋めれた。伝わっている。なぜなら私にも彼の気持ちが伝わってきたから。私は後悔はしない。





 でも 







 もしまた会えるならわたしは








「なんか寝てて終わっちまったな」


 異世界初体験、大失敗である。誰か僕の童貞をもらってください。


「ふう、まぁある意味いい経験か、今日は宿に帰って眠るとするか」


 こうして優理の初体験は、見事に失敗したのだった






「だが噂おじさん。てめーはだめだ。今度からすけべおじさんに改名な」


 すけべおじさんに感謝しながらも、おじさんの評価を上方修正した。

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