第29話 ホーンラビットの香草炭火焼き

「おはよー。今日は昨日の続きと、薬草採取だな。朝になったら風呂入るのめんどきくさくなったな。夜汗かいたあとに入るか。」


 資料室で薬草は鮮度が大事といっていたので、実験も踏まえて何個かずつ採取していこうと思う。天日干ししたらどうなるのか、焼いたらどんな匂いになるのか色々な種類を試してみよう。あとはとっておきのキノコだ。


 森でずっと布袋に入っていたからダメになっているかもしれないが、一応見た感じは採った時から変化はなく、充分に食べられそうだ。今日一日土プレートの上に草を引いてその上で乾燥させてみることにした。


 昨日薬草を見た場所は大体わかっているので、採取に向かう。


 一般的に薬草は魔素を多分に含んだもので、ポーションの材料になるがその中でもこの近くにある薬草は下級ポーションの材料になるものが生えていた。

 

 魔素を含む量が多ければ多いほど、上位のポーションを作る材料になるが、錬金術のレシピもスキルも技術もない優理には使うことができない。

 

 薬草はそのままつぶして水に混ぜても薬草としての効果は発揮する。


 一般の低級冒険者はポーションを買うお金がない者などは、薬草をそのまま口に含み、噛むことで唾液と交わり、傷薬として機能する、苦いが特にこの方法が一般的な処置としては十分に有効だ。


 持ち合わせがなくてもその辺に生えている薬草があれば傷薬になるので、比較的安価で手に入ることも含めて、冒険者の知識としては常識の知識と言える。

 

 その他としては解毒草、これもこのままで効果を発揮する。麻痺草や毒草、眠り草などはそのまま服用すれば大変なことになるので、錬金術の素材としての価値が高いものとなる。

 

「このあたりだな。さて定点狩りしながら採取するか。」



 走って範囲10分程度を高速で移動しながら魔物を倒し、見つけた薬草を採取する。とりすぎないように気を付けながら採取し、魔物を倒していく。

 

 魔物の死体は火属性の練習もかねて、ゴブリンだけ焼いて処理している。なんとなくだ。定点狩りは2時間ほどで終わり、身体に充実した幸福感が満たされた感じがあったのでおそらくレベルがあがったのだろうと理解し、キリがいいので一旦拠点へと帰った。


「まじで人に会わないな。会っても困るけど」


 ここ数日ここで狩りしているが、言ってもこの辺りは都市から1日半から2日の距離だ。1日に2~3時間しか狩りをしていないからと言っても、会ってもおかしくはないはずである。


 理由はこの場所が、先のエリアに繋がっていない場所であり、先に進んでも山しかない為。そしてその山にも登れないような場所だった。つまり誰にとっても理由のない場所だった為だ。

 

 低級冒険者はギルドの資料室や、先輩冒険者に話を聞いて、教えて貰った情報通りに行動するのがランク上げの一番の近道であるし正解であると認識しているため、危険を犯してまで違う行動はしないのだ。


 優理にとっては楽園であり、最高の狩場で、過ごしやすい場所であるが、他の冒険者は、普通に宿に帰りたいし、お酒だって飲みたい。装備も手入れしないといけないし、道具だって補充しないといけない。

 

 ずっと野営して魔物のはびこるフィールドにいるような者は、優理のように精神耐性を持っていて一人を好んでいるか、よほどの実力者か、変わり者か、盗賊などの犯罪者だけなのだ。


「おかげでこの辺りは理想郷となり果てていますけどねえ」


 優理がいうように、さきほどの背景がある冒険者のアルゴリズムにおいてこの辺は誰も採りに来ない豊富な素材の宝庫なのだ。


 割と優理の中ではこの辺に拠点兼補給地点のようなものを設けてもいいかもしれないと本気で思っていた。しかし自分が利用するのは当然だが、他の人に使われるのは嫌なので困ったものである。


 この辺りの草原には何故か鉱物も採取できる場所がある。草の上にそのまま生えているのだ。本当に意味がわからない。そこまで貴重な資源ではないとは思うのだが、 鉱物もあり、食料もあり、良質な水もあり、薬草もあり、気候もいい。いろいろな妄想も膨らむというものだ。


「さて」


 と言いながら実験の準備をする。今日の狩りの収穫は一般的な下級の解毒草に薬草が数種類、あと香草っぽいものが数種類、生えてきたので採ってきた。


 それにホーンラビットだ。


 まだホーンラビットしか食べていないのはウルフとかゴブリンとかコボルトとかは

なぜか食欲がわかないからだ。


 一般的にこの3種類にスライムなんかもだが、食用にむかない。コボルトなどは筋ばかりで食べる部分がないのもあるが、美味しくないのだ。優理も微妙に料理スキルを齧っているので、食材かどうかの判断は虫の知らせ程度にはわかるのだ。


 街でも取り扱っておらず、他の冒険者も討伐証明部位だけ狩ったあとは放置だ。他の魔物の餌である。危険のあるフィールドでは魔力の無駄遣いは死に直結する場合があるので、魔法を使って火葬したり土葬したりはしない。


 人や馬車が通る道なんかは魔物が寄ってきたら大変なので、火葬や土葬をやることが共通認識だと資料にあった。時間がない急ぎの場合は森なんかの奥まで捨てにいくようだ。


 フィールドによって強さは一定であるが、絶対はない。たまに上位フィールドからはぐれが散歩してきたり、襲ってきたりすることがある。


 その脅威にさらされる可能性が少しでもあるので、生存率をあげるため、MPの節約は基本なのだ。




 今日も食材のホーンラビットを狩って戻る間に少しだけ木の枝が落ちているのを拾って帰ったので焚き木に入れ、また余ったものは焚き木の横に継ぎ足し用に放置する。


 新設された解体場で、狩場で血抜きをしたホーンラビットを川に吊るし、川の流れに任せるようにして放置し、ホーンラビット自体の温度を冷やす、こうすることによって鮮度が保たれ、美味しく味わえるのだ。


 実験を開始する。


 そんな大した実験ではないが、まず草原の一部の草を刈り取り土魔法で整地した。その上に薬草を置いて、細かい石ころを上において飛ばされないようにし、天日干しをすることにした。


 これは全ての採取したものを少量ずつ置いておいた。


 そして焚き木に戻り、さきほど入れておいたものに火がついて火力があがったのを確認して、採取してきた薬草をひとつずつ入れ、匂いを確認していく。


 ほとんどが無臭のものばかりだったが、香草らしきものは匂いが何個か違うのがあったので、記憶しておく。

 

 次は炙っていく。こちらは生活魔法のリトルファイヤを使って行ったが、焼いたときと同じで、特に変化もなく、何もおもしろくなかった。


 次は埋めてみた。根っこから引っこ抜いてきた物をそのまま植える。確認が楽しみだ。 


 ある程度確認が終えたので、川から出したホーンラビットを解体し、肉だけになったホーンラビットに先ほど香りがよかった香草らしきものを塗りたくっていく。


 塗りこんでから、常温で風呂場の近くのタイルに置いて放置した。


 夜食の分の準備は完了である。


 いつも捨てているが、明日からは少し魔物の素材を採取していこうと思い。夜食の時間まで素材保管庫を作るようにした。


 土の壁を意識してアースウォールと呼称しながら魔法を使うと1メートル程度の壁が立った。感覚的に10分の1も魔力消費しなかったので、それを3箇所コの字になるように配置した。

 

 入り口部分は狭いのもあれだから閉じないが、50センチくらいの高さまで

レンガ状のものを置いていった。50センチ程度なら放り投げることも飛び越えることも可能だからだ。


 防犯上の仕組みはガバガバだが、別にとられても困らないし、素材が見つかるより拠点が見つかるほうが衝撃が大きい気がするので気にしないことにしている。

 

 素材の保管庫がある程度目途が立ったので。本日のメインホーンラビットの香草炭火焼きを作る作業に戻って料理した。ついでに干していたキノコも水で戻して炭火で焼いてみた。


 結果から言えば。1段階上の味というか


「くそうま・・・うめええええええ」


 涙が出るほどに美味しかったのだ。料理スキルが料理として機能したからか、香草を入れたことでレシピ強度があがり上位判定されたのか定かではないが、とにかく美味しかったので今日採った香草シリーズは鉄板の常備品に決定した。


 キノコも味はキノコで、食材そのままの味だったが濃厚な香りを味わえて香草焼きのお供に最高だった。何日かは食卓に連続で並びそうだ。


 今日はMPに余裕があったので、風呂もどきの近くのまだ整地していない部分を整地してそこに大きめの石を3つ置いて火魔法でガンガン焼いた。



 昨日川の水をせき止めてから丸1日近く立っているので、風呂の中はある程度は乾燥していた。せき止めていた部分を解放して、中にちょうど肩くらいまでの水を入れた。


 そこに今燃やした石を投入して、手で温度を確認した。熱量が足りなかったので、再度石を焼いて投入を4度、5度繰り返した辺りで前世で入っていた風呂の温度くらいにはなったので、さっそく服を脱いでフル〇ンで入ってみた。



「ふううう。 きもちいい・・・」



 まだ星が出る時間でもないが、夕方あたりで、涼しくなっている時間帯だったので約1カ月ぶりくらいに入るお湯の風呂は格別の気持ちよさだった。



「生き返るううう」

 


 死んでないが、死んだことはあるのだ。生き返るは優理にとっては色々な意味が含まれていただろう。



 ご飯を焼いて作った為。魔物が数匹近寄ってきていたが、今日はそれ以上は近寄って来ないようだ。この辺りの魔物が弱すぎてレベルあげになってないと思っていたが今日の幸福感を鑑みるとまだレベルが上がるレベル帯なのかもしれない。


 風呂で気が抜けているため、レベルあげのレベル帯がないのであれば一生ここでレベルあげしててもいいのかななんて妄想までしてしまうのだ。


 ただこの辺りの魔物では優理からご飯を奪うことができないのだと認識している可能性もあるので。あまりにレベルが違いすぎると襲ってこなくなるとすれば、美味しくないのではないかとも思っていた。



「そろそろ一カ月かー」



 異世界生活を満喫している優理は、今の状態に幸せを感じていた。好きに生きることが難しい現代日本では、生きる為に働き、自分の為に時間を使うこともなく、どこか窮屈に感じていた部分が多かった。


 日本でこうやって森に住んで、一人で過ごしてもきっと楽しくないだろう。


 剣と魔法の世界だから、こうやって過ごせているのもあるが、向こうには向こうの楽しみがあって、こっちにはこっちの楽しみがある。


 優理にこっちがむいていて、向こうでは楽しみを見つけることができなかった。ただそれだけのことだった。


 おそらく早々と魔物にやられていたとしても、チートのような加護がなくても優理はこちらの世界で過ごす事を望んだことだろう。


 前世はあまりに優理に優しくなかったのだ。



「さて、いい汗かいたし、軽く流すかな」


 

 このまま泥水状態は嫌なので、軽く川に飛び込んで洗い流し。クリーンの魔法で綺麗にし、服を来た。



 この日は昔を思い出し懐かしがりながら、焚き木の前に横になって寝たのだった。

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