第27話 魔導書を、読んだよ

「ふぁー、昨日は襲われなかったな。よく寝たなあ」


 現在は7時ごろで、朝日が気持ちいい今日もいい天気だ。優理は背伸びをしながら起き上がり、水魔法で顔を洗い、歯を磨いたあと、軽くストレッチや軽い運動をして昨日の事を思い返していた。


 優理は過保護神の保護があるので、基本的には野生の弱い魔物には襲われない。


 強い魔物は魔力や風、音など色々な方法で気配を察知するので見つかる可能性も高いが、優理は気配遮断のスキルに加えて、存在を隠蔽する加護がかかっている為動いてない場合は襲われる危険性は低いのだ。


 昨日はホーンラビットの死体を持ち歩いていたので襲い掛かってきていた。そんな事は知らないが、寝起きに絶対の自信がある優理はのんきに惚けているのだ。


「あまり先に進むと対応できない魔物がいるかもしれない。」


「先日の死体釣り放置狩りは効率が悪いが、野良のその辺にいる魔物を歩きながら狩って過ごすよりはましだったな。」


「ご飯時は食事をしながら狩りをして、それ以外は拠点になりそうな場所を探しながらすすむとするか」


 「よし」、と声を出し、拠点になりそうな場所を探すために移動を開始した。


 拠点が出来れば、ある程度無茶がやりやすくなるので、優理は拠点を中心に、少し離れたところまでいったら定点狩りを走りながらやることを考えていた。



 しばらく進むと細い川が見えてきたので休憩することにした。



 この川は膝くらいまでしかない川だが幅が5メートルくらいある川で、中は透き通って綺麗だった。魚とかは見えないし、食料になりそうなものもないが、優理はこの川が気に入った。



 運命的な初恋とも言えるほど気に入った。



 大きな目的もなく、急ぐ旅でもないので、靴を脱いで川に足を入れることにした。360度見渡せる状況だが、魔物の姿も遠くに見える為、警戒は怠らない。魔物が近づいてきた時の為に投げる石は、お尻の周りに沢山積み上げられている。



 ここで休憩がてら、シーナから貰った魔法書を読むことにした。



≪初級魔法書≫ 作者不明

 魔法とはこの世界のありとあらゆるところに存在しているマナエネルギー(魔力エネルギー)の魔素と、全ての生物の体内に内臓している魔力とを魔法陣などで融合し、物理的に起こりえない現象を無理やり発現する奇跡の事だ。

 

 基本属性の精霊、火、水、風、土の自然エネルギーを基本として、特殊な例だが光、闇の属性の存在も確認されている。

 

 この初級書の序盤では、その魔素を利用し、発現した魔法をコントロールする方法や自分の魔力を操作する訓練方法、簡単な基本属性の詠唱式などが書かれており、どれも簡単な初級のものばかりだ。


 そして一般的な方法こそ書かれているものの、ある意味根性論のような「根気よく継続すれば」「才能があるものは」などということが書かれていて、思わず優理は苦笑したのだ。


 この世界では種族的な要素で、先天的に授かる得意属性と。後発で努力により授かる属性とがあり、遺伝することが伝わっている。 


 ドワーフは土が、エルフは風を得意としていて。獣人族は魔法は得意ではなくその分肉体的な能力が高い、人族は基本的にどっちつかずで生まれによっては授かる可能性があるが、主に貴族や王族が多いようだ。


 理由としては貴族は顔や能力が優れた者を好み、戦略的な勾配を行い、いい遺伝子を自分の家に取り込み、遺伝を期待するといった事をずっと昔から当たり前のように繰り返しているためだ。


 属性による反発などもある為、勾配がうまくいったからといっても2属性、3属性持ちになるとも限らず、1属性で固めたからといって、1属性の天才になれるとも限らない。


 例えば火の属性の魔法を高火力で使う為には、安定した魔力操作の才能と努力、術式を理解する頭脳、高威力を放つだけのMP、火属性魔法の適正、魔力を受け入れるだけの精神力、魔力に対する感受性、器など色々な要素を兼ね備える事が必須である。


 この点だけ見ればソフィアやシーナが異常な存在だということがわかる。


 基本的に得意な属性についてこのように書かれている。得意な属性とは、その属性スキルに対しての経験値効率が良く、レベルがあがりやすいもののようで苦手な人が1から覚えるのとは、同じ経験値でもかなりの差があるようだ。

 

 前世の知識にあるようにイメージの力でどうにかなるかはわからないが。無詠唱や詠唱破棄ができる魔法のスペシャリストの存在も確認されているそうだ。


 

「なるほどねー。レベルあんじゃん。いいね。」




 優理の場合は過保護の影響で、最初から無詠唱が可能で、全てのスキル、全ての属性が得意属性にはなる為、どんな経験をしても成長幅は変わらない。努力さえすれば大魔法使い、剣聖、何にでもなれる可能性はある。


 本人にあまり向上心と根性がない為、あまり表にはでないだろうが。

 

 この世界には職業のスキルがあり、どんな人でも努力すれば様々なスキルを得ることが可能で、無理やりにでも理解、経験値を得て努力する事さえできれば基本全属性を持つことは不可能ではない。


 しかし、その分他の魔法やスキルに特化した人との差も開くので、器用貧乏になりやすくあまり目指す人は少ないようだ。


 高ランクのクエストになれば、手数より威力を求められる可能性も高くなる為、自ずと取得する者も少なくなっていった経緯があり特化型が常識とまでなっていた。




 ヒューッ   ブシュ




「まじか。おもろいやん」



 優理はたまーに寄ってくる魔物に投石を行いながら、初級書を読んでいたが、文字やわけのわからない魔法陣ばかりかかれている本に飽きてきたのか、途中で読むのをやめて休憩を終え、得た魔法の知識を実践することにした。



ボッ



「これが火属性か。魔力の操作がまだ覚束ないから球にもならないけど戦闘には使えそうだな。飛ばすより殴る時に・・・」



 優理は冒険者ギルドの資料室で生活魔法の資料を読み漁っている時のように自分の体内に知識や文字式、魔法陣が入っている感覚を味わっていた。


 初級魔法書を開いてから読んでいくうちに、基本属性の簡単な魔法の使い方がなんとなくわかるようになり、確かめるように、手のひらの上に炎をあげていた。



「これはなんとも不思議だ。いろんな角度から見てみたが、種も仕掛けもないようだ。出してる方の手は熱くないし。」



 水属性魔法をMP限界まで使ったりしていた経験があるので、今炎を出しっぱなしにしているこの状態でも内在する魔力量を消費しているのは感覚的に感じていた。

 

 それから優理は、土や風、火、水の魔法を練習することにして、たまにせまりくる魔物に投げてみたりして、遊んでいたのだった。



「そろそろ夜になりそうだな」



 優理はこの川の周辺が好きになった為、2、3日滞在することに決めた。



 自然に出来た川なので規則性などないただの水の通り道になっていたところを水が溢れないように魔力の土で盛り上げ舗装し、固める。


 周りの土を集めて傾斜をつけた場所に、その辺に転がっている岩を集めところどころに土を入れて固めていく。


 今日は寝れればいいので、一人入れそうな穴を開けて周りを土で囲み寝床を確保した。


 そしてライトの魔法を使い、昼間から襲ってきていた中にホーンラビットがいるのを確認していたので、回収してきて、川で解体したのち、細くカットし、火魔法で炙ってその日の晩飯とした。


 クリーンのスキルを使い身体を清めてから、休むことにした。

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