第26話 自炊? 燻製はいいよ燻製は

 

 時刻もおやつ時にさしかかったので、さすがにお腹がすいてきた。



 遠目で見ても平原に終わりが見える気配がないので、ここで昼食をとることにした。もう一日で街まで帰れる範囲は超えているので、周りには誰もいない。


 

 優理は近くの座れるサイズの石ころの近くに座り、水魔法で水を生み出し飲み干す。危険なバトルフィールドだというのに「ぷはー」とCMが来そうなほどの爽快感を醸しながら休憩している。


 最初は手に湧き出る程度であったクリエイトウォーターだが、毎日繰り返し行っていたおかげかわからないがいまでは空中に留まらせたままそのまま口の中に運び込みそのまま飲み込んだり、空中に浮かせた水魔法に穴を開けてシャワーのような使い方もできるようになっていた。


 攻撃魔法として使うこともおそらくできるが、優理はもっぱらこの使い方しかしていなかったし、他の魔法使いの魔法を見た事がない為、今までの経験としては下水掃除の時にやっていた強いホースの水くらいの勢いしか使った事はない。


 近くに見えるのは草ばかりで、まな板にするものもなにもない。思っていたより何もない草原地帯で、周りを見渡す限りの草。草草草。湖や大きい木などもなく、変わり映えのない景色が広がっている。


 仕方がないので地面にそのまま置き、さきほど布袋に入れたままにしていたホーンラビットをとりだした。生暖かいままの状態では気持ちが悪いため、一旦水を空中に出現させ、ホーンラビットの身体を水の中へと突っ込んだ。


 その状態で10分程度冷やしていたら、首の方から血の出る量が減ってきたので、初の解体をやってみることにした。


 じわりと出てくる汗に、手を洗うついでに常温の生み出した水で首や腕をも洗うと、風が吹いた時に涼しく気持ちがよかった。


 下は固定するものはないが、草が生えているのでそのまま土というわけでもない。草を横に癖つけてその上にホーンラビットを寝かせ、解体を始めた。


 ガイヤスの剣、初登場である。


 解体の経験を思い出すように皮と肉を切り出し、内臓を外へと出した。討伐部位の角は初解体の思い出として、綺麗に洗った後、乾かした後に布袋に入れ保管することにした。

 

 ふと小さな気配を感じ、周りを見てみると、ウルフが匂いに釣られて近づいてきていたので、石を投合して瞬殺した。血の匂いに惹かれて、このまま辺り一面狩り続けると夜になる頃には囲まれて大変になるんじゃないかと妄想したところで思考から切り離した。

 

 ガイヤスの短剣は、恐ろしいほどの切れ味で、ぼろぼろの短剣とかいってごめんなさいと心の中でガイヤスに謝りながらも感謝して使うことにした。


 この剣のおかげで不器用ながらも一枚肉に切り分ける事ができた。お腹が空いているので、全て焼いていこうと思う。


 イメージは先日食べた串肉で、ちかくに刺すものもないのでさきほど洗ったホーンラビットの角に全ての肉を刺して用意は完成した。あとはその辺の生草を、集めに集めまくって生活魔法のリトルファイヤで火を起こし。燻製にすることにした。



 生草は最初燃えるわけがないと思って燃やしてみたらじんわりだが燃えたので、しつこく火をつけたら微量ではあるがなんとか周りにも燃え広がり、煙くらいなら出せる程度の温度は発生させていた。


 優理は知らないが、魔物の多く住むフィールドでは、魔物の血や死体などから放出した魔素が大地に溶け込み、魔素の濃度が濃い場所がわりと普通にあり、そういう場所で育った雑草は多分な魔素を含んでいる。


 熱素と生草に含まれる微量の魔素が反応して燃えていただけで、実際生草はあまり燃えていないのだが、肉が焼ければいいので優理は気にしていなかったのである。

 


 焼いていると、何匹か魔物が集まってきたこともあったが、全て投合で撃退し、死体をそのまま放置している為に、また血の匂いに集まるという悪循環が生まれていたが、魔物の数が少ないこの場所でレベリングをするなら、この方法もありだな、とニヒルな顔でそんな事を考えながら、燻製とレベリングを続ける優理だった。


 焼くのに飽きてきた頃には、もう夕暮れ時で、うっすら周りも暗くなってきていた。


 

 ふたのない低温調理で、調味料なしという、何の期待も持てない環境で、飽きてしまうのは仕方がないことだが、昼時に想像していたことが、現在そのままの事が起きていた。


 

 モンスターパーティーとまでは言わないが、5分に一回程度にはモンスターがモンスターを連れだってやってくるので、来るたびに何度も地面に置いているためもう燻製じゃなく直火焼きのようになっていて、草まみれなのに加え、土もついているくらいの料理になり下がっていた。


 最初はちょっと焼いてすぐ寝床探しをするつもりだったが。乾燥したものがない場所で焚き木をしても火がそこまで強くなく、加えて時々襲い掛かってくる魔物のせいで集中力が切れ、もはや時間すら気にせず惰性でだらだらと焼いているのだ。



 5時間近くこの場所で釣り狩りをしているのもあってさすがにお腹もすいたし飽きてきていた優理は、もう完成といっていいのでは と考えて串肉の方を見て自嘲していた。



 さすがの優理の計画性のなさだが、本日寝る拠点は見つかっておらず、寝る予定の場所の周りはモンスターの死体だらけ。匂いもひどくなってきている。



 つれだって風下の方からは野生の獣や魔物もやってきている。



「もう・・・・いいだろ。食べる! いただきま  うまあああい!!!」



 テンション爆上がりである。



 優理はこの6時間近くずっと料理を続けていた。思ってもいないだろうが、料理の経験値を過保護な大女神の寵愛の取得経験値上昇効果で料理スキルが2にあがっていた。思わぬ副産物である。


 このスキルの面白いところは、見た目がどんなものであれ、スキルレベルが高いと美味しいと感じさせるところにある。それに加えて優理には毒耐性があり、生肉をそのまま食べても美味しく頂く事が出来るだろう。



 実際的に美味しくなった一番の原因としては、実は燻製の工程ではなく、ホーンラビットの角にある。熱を含んだホーンラビットの角が内側から肉を温め、内からも外からも温められたお肉は、外はよく焼きで、中は柔らかくしっとり具合に焼けていた。



 口に含むと肉の旨味があふれだし、咀嚼すればするほどに肉汁が溢れてくる。空腹は最高のスパイス。もともと優理はそんなに食が太い方ではなく一日に一回で済ませるときもある為、そんなに苦痛に感じないが、初めての自らが異世界で作った料理で、しかも野外で食べる幸せ。加えて6時間調理である。



 気づけばうさぎ一頭分 ぺろりと食べてしまった。



「ふう、幸せだ。」



 優理が一人でいる時は基本的に表情に豊かなのだ。満足げな笑みを浮かべ、異世界のまだ見ぬ食材に想像を膨らませる。



「・・・人が幸せな気分に浸ってるっていうのによ ライト」



 料理はもう胃袋の中であるが、生の共食いすらする魔物の生態系上、腹に入ってようが、関係ないのである。



 完全に夜間になっており、目に見えないが気配は魔物であるシグナルを表していた。ライトの明かりでは近くまでしか見えないが、十分だった。



 ウルフが複数等襲ってきたが、ウルフも単純な攻撃しかしてこない為、ホーンラビットの倒し方と同じような倒し方で全て撃退した。



「さすがにこれだけ近くに死体があると寝たくないな・・・」



 夜の戦闘にそこまで不都合なところを感じなかった優理は少し離れた風上の方側に移動を開始した。



「若干だけ・・様子見して静かに襲ってくるあたり、夜の魔物って感じだな。」



 そこまで量がいるわけではないが、夜の魔物は身と声を潜めて襲ってきていた。お腹がいっぱいな優理はまだまだ元気であるが、さすがに昼間6時間ほど歩いたこともあり、ゆっくりしたいとは感じていた。


 1時間ほど歩いたあたりでごつごつとした岩が草原の上に散らばってる印象のある場所に変わってきた。そこでライトの光量をあげ、いい場所を探していると、人一人分の隙間のある窪みのある場所を見つけた。


 今夜は警戒しながら、ここで休むこととし、静かにその窪みに挟まって寝転んで眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る