第三章 ゼフィスト大平原 編
第25話 初心者の諸君頑張り給えよ
――プリモの止まり木亭
「では、お世話になりました。」
「おにーさーん! またきてねー!」
「ああ、ここにきたら寄ることにするよ。約束だ。」
「わーい! プリモ待ってるねー!」
「あはは! プリモはユリエスさんが大好きだなー!」
「ふふ。そうね、気を付けていってらっしゃいね」
「はい、いってきます。」
怒るプリモちゃんを二人で宥めながら「いってらっしゃーい!」と3人仲良く似たような感じで手を振り見送ってくれた。本当に仲の良い暖かい家族だと感じた。
「さて、冒険者ギルド、いきますか」
感傷に浸りながら(真顔)、優理は冒険者ギルドへ向かった。
「そうですか、寂しくなりますね。」
「はい、でもこの街も気に入ったので、またふらっと来ると思いますよ。」
「ふふ、そうですか。お待ちしておりますよ。」
「では」
(ユリエスさんはこの街には残りませんでしたか。元より出自もわからないミステリアスな方ではありましたが・・・)
(それよりギルドに来た時に常駐依頼ばかり見ていらしたので、もしかしたら素材を卸しに立ち寄ってくれるかもしれませんね。)
(少し寂しいですが、気長にお待ちすることにしましょう)
優理はギルドを出て、大平原のある東方へと向かったのだった。
城門を出ると平原が広がっているが、馬車が通ることもあり主要な道は塗装ほどではないが、簡単な整備はされている。
優理の目には3手に分かれる道路が見える。城門は南を向いており、東と西と南に向かって伸びている。西側にある道路が一番大きく、綺麗に舗装されている。
一つは冒険者が通う南東への道、魔獣の森への道だ。これは馬車持ちの冒険者や歩く冒険者がそこを通ることが多いのでできた道で、正式な国道ではない。
もう一つは王都へとつながっている西側向きの国道だ。西の方へ進むと橋やゼフィストとは発展形態が全くちがう街があり、貿易の緩衝地域で商業の都市としても発展しながらも、もともとの土地柄もあって農民が多く住んでおり、農畜が盛んな場所でもある。その先の先のずっと先にあるのが、王都だ。
最後の道。こちらの東から北にのびた道も正式な国道ではないが、優理の目的地である、大平原へも通じている道でもある。正確にいうと一般人に解放されている北門がない為に、南門から出入りしているが。実際はゼフィストの北側すべてが初心者の狩場となる。
ゼフィスト大平原とは南は魔獣も森から出たところから、西は最初に森の中で優理が南下しながら目印にしていた川が北にのびた先にある川まで、東は魔獣の森と標高の高い山脈がある場所まで、これら全てが大平原と呼ばれている。
この大平原は、とても広大な土地があり、自然豊かで見るものの心を綺麗にしてくれるような絶景であるのと同時に、危険な魔物もそこらへんに跋扈しているというデンジャラスな平原でもある。
ゼフィスト近くの平原は草原地帯になっており、割と初級冒険者でも練習ができるほどの強さの魔物が生息している。行きも帰りも日帰りコースなので、Fランク以下の冒険者の狩場であり、恰好の練習コースでもある。たまに時間を忘れ狩りに熱くなったパーティーが街の周辺でテントを張って泊まっているのもご愛敬だ。
それから少し奥に進むとごつごつした岩がむき出しになったり、幹の大きい木々が荒々しく聳え立っていたりと、風景も変わっていく。さらに数日歩き続け奥にいく魔物も小型のものも現れるようになる。鶏系や、もぐら、アリ、へび、とゴブリン、ハリネズミなど種類も増え、上位種もちらほら現れる。
小型の人型の魔物だけではないが、知識がある魔物も生息している為、必ずパーティーで挑戦するとのがセオリーになり、DランクやCランクの冒険者が稼いでいる場所だ。
もう少し先のフィールドは湖の地帯と湿地帯、干ばつした台地のむき出しになった場所などが現れる。
ここには中型の魔物しか住んでおらず、弱肉強食を絵にかいたような強い魔物同士が、己の武力や知力で味方を増やし、集団などで自分たちのテリトリーを確保して生存競争をしている。
魔物も狡猾で、スキルや武器を使ってくる魔物は当たり前にいて、生きるのに必死なため、必ずどの個体も強い。
下級竜のBランク魔物ワイバーンなどイレギュラーな魔物が自然災害のようにごくたまにふらっと来て空から襲撃して来ることもあり、命の危険性が非常に高い場所である。
Bランクの自信のあるものでもソロでは望めない地帯だ。Cランクパーティーの連携を持ってあたるのがセオリーになる。
そこから先は未知の領域となっている。一年中、竜巻が吹いていたり、雪が急に振ってきたり、地面からマグマが噴き出してきたり、息も出来ないほどの豪雨が降り続ける場所もあるところだ。
明らかに濃密な魔素が天候すらも狂わせてくる為。一般的には災害レベルの場所なので誰もいきつく者はいない。人族では不可能領域とされている場所だ。
噂では手つかずの鉱石があったり、見たこともないような宝石、創世記時代の武器や魔道具や魔物の化石などが眠っているんじゃないかと噂されていたりする。たまに夢みた冒険者が向かっているが、帰ってきたものは一人もいないとされている。
ここに住むのは世界最強種のドラゴンだ。下級の竜ではなく、龍、上位の龍だ。嵐の中でも平然と移動し、濃密な魔素の中でも平然と息をするように人族に有害な濃い濃度の魔素を食事とするような種族だ。基本テリトリー内に入ってこないものは攻撃するような種族ではないので、触らぬドラゴンに祟りなしというわけだ。
その他種族の頂点と言われる最上位種も独自の生存方法で生き残っているが、活動範囲が洞窟や地下空洞に限るので、ほとんど目撃情報すらないものだ。
優理が東に向かい、道なりに歩いて半日ほどでゼフィスト大平原の狩場、ゼフィスト北草原へとたどり着いた。
なんとなく嫌な予感はしていたのだが、やはりと言っていい程度には大人気の場所のようだ。
狩る人数も多いことから、魔物の数が少数しかおらず、狩場として考えると非常においしくない状態にごった返していた。
ここまでくる間に、スライムを倒した。こちらの世界のスライムはどろどろした水たまりのようなタイプだったが、すごく動きも遅く、地面を酸で溶かして、たまに少し飛んでのそのそと追いかけてくる程度で、魔物として脅威に感じなかったので、踏みつぶして捨ててきてしまった。
優理が経験したいのは、熱き戦闘であって、動かぬ的に矢を入りたいわけではないのであまり気乗りがしないのだ。
スライムの他には、コボルトという小さな犬人みたいな敵が一匹ずつかかってきた。森にいたウルフの方が早いくらいだったので、特に脅威には感じなかったが、ゴブリンにはない身軽な人型魔物の攻撃に対処する訓練をし、例の如く捨ててきた。
あと宿屋で食べたことのある魔物、ホーンラビットという魔物だが、一角獣の得意な角を使って自身の身軽な突進攻撃と合わせて突っこんできた。これは少し焦ったが、そんなに早く動く敵でもなかったので、直線的な突進を避ける練習をして、避ける際にカウンターを入れる訓練をすることにした。久しぶりにこん棒ランスの出番があったので、大活躍で嬉しかった。
今夜の晩飯にでもしようと思い、首をランスで突いて引き裂き、逆さにして血を出したあとに水魔法で洗って布袋の中にそのまま入れてある。
環境穏やかな大平原の浅い層とはいえ、水たまりの池や川などは存在していると思うので、早くも今日の泊まる場所を確保しようと、大平原で戦っている同僚をみながらそんなことを考えていた。
しばらく進んだ先で、優理は襲い掛かってきた魔物だけを相手しながら呑気に景色を見ながら歩いていた。
周りの冒険者の数は少なくなってきたが、まだ往復一日圏内な場所なのでちらほらいたりはする。若い冒険者が多く、精神年齢34歳のおっさんの優理としては微笑ましく感じ、その様子を横目に見ながら歩いていく。
「そういえば・・・」
優理がロールプレイングゲームをプレイする時は、ダンジョンとかマップ内を探索する際、効率とか度外視で、端っこから攻めるようにしていた。
宝箱を取り逃がしたくないというより、作り手が作ったフィールドをすべて楽しまないと勿体ない、といった気持ちからの行動だった。
毒の沼の中に入っていって、中に何もなかったりしても、それも含めてないのを確認できたことが満足であったし、その階層を理解しないまま下の階層まで落とされたりすると非常にもやもやした気持ちになった事もあった。
この広大な大平原を走破しようとしたら何年経ってもできないし、ステータス画面にマップとかもないので、正直ど真ん中とかいったら迷って帰ってこれないと思う。
だからここの全てを把握したいというわけではないが、ただの草原を適当に歩くだけでは面白くないので、優理は方向を転換し、端っこを目指し歩き出した。
優理が呑気に空や景色を眺めながら歩き去っていったあと、新人冒険者や指導していた中級冒険者はみなある感情に支配されていた。それもそのはずで。
優理は手にこん棒のような物を持ってはいるものの、防具などは何も装備しておらずアンガスから貰ったカジュアル気味の服を着て、お供もつけずに一人で平原の奥に向かっていったのだ。
(なんなんだあいつは・・・・)
優理のバトルフィールドの中とは思えないほどラフな格好、散歩でもしてるかのような呑気に鼻歌でも歌いそうなほどの能天気な雰囲気。しばらく冒険者たちは思考していたがバトルフィールドでの油断は命取りというのもあり、気を引き締めなおし、本日の成果を挙げる為戦闘を続けるのだった。
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