第23話 解体初体験の話
優理は朝の雑踏の中、一人掲示板の横にあるパーティー掲示板の前にいた。
腕を組んで仁王立ちで考えてる振りをしていたら何組かのパーティーに誘われたが冒険をしたくてこの場所にいるわけではないので「大丈夫です」の一点突破で押しとおったが「冷やかしかよ」って言ってきた人もいたが、そんな人とはどうせ性格も相性も合わないのでスルーすることにした。放っておいてほしい。
掲示板には
“前衛の後ろの位置でパーティーを支える中衛職募集”
“料理や野営が出来るサポーターかポーター募集”
“魔法系の後衛か、弓系の後衛募集”
“彼女募集、一生守られたい方Cランク冒険者ソルスまで”
“いっしょにやくそうさいしゅいきませんか@2名”
などといった様々な募集が張り出されており、パーティーメンバー募集がメインで、次に1度限りの野良のパーティーでのクエストの手伝い募集などの募集が大半を占めていて、その前に立つ冒険者などが声を荒げて自分の宣伝や呼び込みをしている姿があった。
ここでは真剣みのある募集が多いようだ。解体を手伝う用途で参加するという能天気な人はいない雰囲気を感じて悲しかった。ここに張り出してもいいが、待つほどの時間も叫ぶ勇気もない。大人しく受付にいくことにした。
「おはようございます。」
「おはようございます。ユリエスさん。朝早くから珍しいですね。今朝はどんなご予定ですか?」
「聞きたいことがあって」
「そうですか。長くなりそうでしたら別室へ案内いたしますが?」
「いえ、解体をやってみたいんですけど、依頼したら誰か教えてくれる方はいますか?」
「そうなんですね。うーん。解体するだけなら色々方法はありますが・・ちょっと待ってくださいね。・・・・・えーと、解体を手伝うもしくは習いたい、という事で間違いないでしょうか?」
「はい」
「・・・それでしたら初心者講習もございますが、ユリエスさんの場合は初心者講習はいらないけど解体がやりたいって感じだと思いますが、合ってますか?」
「そうですね。解体したことないので」
「畏まりました。ちょっと解体所の方に聞いてきますね、少々お待ちください。」
そう言って出来る女性リュナ受付嬢はその場から立ち去った。リュナ目当てで朝の激励を貰おうと考えていた者たちは、時間がかかるであろう案件を持ってきたであろう人物、優理に訝しげな目を向けながら、依頼に遅れるわけにもいかないのですぐさま他の列へと並び直していた。
そんな目線には気づいていたが、男の視線には興味はなく、ただ時間を潰すのもあれなので他の受付嬢がどんな仕事しているのか、真剣な表情で見つめることにした。
「「「!」」」
他の受付嬢はリュナのお気に入りが自分たちの事を見ている現状に、緊張半分気合半分で、どうせなら良く思われたい一心で、本気で仕事に取り組んだ。
その日の上司は、部下のその仕事ぶりに感心して気分がよくなり、自腹で貴族区にある高級店のお菓子をごちそうしたという事があったのはまた別のお話だ。
そんな事になることなぞ想像もしていない優理は、異世界の事務仕事も市役所みたいな感じで大変だなーと思いながら呆けていた。
「お待たせしました。特別に解体所の入室許可がおりましたので、解体所の方までお越しください。」
「ありがとうございます」
冒険者が狩った魔物を見せるということは、傷などから自分の実力、攻撃手段、メイン武器、技術、思考、色々な情報を吐露することになるので、一般的には見せられる物ではないはずだ。冒険者にとって武器や情報というのは商売道具であり、命の次に重い。しかしリュナは許可をとってきてしまった。さすが人気受付嬢は伊達ではない。
解体場では、デレデレした冒険者がリュナに話しかけており、この冒険者が今回解体を見学させてくれる冒険者であることは一目でわかった。
「ユリエスさん。こちらの冒険者ダレスさんのご厚意で、今回狩った魔物を解体するのを見学、体験させてもらうことになりました。」
「おう、兄ちゃんが例の新人冒険者か。俺はダレスってんだ。よろしくな」
「よろしくお願いします。ご教授願います。」
ダレスは見た目強面のスキンヘッドの男だ。盛り上がった肩の筋肉から繰り出される攻撃は他の者に引けを取らない瞬間火力を持っているが、見た目からは想像できないがダレスの真骨頂は冷静な判断力と知識量を活かした戦闘方法で、魔物の急所、素材を活かす方法、様々な方法を用いて、筋肉ごり押しではない素早さ重視での狩りを行う。解体師、ギルド職員、商人、職人、素材に関わる全ての人間が感謝する立ち回りといっていいだろう。
今回解体する魔物は急所や討伐部位、魔石部分を集中して綺麗に討伐されていた。
「おう、そんじゃ昨日狩ったやつ出すからよ。パパっとやってくか。まず俺がやってみるからよこっちにきて真似してやってみな。見てても仕方ないだろ? 失敗してもギルドが保証してくれることになってるから気にしないで挑戦してくれ。」
「わかりました。お願いします」
「まずはここのところをだな・・・・・・」
ダレスの説明は分かり易く教え方も最高にうまかった。何度も失敗したが前世の料理の仕込みをしていた時のイメージで解体を行っていくと思い通りに刃が入る感触があった。
「おう。筋がいいじゃねーか。次はこっちだ」
「がんばります」
ダレスはおそらく高ランクの冒険者であろう。それもそのはず目の前には見たことも聞いた事もないような魔物で溢れていた。
マジックバックを所有している時点で名のある冒険者であろうことはわかりきっているのだが、解体の授業中全ての技術を盗むつもりで挑んでいる優理はそんな事気にするどころか眼中になかった。
途中から無心で何言われたのかもわからないくらいに集中していたが、なぜか教わらなくてもどこを切って何を出せば素材が悪くならないかがわかるようになってきて楽しくなってきた。
なんか声をかけられているが、無心で行っている為、聞こえてこない。そうして何分間経ったか、何時間経ったのかわからないが、全ての魔物の解体が終わった。マジックバックのような物から次の魔物が出てくることがなくなったのだ。
こうして初めての解体作業は終了した。
「・・・・おいおまえ。解体ほんとに初めてか? 途中から話しかけても集中してて聞こえてなかったみたいだったが・・」
「はい、初めて魔物に刃を入れました」
「そうかそうか。それはまぁなんともまぁ。とりあえずこんな感じだ。楽しかったか?」
「そうですね。楽しかったと思います」
「じゃこれで依頼は終了だ。おつかれさん」
「はい。ありがとうございました。リュナさんもありがとうございました。」
「え、ええ、力になれてよかったわ。また何かあったら気軽に声をかけてちょうだい。」
「はい。失礼します。」
あまりの出来事に状況を整理するので頭がいっぱいで空返事になっているリュナはギルド職員である事を忘れ、素の返事を返していることにも気づいていなかった。
<リュナ>
本当に・・・彼は飽きないわ。あの子の話が本当だったとしたら彼の職業は生産系、さらに解体に特化した職業でなければおかしいくらいに凄まじいわ。初めて? 冗談じゃない。
解体のスキルが何匹目で取れたのかわからないけど、恐ろしいくらいに技術の吸収が早すぎる・・・。粗削りなところはあるにせよまだ初日、そして初体験。速度、精度、品質・・・申し分ないわ。
解体に関してだけを言えば天才レベルの才能ね。
普通、見たこともない魔物の解体なんて出来ないわ・・・ダレスがいるから横で見るだけでも勉強になるかと思ってたのだけどね。
相変わらず想像の斜め上を行くわね彼は。
まぁダレスはギルドの職員も兼任しているから口外することはないだろうけど。ギルド長とかにはすぐ見つかっちゃうかもね。
他の受付嬢もあの子がきたら何故か本気出しているし・・・もしかして私、男見る目ある・・・・・?
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