第17話 食事童貞の卒業

「ただいま戻りました」


「おかえりなさい。ちょうどよかったわ。もう少しでご飯だから荷物を置いて食堂にいらっしゃい」


 美しい笑顔でエレーヌさんが出迎えてくれたので、はいと返事をしながら優理は照れながら自分の部屋へと向かった(真顔)。もう服の事は頭の中になかったのだった。


 優理の泊まっている部屋は、ベットとテーブル、椅子が置いてあるだけの6畳程度の部屋に窓がついているだけの部屋だ。優理はこの部屋が気に入った。実をいうともっと狭いくらいでもいいなと思っている優理は、前世の幼少期にクローゼットの中などの狭いところに入って寝るのが大好きだった過去がある為でもある。


 テーブルにガイヤスの渾身の一振りの短剣、シーナから貰った魔導書などを乱雑に置き、食堂へと向かったのだった。


「きたわね。夕食をもってくるから好きなところに座っててね」


「わかりました」


 優理は角が好きなので、泊まっている部屋も角部屋で嬉しかった。窓側の当然角にあたるテーブル席に座って待っていると


「おにいさーん、おかえりー」


「プリモちゃん。ただいま。服、よく似合ってるよ」


 給仕服のような衣装に身を包んだプリモちゃんがこちらに近づいてきた。


「えへへ。そうかな? どこにいってたのー?」


「初めてきた街だからな。色々見てまわってたんだ」


「へー! いい街でしょ!」


「だね。人が多いところは慣れないけどねー」


「そかそか、ゆっくりしてってね~」


 それから少し待っていると料理が運ばれてきた。


「今日のご飯はパンと具沢山のクリームスープよ!お肉も入ってるから~!」


「ああ、ありがとう。」


(いただきます。)


(・・・・・うま。)





(うめえええええええなんだこれ香辛料とかそんな入ってなさそうなのにめっちゃめちゃうまいいいいいい。異世界料理うめえええええ。なんの具かわからないけど!最高!いえええええええええええい)


 具が沢山クリーム系のスープの中に入っている。固めのパンをクリーム系のそのスープにつけて食べると柔らかく食べやすくなり、咀嚼しながら楽しむ。


 優理は他の飲食店やギルドの酒場、露店で売られている物を食べずに我慢していたため、初めて食べる異世界料理に夢中になって食べ進めた。涙も出ていたと思う。初めての異世界料理は大満足だ。


 優理が森で食していたのは果物ばかりだったので、こちらの世界の料理、特に肉などを食べるのはこれが初めてた。露店のお肉もおいしそうでお腹が空いて食べたかったが、空腹は何よりのスパイスということで、プリモちゃんがおすすめした通り、プリモちゃんの宿の料理を初めて食べる異世界料理の味にしたかったのだ。


 優理は実感していた。異世界にきて緊張ばかりが続き、魔物に囲まれる殺伐とした空気の中で生活してきた為、前世を思い出しながら久々の温もりを噛みしめていた。


 無心で食べ終え、途中だれかに話しかけられた気がするが、そんな事どうでもよくなるくらいには集中して味わっていたため、食べ終わった後は天井を眺めながら放心していた。


 しばらくして現実に帰ってきた優理は自分を見つめる視線がかなり近いところにある事を感じ、すぐに視線の方へと視線を向けた。


「やあ。僕はここの料理を作っている、アンガスだ。ユリエスくん、お口に合ったかな?」



 くそほどイケメンが目の前にいた。鼻毛でも出ていれば面白かったのだが、あいにくそんな事もない。明るめのブロンズの長い髪に鼻筋の通った端麗な顔つきで、白を基調にした調理服の中にはほどよく筋肉がついているのだろうことが想像できた。声も優しめで、目はブルーでプリモちゃんとお揃いのところを見るとこちらの方がプリモちゃんの父親なんだろうと思うくらいには近しい印象を持てた。



「はい。アンガスさん。おいしかったですよ」



「はは、ありがとうね、お口に合ってなによりだ。ちょっとした挨拶さ、プリモが世話になったみたいだしね」



 ウインクしながら、こちらに楽し気に話しかけるアンガスだが、思ってたより嫌味に感じないし、イケメンはイケメンでもいいイケメンだな。と感心していた。



「はい。満足できました。10日ほど泊まりますので、また利用させていただきますね」



「嬉しいねー。じゃ腕によりをかけておもてなしさせてもらわないとね!じゃ。厨房に戻るね!プリモをよろしくね!」



 なんだかよろしくされたけど、この街にずっといるわけでもないのでスルーした。ご馳走様と心の中で言いながら、優理は部屋へ戻っていった。



「ユリエスさん、樽とタオルはユリエスさんがお外に出かけてる時に回収しますけど、使い終わってから言っていただけたらプリモが取りに伺いますので、お気軽にお声がけくださいね~」




 そう言ってエレーヌは去っていった。人妻なのでじろじろ見てはいけないとは思うのだが、エレーヌのプリモと同じ綺麗な金の長髪、端麗な整った顔に優しい目じりの下がった目元に、優しい雰囲気を増している緑色の大きな瞳。豊かな膨らみと窪みのある魅惑のボディにいい香りがする謎のフェロモンが気になって気づいたらガン見してしまう。歩くときに揺れるお尻と揺れる後ろ髪がいやらしいのだ。





「はあ。よくないな」





 ふう。と気持ちを切り替えて一旦落ち着く。若い17歳の身体の猛猛しい欲情を鎮めながら身体を拭く。この世界の風呂、所謂水を貯めるタイプのお風呂は貴族や豪商などしか使っていないらしく、入浴とは、一般の人が誰もが利用できる公衆浴場にあるサウナのようなミストの中に入って汗を流すことをさすらしい。




 森では緊張状態もあって、性欲は全然発動しなく、触っても何しても何の反応もしなかった。日本人の生活に慣れていれば虫や土が近くにある状態で欲情するといった気持ちになれないのは仕方がないのかもしれない。




 しかし街に来てからというもの、基本的な安全が確保されていることや、予想以上に治安がいいこと、周りに同族がいるという安心感からか、緊張状態から解き放たれ若い欲情が復活したのだ。しかしこの宿で自分で発散するにしても証拠が残るこの部屋では、あの綺麗なエレーヌさんや9歳のプリモちゃんが片づけをすることを考えるとどうしてもそんな気にはなれない。




 この世界の人は基本的に自分視点であるが、顔が整って綺麗な人が多くいる。整っているのが普通であると言えるほどだ。


 職や仕事にありつけて普通に一般の生活をしている人であればやせ細ったりしていることもなく、魅惑のボディを手にしている人を歩いてる途中でも何度か目にうつった。この世界に慣れることはあるのだろうか。


 明日からはそういった行為が行える場所や冒険者ギルドの依頼について調べたりして過ごそうと考えたところで優理は眠りにつくことにした。

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