第16話 錬金術
ガイヤスが決意し、指導を放棄し弟子を巻き込んで工房に籠るなどをし、着々と事態は大きな波紋を呼ぶ事態になっているが、そんな事など知る由もない優理はのんびり考え事をしながら歩いていた。
ポーカーフェイスのため真顔だが、鼻歌が聞こえてきそうなほどに上機嫌のようだ。
(料理用の包丁も手に入ったし、次は火をつけるやつだな~)
武器代も、買えたらいいな程度にしか考えておらず見るだけのつもりが、思いがけない怒涛の展開で購入費用が浮いて、優理も困惑していた。
(さっき来る時に通ったところにあった魔道具屋にでもいってみるか)
≪錬金術≫
前世の話ではないが、金銀財宝をザックサック生み出すことではない。無から有を生み出す、そんな事は出来ない。ちゃんとした術式に理解を深め、親和性などを加味した上で素材を選択し、錬金する。専門の用具を使う者と、魔力で行う者がいる。ポーションの配合をしたり、魔道具を生成したりと、冒険や生活に役に立つ道具を生み出すスペシャリストの事を錬金術師という。冒険者ギルドと同じく、錬金術師ギルドもまた世界をまたにかけた巨大な組織だ。
錬金術師は、錬金術の危険性から、技術や資料を徹底的に管理し、情報が拡散、悪用される事を未然に防いでいる。中には禁忌に触れるようなものがあるので、そういった書類などは更に厳しく管理し、保管されているのだ。さきほどの金銀財宝ザックザクもやれるものはいるが、市場価格がぶっ壊れることもあり、魔法で貨幣的な価値のある物などを生み出すことも禁止されている。
商人からの受注や貴族や領主などからの発注もあり、お抱え錬金術師や野良の錬金術師や学生が作る魔道具などは一定の許可がおりたものに対しては市場に出回り、市場は潤ってはいるものの、基本的に錬金術師たちは自己中でマイペースなので、自分の研究が一番、といったことから世間一般的に変わり者として見られている。
生粋の研究者、探究者といってもいい。錬金術師に向上心のないものは恐らく探してもいないだろう。誰も発見したことがないようなものを実用化に持っていく事ができ国民の生活が豊かになれば、王家からの表彰に加え、栄誉も賜ることができるといった側面もあるが、錬金術師たちはそんなことどうだっていいので研究に没頭しすぎて王家や領主等からの呼び出しを拒否し、不敬罪で捕まるといったことも通例だ。ほとんどの錬金術師たちも決まった数の納品こそすれど、空いた時間は研究に回し、その稼いだお金も研究に消えていく。それだけ研究熱心なのだ。
世間の人も理解はしている。錬金術師がいないと不便な生活を送ることになるのだ。未来永劫普遍的な魔道具などは存在しない。あれば国宝級のアーティファクトとなるのは必須だろう。一般人が買える価格帯の魔道具も存在はしているが、基本的には高額だ。街の街灯や火をつける魔道コンロのようなもの。水を出す魔道具、一般人の生活に欠かせない物も多く、そんな物を作り上げる錬金術師たちは世間からは変わり物などと嘲笑されることなどなく尊敬を集めている。
ただ、借金してでも研究しようとするその熱気が恐ろしく、近寄らないだけだ。
こんな錬金術師界隈に。御年150歳を超える大ベテラン中のベテラン、全錬金術師の尊敬を集めるシーナ錬金術師という人物がいる。いた。彼女はとある錬金術師の開発に成功し、世間から認められたのち、王家の呼び出しを鬱陶しく感じ、人知れず世から姿を消した人物だ。
知るものはほとんど存在しないが彼女は辺境都市ゼフィストの商業区の一角で、自らの姿と名前を偽り、初級、中級の錬金術師なら誰でも作れるような一般的なものを錬金した商品や一般的な魔道具屋を扱う店を営んで細々と生活していた。
そんな事なんて興味も知ることもないが、何の因果か、彼女の店の前で悩ましそうな顔をした少年が立って考え事をしている。うろちょろもしている。
(なんかここも人いないな。さっきの店といい、人少ないとこは嬉しいし入っちゃうけど生活できてるのか心配になるな・・・)
余計なお世話である。
シャリンシャリン
「こんにちわー」
「いらっしゃい」
「はい」
「見てくならゆっくりみといで」
「ありがとうございます。」
(なんだいこの子は・・・魔力の流れが気持ち悪いね。それになんだが神聖な気配を感じるね・・・気になるねえ)
優理はさっそく棚にある商品などを手にとってどんな商品があるのか興味深く見て回ることにした。
(ふーん。この子は・・・・)
(あの子が持っているぼろぼろの袋あれは・・・!!! 伝説級のマジックバックじゃないか!時間完全停止のやばい奴じゃないか初めてみたね!なんてものぶら下げてんだ・・・なにもんだい!)
シーナもポーカーフェイスのスキルをマスタリーでとっている為、お互い表情は変わらない。が表情の奥では隠し切れない愕然とした気持ちに支配されていた。
「おねえさん」
「ん? ああ・・・私かい。なんだい」
(お姉さんなんて130年ぶりくらいに言われたさね(魔ジョーク))
「火をつけたいん」
「なんだい。魔道具はあんたが思ってるような値段じゃ買えないよ。」
「そうなんだ」
(なにこの子かわいい・・・ いい年こいて・・・ なんかむらむらくるねえ)
「まぁそうさね。消費するアイテムを買うより生活魔法を使った方がいいんじゃないかい? 魔力が多少あるなら冒険者では重宝するだろうから覚えておいて損はないさね。」
「生活魔法・・・?」
(全世界の人が知っていて魔力が多少ある者は普通に使って生活しているってのにこの子は何も知らないのかい・・・いったいどんな環境で過ごしてきたのか・・・(盲目))
「生活魔法は火、水、風、土、光、闇の基本2属性と4属性のほんの一部簡略化された魔法を使うことができるものさね」
「そうさね・・・クリーン。ほら、あんたの服と身体が綺麗になっただろ?」
「ほんとだ」
「あとはほら、リトルファイヤ。これが火種だね」
(ええ・・俺が使えなかったやつじゃん・・ええ・・・)
「そか」
「なんだい興味ないのかい」
「他はどんなのがあるの?」
「ライトにダークミスト、アースムーブ、エアーさね」
「そうなんだ」
(なんだい・・・魔力がないようには見えないんだけどね。顔は変わってないが落ち込んでいるように見えるね。慰めてあげたいねえ(盲目))
「・・・そこで待ってな」
「はい」
(ここの世界の人は話の途中でどこかにいく癖があるのかな? お金足りないらしいから早く帰りたいんだけどな・・・雑貨屋で火打石とかあるかもだし。)
「ほら、あんたには特別にこの本をあげるさね。」
「ありがとう。おねえさん」
(またなんかもらった。ついてるな・・・タダより怖い物はないんだが)
「強く生きるんだよ・・・ポッ」
「うん」
シャリンシャリン
(か・・・かわいかった・・・)
勢いで本をプレゼントしてしまったシーナである。シーナが優理に渡した本は初級魔法書、この世界の本は高額でとても初心者が購入できる代物ではない。しかしこれはシーナの直伝であり直筆だ。一属性一魔法の事だけ書いてある他の本とは違い、魔力の操作方法や全属性の事が詳しく書かれているシーナの経験値そのものを記した物だ。
さっきから身体が火照って仕方がないシーナは彼の名前を聞くのを忘れてしまったが、実は途中からこっそり撮影用の魔道具で姿を納めていたのだ。撮影用の魔道具は一般的ではない貴重な物だがシーナはここぞという時には惜しむことはしない。才能の無駄遣いである。これで夜も捗ることだろう。
さきほどの少年優理は、頭が良く様々な経験をしてきたシーナの人生の中で一番理解が及ばない生物との会合で、研究心を刺激され、未知に対して知りたい欲求と様々な複雑な感情とが混ざり合って年甲斐もなく女の気持ちを思い出してしまった。
シーナは決意する。女の恋愛に年齢は関係ないのだ。
(なんで・・・・?)
優理が店を出た後すぐに後ろを振り返るとシーナの店は閉店になっていた。
今日はプリモちゃんに宿を紹介してもらい、冒険者ギルドで受付を済ませ、ギルド登録でもって身分の保証ができた。ガイヤスの鍛冶店では短剣をもらい、シーナには初級魔法書をもらった。今からメインの用事である食事が待っている。
鍛冶師と錬金術師二人の運命を変えるほどの出来事が起きているとは知らず、優理の頭の中は帰った後に食べる夕飯の事でいっぱいだった。
心の中でニヤニヤしながらその場を立ち去り、宿屋へと足早に帰っていった。
(そういえば、服買ってないけど、俺服のセンスとかないしな。誰か服のセンスがよさそうな人は・・・エレーヌさんか。人妻だし連れ出すのはよくないな。聞くだけなら聞いてみるか)
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