第15話 運命の出会い



「書きました」


「はい、お預かりしますね。私は本日受付の担当をさせていただきますリュナと申します。よろしくお願いいたします。」


「はい」


「前衛でスキルは・・・水属性魔法? でいいですか?」


「はい」


「えーと・・武器はこん棒で間違いないでしょうか」


「はい」


(なにこの人やばい・・魔法スキル持ちで前衛? 手に持っている武器がなによりやばい! 武器みたことない! やばい笑ってしまう! やめなさい私! 鋼の心よ!昔ふられた男の事を考えて耐え)


「グスン」


「おねえさん、大丈夫ですか?」


「あ、はい。失礼しました。これで登録しますね。こちらに触れてもらっていいですか?」


「はい。おねがいします。」


「はい、では少々お待ちください。」


(なんかまた石板みたいなのに触れたけど指紋認証? 魔力認証? みたいなことされたのかな。このくらいの世界の水準には似合わない高度な技術だな~ダンジョンとかからこうゆう聖遺物的なものもでるのかな。たのしみだな~)



「お待たせしました。今日からユリエスさんはGランクの冒険者になります。こちらカードになります。他の人は使えないようになっていますがなくさないようにお願い致します。なくされた場合は再発行代が掛かりますのでご注意ください。」


「はい。」


「依頼は依頼受付の方で承りますが、私でも構わないのでお気軽にお声かけくださいね」


 そういうリュナは満面の笑みで、優理は接客すごいなくらいにしか考えてなかったが


(他の同僚にこんな面白そうな子とられたくないわね・・・この子の成長が見て見たくて仕方ないわ! 日々の激務の癒しよ! あれ・・・よくみたらこの子かわいい顔してるわね。ふふ)


(おっとなんか寒気がしたぞ。やばい人が多いところに長く居すぎたDOTダメージでしんでしまう)


「こちら資料になりますので、忘れずにお読みください」


「はい、失礼します。」



・・・・・



(はぁーーーーー! なにあの受付の人!めっちゃ美人・・・緊張したー! めっちゃ麗しい・・・尊い・・・切ない・・・つらい・・・)


(綺麗すぎて”はい”しか言えなかった・・・じっとこっちじろじろ見てたから発情してんのかと思ってたけど違ったな。なんか泣いてたし、俺の服そんな貧乏そうに見えたのかな。武器は貧乏そうだけど。)


(それだとプリモちゃんの宿の品格が落ちるし・・・暇な時に服買いにいってくるか)


「ああ・・・そうだ、おねえさん」



 冒険者ギルドから貰った資料に目を通しながら次の目的地へと向かう。だいたい初心者の心得って感じの内容とリーフレットみたいな感じで館内の地図と利用できる場所。時間とかの案内とか冒険者ならこうあるべきみたいなのが書いてあるだけだったので、一生冒険者をやろうと思ってるわけじゃない優理は一応ざっと目を通し頭の片隅において放置した。


 次に向かっているのは武器屋だ。単純に解体に使いたい目的でもあるし、サブ武器としても予備としても短剣なんかを持っていた方がいいだろうと思っている。しかし一番の目的は料理だ。包丁を持ち歩くわけにはいかないので、やっぱり短剣がほしい。


 冒険者ギルドの受付嬢リュナに聞いた武器屋が立ち並ぶ場所に何件かそれらしき建物はあったが、中に人やパーティー単位で人がごった返していたので入るのに躊躇い、うまく店に入る事ができず優理は店の前でうろちょろしていた。はたから見たらきっと危ないやつだろう。


 しかしこの人ゴミの中ではそんなに注目してみている人もおらず、しっかりじっくりとうろちょろを続ける事ができた。


 願望と自分の人見知りの性格に失望したような気持ちを天秤にかけて、落ち込んでため息を吐きながら、人のいない方へと非難しながら放心し歩いているとふと一風変わった建物が目に入ってきた。


 こじんまりとしたお店で、店の窓の外から中を見ても他のお客さんはおらず、優理は嬉しくなってしまい、空いてるならと何も考えずにその店の中に入ってしまった。

 

 

カランカラン



「こんにちわー。やってますかー」


 奥からカンカンと金属の甲高いリズムよく叩く音だけが響き、奥にいるであろう人物からの返事は帰って来なかったが、優理は初めてみる本物の武器の美しさに目を奪われ、店内を勝手に物色しはじめ夢中になった。


 しばらくして音が止むと、奥からずんぐりむっくりした体躯をもった、頬に深い傷跡がある迫力のあるドワーフが姿を現した。


「おう。いらっしゃい。途中だったから手離せなかった。なんか用か?」


 優理は考え事をしながら目に映る武器に心奪われ、亭主の声は聞こえていないようだ


(人の店に入ってきてなんだこの坊主は・・・しかしすごい集中力だな)


 ここからしばらくの間、亭主はこの男を観察することにし、2人の男の静かで奇妙な時間が始まったのだった。


――1時間後


(ふう。やっぱり・・・武器はいいな。すごいかっこいい。ほしいけど高いな。この世界の武器ってこんな値段が普通なのかな~」


(てか・・・すげえ見られてるんだが・・・)


「・・・終わったか? 坊主、俺の店に何の用だ」


「はい、武器を買いたくて来たんですが。」


「そうか。見てただろ。どれがほしいんだ?」


「いえ、ここにほしいのはありませんでした。」


「なに? 俺の武器にケチつけにきたのか?おい」


(こええええ。お金が足りないだけなんだが)


「そんなつもりはありませんよ」


(なんだこいつ…俺の力試そうとしてんのか?数打ちじゃ興味ないと・・)


「おい坊主。どの種類の武器がほしいんだ。」


「短剣ですね。」


(料理用の)


「ふん。そこで待ってろ。」


「はい」


(こえーなー。しかしなんで待たされてんだ?・・・お金足りないのに。早く帰りたいな)


ドシドシドシ


「ほら、短剣だ。」


「・・・・・」


(めっちゃかっけーーー・・・・放心)


「なんだ? それも気にいらないのか」


 優理は見入っている為。話を聞こえてすらない。


(こいつ・・・俺の弟子が打った剣かどうかわかるのか?)


「そうか。ならこれだ。」


(ん? なんか古そうな短剣だな。・・・これなら足りるかな)


「はい。これのお代は」


「いらん。使え。」


(こええええ・・・貰えるなら貰うけど・・・ええ・・・)


「その短剣は人を選ぶ。メンテナンスをしないと短剣はすぐ癖がつくからな。切れなくなる前に持ってこい。俺が直接調整してやる。」


「ありがとうございます。」


(なんか貰ったし、またこいって事は怒ってないよね?)




カランカラン




<鍛冶屋亭主>

 なんなんだ・・・あの坊主は・・・。得体が知れない男だ。独特の雰囲気を持ってやがる。俺が生涯打ち上げて最高の出来だと自負している渾身の自信作の短剣。あれじゃないと満足できないなんて・・・これがサブ武器だとすると普段はどんなメイン武器を使って戦ってやがるんだ。少なくてもランク6・・・いや7は超えてくるかもしれん。


 この街で奴のような男は見た事もないから流れか訳ありだろうが、そんな大物がいるんだったらいずれ有名になるだろう。その時までに奴に舐められない俺が打てる最強の剣を打つ・・・売ってくださいと懇願するようなものだ。



・・・・・勝負だぜ。坊主



 くそったれが。久々に燃えてきたぜ・・・こんな気持ちになったのは弟子をとる以来か。しばらく弟子に教えるのは中止だ。鍛冶作業に専念する。


 肉体も精神も鍛えなおす。全盛期を超える。 ・・・震えてきやがった。この俺が。腕がなるぜ・・・


 

 優理のメイン武器は何度言ってもこん棒ランスである。ランク1どころか武器として機能していない可能性の方が高い。優理も便利なスコップのような扱いや打撃武器のように使ってる場合が多い。


 この男は、この辺境都市ゼフィストにいるうちに3本の指に入るほどの腕前を持ち、数々の名剣を世に排出してきた男だ。国王陛下に謁見し、武器を献上したこともある。弟子をとってからはひたすらに弟子を鍛える事に注力してきた。この男のお眼鏡に叶い、専属鍛冶師などして貰える冒険者がいることなど今まで一度もなかったし、あるわけがないというのが常識であるほどだ。


 しかしなんの因果か勘違いか、この男は優理の料理用の包丁に、自身が打てる渾身の出来であるランク5の付与付き魔法剣を渡した。渡してしまった。


 そんな男の名前はガイヤス。鍛冶神ダイヤの加護を持ち、この道150年の大ベテランのドワーフだ。ガイヤスを奮い立たせた男のランクはGランク。駆け出し冒険者だ。ガイヤスはすぐさま弟子に通達をしたのち、工房に籠ったのでその事を彼が知ることはなかった。



 のちに世界一の名剣を作り上げる男の、運命を変える一日となったのだった


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