第14話 プリモの止まり木亭
「いらっしゃいー。・・・ってプリモじゃない」
「おかあさーん! お客さんよ!」
「あら、プリモが連れてくるなんて珍しいじゃない。ふふ」
「そんなんじゃないしー! おにいさーん? おかあさん!」
「ああ、とりあえず街に来たばかりで。一泊お願いできますか?」
「お願いされました。プリモのお客さんだから頑張って接客しなきゃね」
「もう! 違うってば!」
「はいはい。うちは一泊銀貨2枚。食事をつけるならあと銅貨5枚ね。食事は朝と夜に2回よ。プリモのお父さんが腕によりをかけて作らせてもらうわ?」
「おとうさんの料理はおいしいんだよ~」
「ああ。じゃあ気が変わった。とりあえず10泊食事付きでお願いしていいかな?」
「あらいいの? うちは嬉しいけど。はい、ちょうどね」
「はぁ。プリモちゃんが案内してくれたので、悪いところじゃないと思ったんで」
「そうなのね。よかったじゃないプリモ」
「うん! てちがうからー! おかあさん!」
「早く着替えてきなさい。お客様がお待ちよ」
「はーい。おにいさん、プリモの止まり木亭にようこそ! これからよろしくね?」
「ああ(この街から出たらもう来ないかもだけどな・・・)」
満面の笑みを浮かべてそう言い残してプリモちゃんがいなくなったあと、美人のお母さん、エレーヌさんに2階の角部屋に案内されたので荷物を置いて外に出るため、準備することにした。
「あら? もう出かけるのかしら。夕食までには帰っていらしてねー。鍵はこちらで預かりっておくわね」
「はい、よろしくお願いします。ご飯楽しみなので必ず帰ってきますね。」
「ふふ、主人に伝えておくわ。あ、ちょっと待ってね。宿帳書いてもらっていいかしら?」
「はい、これでいいですか?」
「ユリエスさんね。冒険者なのね。ふふ。じゃ夕食までに帰ってらっしゃいね。行ってらっしゃい。」
「はい、いってきます」
(ぎょええええええ! 異世界の人美人すぎるだろおおお! プリモちゃんなんて9歳であんなかわいいの? なんで? しぬの? やば)
(エレーヌさんは大人の女性のフェロモンを巻き散らかしてけしからんし。あーなんか人妻だけど思い出したらいい匂いしてきたな。すーはー。)
(異世界ってそうゆうお店ってあるのかな・・・)
(さすがにこの手持ちのお金は両親からもらった大切なお金(残金73S)だからそのお金で如何わしい目的には使わないけど・・・この街にきてから物欲を中心に色々欲求が出てきたな。)
(そうなってくると冒険者活動をして少しお金稼ぎをしたほうがいいのかな)
(このままだと貰ったお金だけで生活してジリ貧なのは目に見えてるからな・・・とりあえず宿代くらいは補充したいな。)
優理は自制心のスキルをもっているが、これは自分の心から欲をなくすスキルではなく、他者からの悪意やスキルなどによって精神的な被害を受けた際に起こる感情の起伏を自制するスキルだ。優理の所持しているポーカーフェイスとの相性が良く、表に感情が出ることがあまりないことがメリットではあるのだが、本人が欲を自分の意思で欲することに対しての制限があるわけではないので、使いどころが難しいスキルだ。
優理はこのスキルの存在すら知らないし無意識に使っているのだが。
「さて、とりあえず10泊分仕事しないといけないのと、冒険者ギルドが商業ギルドかどこかで身分証を作らないと捕まってしまう。少し急ぐか。」
こうして少し思考したあと、プリモと話した通り、冒険者ギルドへと向かった。
≪冒険者ギルド≫
その名からわかる通り、冒険者が活動しやすいようにと大昔に作られた組織で、ありとあらゆる依頼や独自の判断で依頼として案件をまとめて、個人やパーティーの活動を円滑に行うための斡旋、売買、指導、支援、補助することに特化している組織だ。
冒険者は、文字通り冒険をする人の事で、秘境や未開の地を探検し、魔物の領域を危険を顧みず踏破することを目指し、討伐や採取した素材を持ち帰ることで市場に影響を与えている。ダンジョンで宝探しをする者、まだ見ぬ強敵を倒すために旅する者など、堅実に護衛任務などをしてコネクションを繋ぎ信用を作る者、無理をせず日々の生活に色合いを出す程度に活動する者。様々な夢と実益の両面を兼ね備えていて、自分の目的に依頼と条件があってさえいればどんなとこにでもいって冒険をする。そんな彼らは一部バトルジャンキーを除いて世界中の人々に感謝され、尊敬されている。
実力や信頼度からなるランクが存在し、GランクからSランクまでの冒険者が所属している。ランクが高いほどに信頼され、たとえ腕っぷしがどれだけ強い人でも素行に問題がある人はランクが上がらないので、冒険者を生業にしているものは常にランクを上げる事を意識して日々訓練し、危険なクエストを受注し生活している。
彼らが世界で最も尊ばれ、必要とされる場所がここ、辺境都市ゼフィストにある冒険者ギルドである。大きさだけで言えば王都のギルド本部が一番上になるが、ここは資材の宝庫、所属する冒険者の数も多いが圧倒的に質がいい。
人格者になりたい、成りあがりたい、夢を叶え成功したい、そんな願いを持つものに国民はみな口を揃えてこういうのだ。「ゼフィストの門をたたけ」と
冒険者の世界には国境がなく、世界をまたにかけた国境を越えた組織であるために、貴族などから買収、命令などをされても跳ねのけるだけの組織力すらある。
王族ですら冒険者ギルドには正式に依頼し、クエストを発行して受理、報酬を用意するといった手順を踏んでいる。世界はまさに冒険者時代といっていいだろう。
冒険者ギルドに所属する冒険者には一般的な身分の違いなどは存在しない。一般人や農民なども勿論の事、貴族の跡を継がない者や大商人の子供、教会の枢機卿の娘であろうが、あまりないケースではあるが国王の子供であろうが、冒険者には身分の違いは存在しない。
受注した仕事を円滑に熟す。この一点のみを達成する事。それが重視される。人類の敵魔物、特に強敵などと相対した時、イレギュラーな状況になった時、一瞬の判断で生死が分かれる状況で判断をしないといけない事が多々ある冒険者に身分は邪魔な物でしかないのだ。
ランク毎に研修や試験もあり、ランクアップしたからといって実質的な権力は何ひとつ得られない。あるのは名誉。ただひとつだ。それを得ることにより信頼がついてくる。この信頼が生きる上で限りなく大事なのだ。
冒険者ギルドの職員は前世で言えば公務員のようなお堅い仕事でもあり、この世界では何かに特化したエリートのような存在しかなれず、荒くれもののイメージが先行する冒険者の中で、異例の教師のような存在ばかりが所属している。学力的な成績も当然だが、彼らは冒険者としても一定の成果を上げ、ギルドに貢献を残してきたものばかりだ。
だがエリートな彼らは自分たちがエリートでなかった時代、自分たちがまだまだ駆け出しだった頃に見た同僚が次々と魔物の餌食になっていくのを目にしているので、所属する冒険者の事を見下したりすることは決してしない。
彼らは後発を育てることにその命を燃やし、最難関の試験を乗り越え、ギルドに対する忠実な精神と、後発の冒険者が生存できるように努力する事に信念をもって生涯を捧げてギルド職員になっている。機密が多い仕事の為。辞める者はほとんどいない。簡単には辞めれる職業ではないのだ。
そんな立派な冒険者ギルドの前に立ち、その大きな建物を前にした優理は、静かにこう俯いて呟いていた。
「なんで最初にきた街とギルドがこんなにでっかいんや・・・」
トホホ と寂しく語られる背中を見せながら入り口へと入っていくと
「こんにちわ。こちらゼフィスト冒険者ギルドの受付です。新規の冒険者登録の方でしょうか?」
「はい。登録をお願いしたいです」
「畏まりました。登録料が銀貨2枚になります。こちら無利息で1カ月間貸出可能です。その場合の注意事項もありますが、いかがされますか?」
「払います」
「畏まりました。それではこちらの用紙にわかる範囲で構いませんのでご記入してください。代筆が必要でしたらお気軽にお申しつけください。終わりましたら受付の方までお越しください。」
ギルドの受付用紙には、登録名、所持スキル、パーティーでの希望する役割、主に使う武器、従魔、参加クラン名、参加パーティー名などを書く欄があり、優理は無意識に意味もなく思考加速を発現した。
冒険者名はよくゲームで使ってるユリエスにしようかな。呼ばれ慣れてるし間違えないだろう。パーティー・クラン名は無し。使う武器は槍? こん棒? これよくわからんな。パーティーでの役割・・・パーティーには入らないが一応前衛と書いておこう。他に何もできないし。従魔とかいないし。ソロだし。
スキルは・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます