第二章 辺境都市ゼフィスト 編
第13話 初めての街
しばらく道なりに進むと、その大きな街の外観が見えてきた。
辺境都市ゼフィストだ。
この町のほとんどの住人が森や山での資源探索、討伐した素材を納品することで活動する冒険者の職業と、冒険者に関わる職業を生業としている人だ。ここは魔物から国を守る最重要拠点として、栄えている。数年に一度スタンビートが確認されている事もあり、ここの兵士も屈強な兵士ばかりだ。
そんなこの都市を納めるのは、マルス辺境伯。血の気が多い冒険者が多く住む街の盟主としては珍しく、意外と華奢な体躯で、白髪が入った黒髪を長く伸ばし、後ろで縛っているかっちょいー辺境伯様らしい。とはさきほどからやたら話しかけてくるおじさん談だ。
山には鉱山があり、鉱物資源が、森には魔物の素材や魔石、薬草類やキノコ類が多く採取できる。この辺りの平原でもこの地域にはわんさか魔物や獣が生息しているのもあり、ここには出稼ぎに来る若者に大人気のスポットとなっている。
そんな領地を守っているマルス辺境伯は武より智寄りの頭の良い方らしく、ここに左遷(こわい)される前は王宮住まいで国防関係を任されていたとのことだ。きっと位の高い人なんだろう御関わりあいになりたくないものだ。
未だに国民でもない優理にはどうでもいい話だが、筋肉マッチョの頭ごなしな脳筋肉な人より頭のいい人がやったほうがいいだろうと他人事のように聞き流した。
「ほら、次」
「おう! そんじゃにいちゃん! またな!」
「ああ」
ただ火をつける物を買いにきただけなのに、なんで名前も知らないおじさんの暇つぶしに付き合わないといけないんだと思いながら次は絡まれないように気をつけようと拳を握って静かに決意した。次が自分の番なので、自分の目的などを思い出しながら時間を過ごす。
「ほら、次」
「この都市にきた目的は? あと身分証を出してくれ」
「はい、身分証もないような名前のない村から来ました。冒険者になる為にきました!」
「おおそうか。頑張れよ。でどこから来たんだ?」
「西の方から来ました~ 村を出てからは街道を通って、たまに道を聞きながらそのまま歩いてきました!」
「そうか・・・(それでそんなぼろぼろの服を着ているのか)わかった。」
「それと身分証の仮発行はできるが、3日以内に身分を証明しないと捕まえるからな?冒険者ギルドにいって発行してもらうといい」
「はい、わかりました。」
「では入場料銀貨2枚だ。」
「はい」
「それと、こちらの水晶に触れてくれ。何も反応しなかったらどうもしない」
(定番のやつきたー! 犯罪歴のやつだ。 また童貞卒業だぜー!)
「はい、どうですか?」
「よし。通っていいぞ。通例だからな。疑って悪かったな」
「ようこそ! 夢見る物の目指す都市。辺境都市ゼフィストへ!」
「はいー、どうもです。」
城門を抜けるとそこには人ごみに溢れていて、様々な種族、老若男女が楽し気に会話しながら歩いているのが見えた。
ここでは種族関係なく過ごす事ができる。魔物が森などから溢れてきた際に種族だのなんだのとか言ってられない為、珍しくみな協力的なのだ。
生活している種族の大半はやはり人族だが、少ないが獣人もいて、エルフやドワーフなど沢山の種族がいる。魔物討伐に関わる人間が多いせいか、技術面の発展も高い水準で保たれている。鍛冶や錬金、建築、布製品から革製品まで多種多様な製品がこの街ではどこでも買える。種族が多い為、需要を叶える為、口伝などでアイデアが出やすい為だ。
中でも技術系の職業の方はオリジナルの製品の制作に力を入れている者もいる。競い合い、日々新しい物が生まれている素晴らしい街だ。
この街は防御面に力が入っているせいか、城壁などは人が上を歩けるほどに広く、分厚くできている。街の中でも過去のスタンビートの経験からか、石作りの建物が主流なんだと一目みただけでわかる。地図はないが、各区で分かれており、お城を中心にして、貴族区、生産区、商業区、住宅区域などがあり、貴族区には一般庶民は入らない方がいいと口を酸っぱくして名もなき城門前のおじさんに言われた。
(巻き込まれたくないものだ。あー人多いなー。帰りたくなってきた。)
(一番最初に入る街じゃないよね・・・もっと人少ないところに行けばよかった)
文句を言いながらも顔はスキルで真顔なので、キリッとしているが、人ごみに寄って並木通りの花壇のところに、座って休憩している優理だった。
「ふう。宿を、探さないとな~」
(目的を達成するまで帰れない・・・火だ・・・)
立ち上がり、商業区へと向けて歩きだそうとしたところでちっこい少女に声をかけられた。先ほどから色々な人に声をかけられているが全て無視していたが、この子は心配そうな顔をしているので話を聞くべく姿勢を向けた。
「ねえおにいさん、宿探してない?」
「へえ。うん。探してるけどどうした?」
「なんとなく? 疲れてそうな顔してたから」
「そかそか、そんなことないけどな」
「うん。私の家、宿屋やってるけど、案内しよっか?」
(うーん、悪い子じゃなさそうだな。美人局にしても若すぎるし。まぁあてもなく探すよりはいいか、どうせ自分からは声かけれないし)
「おうじゃお願いしようかな」
「はーい、じゃついてきてー商業区にあるから!」
「んーてかここに用事があって来たんじゃないの?」
「そうだけど、おにいさん気になったから。先に送ろっかなって」
「優しいんだね。何の用事だった? 急ぎじゃないから待っててもいいけど」
「明日のパンの買い出しよ~。おにいさんは気にしなくてもいいのよ!」
「パン買うならついていこっか。すぐ終わるしょ」
「んーじゃそうしよっかな。一緒いこー!」
元気よく返事しながら「遅れないでねー」と先にどんどん進んでいく元気な女の子に心でほほ笑みながらゆっくりとついていく。
(この世界では知らない人との距離が近いな・・・。前世だと捕まる案件じゃね。俺、やばいことしてる? え)
「おにーさーん! おいてくよー!」
「ああ、今 いくよ」
こうして並木通りのそばにあるパン屋さんでパンを購入した後、ちっこい少女プリモちゃん(9)と一緒に商業区画にある宿屋に向かった。
「おにいさんー、冒険者の人?」
「ああ、冒険者になろうと思ってる」
「あーまだ冒険者じゃないんだ。お金、大丈夫?」
「ああ、多少は持ってるので気にしないでくれ」
「ならいいけどー! うちの宿はねー!お父さんが料理してるんだけど、すっごくおいしいって評判なんだよー!」
(果物しか最近食ってないから肉食べたいな)
「おにいさーん?」
「ああすまない、ご飯たのしみだな。」
顔は真顔だが内心ではよだれが出そうなくらいご飯が楽しみだ。前世では若い頃に飲食店で働いてた事もあり、多少の技術と経験はあるが、こちらの世界の料理を食べるのはプリモの宿が初めてだ。楽しみすぎてやばい・・・顔にやけてないか大丈夫かな・・・
「おにーさーん? また考え事してる。着いたよ! ここがプリモの働いている『プリモの止まり木亭』よ!」
ドーン!と背景に効果音が出てそうなほどのドヤ顔のロリッコ。その腰に手を当ててこちらを見ているロリッコの名前入りの宿ということは看板娘なのだろう。
プリモのドヤ顔もかわいいが、そんなことより飯だ。ご飯が食べられる。価格は聞いてないけどなんとなく普通クラスの宿だと思う。
(最悪高かったら素泊まりで一日だけ泊まって帰るって手もあるしな。)
「ああ、案内してくれ」
期待しながらプリモについて中へと入った。
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