第12話 テンプレート
「この辺りは最初の場所と比べて木々が小さい感じがするな。森の入り口に近づいているのか?」
優理は現在川側を迂回、さきほどの冒険者を避けた事により必要以上に森に入り真っ直ぐ北に進んでいる。ここで見た木々は樹齢そこそこといった感じで森を抜けるのもそう遠くないかもなどと考えていた。
その考えは間違っておらず、さきほどの冒険者はとある依頼を受けてこちらの森へ侵入し、一日半ほど進んだところで休憩していた。
キャンプ道具が持参できるほどの資金、パラメータ、装備。重要性の理解。経験値。4人パーティーで、リーダー的な存在で組織力があり、冒険者ならだれでも羨むそれなりの装備を所有しており、一見見ただけでも強そうなベテランパーティーだったが、優理にはそんなことがわかるわけもないので、記憶の片隅に入れて1日も経てばすっかり忘れていたのだった。
しばらく仮眠や休憩を挟みながら、どちらに向かっているのかもわからない代り映えのない森の中をひたすら半日。それから1日ほど進んで野営をした。
途中魔物との接敵もあったが、ウルフが単体であったり、ゴブリンが1~3匹いただけで特に苦労せすに先に進んでいた。
薬草の群生地らしきところや、見晴らしが良く川が段差で滝になっていて下に池のような場所が出来ている景色のいい場所もあり、心癒されることもあった。
朝方、朝のルーティーンを行っていた優理の耳に、突然女性の悲鳴のような甲高い声が聞こえてきた。
「キャーーーーーー」
優理は後先考えずに、手遅れになる前に声の聞こえた方角へ足早に向かった。
目的地までにいたゴブリンは何匹かいたが邪魔だったので脳天を潰し捨て置いたが、現場に着いた時には森は抜けていて、草原のようなところに道がいくつかあり、でこぼこした道路に車輪が挟まったのか馬車が傾いており、その周りにいるウルフの集団に囲まれていた。
綺麗な服を来た銀髪の女性が一人。
その前に立ちはだかって苦しそうな表情の執事服を着た男性が一人。
綺麗な服を来た遠くからでも見える自慢の白髭をはやした髭じぃが一人。
その周りにいる冒険者のような恰好をした人が、他の冒険者を守りながら立っており、他の者は倒れたり座ってたりでパッと見た感じ数人は怪我を負っているようだ。
周りを囲むウルフの数は6匹。一つ体の大きさや色の違うやつがいてリーダーのようなウルフがいて、口に血がついていて獰猛そうな面をしていた。
―― 優理は瞬間、思考加速を発動した。
(加勢したほうがいいんだろうけど、見た感じ商人? と護衛と令嬢と執事かな?)
(俺弱いしな・・・ずっと人と会ってないから人前に出られない・・・)
(どうしよう・・・ あ、ここから狙って投げて逃げるか)
優理は手慣れた手つきで近くのいつも以上に大きい石を手に掴み。今まで放ったことのない全力の力で色違いのウルフに向かって・・・投合した。
――――――シュ
――――――ドピュ
優理の投合した石は想像・・・以上の威力で色違いウルフの首の根本辺りに命中し、一撃で首から上を吹き飛ばし、絶命された。
優理はそれで終わらず、ポケットに入っている石を3つ連続で全力で投合し、残りのウルフも瞬殺しすかさず森の中へと逃げ込んだ。
そのあと恐る恐る姿を暗ませて草木の隙間から気配を絶ち、状況を見守る事にした。
「ななんだったんだ今のは・・・フローラ様! 離れていてください! あとの魔物は私で殲滅可能です! 助かりますよ!」
「ええ」と返事をするフローラと呼ばれた銀髪の女性は、男の後ろへと座り込み、耳と目を塞いだ。さきほどの光景がよほど衝撃的だったのだろう。目の前の獣から見たこともないような大量の血が噴水のように流れ溢れていたのを目の前で見てしまっていたのだ。
「はぁはぁ。これで最後です! たぁ!」
執事の男は戦える系執事だったようで、ウルフ2匹をなんなく倒す事に成功していた。冒険者パーティーのリーダーみたいな男は罰の悪そうな顔をしていて、思い出したように残りのメンバーの心配をし始めた。
「あなた方、まずはこちらを」
「ポーション? いただけません! それに・・・」
「早く手当しないと! そんな事を言っている場合ではありません!」
「く・・・すいません。ありがとうございます! ほら! 飲むんだ!」
「皆さん、無事でなによりですわ・・・」
・・・バタッ
「フローラ様! 旦那様! 急ぎ街へと行きましょう! フローラ様が!」
「ああ・・・・・急ごう・・・!」
「ふう。行ったか。」
優理は恩を売られるのも。感じられるのも。あまり好きではない。感謝を何度言われても、どんな心境だったとしても、それは言いたい側のエゴだと思っているからだ。
目の前で人が困っていたら助けはするが、恩を売りたくないのだ。関わりたくもないし、期待もされたくない。関わる人間は自分で決めたい。一人で生活できる優理は、こちらの世界に来てまで人間関係で苦労したくないのだ。
そしてどちらにせよ人見知りで前に出て戦うなんて行動はできないので、これが今の彼の全力で。反省もまったくしていなかった。
「商人か。どの程度の街か村かは知らないが、商品があるなら見てみたいな。偶然どこかで会えば買ってみるのもありだな」
商会の名前を知らないので。機会があれば程度だ。申し訳ない気持ちも多分に入っているがポーカーフェイスのスキルなので顔はまったく反省していない。
俺は悪くないのだ。そうゆう顔(無表情)をしている。
冒険者の罰が悪そうな顔を見る限り、この辺りには強い魔物は出ないからと思って軽い気持ちで護衛の依頼を受けたのだろうことが想像ができる。見た感じそんな装備もよさそうじゃなかったしな。
(まぁ俺の方がやばいけどな)
優理の装備は片手用こん棒ランスだ。服は水浴びの時にしか洗わない平均服で、山で寝泊まりしていたことで少しぼろぼろでところどころ穴が開いている。ポケットには毎度おなじみ小石が入っている。それに収納の布袋が1個だけだ。
(あんな色違いのウルフなんて初めてみたな。・・・なんか即死してたけどああいうのがこの辺にはいるのか。一体多数の訓練もしとかないとな)
優理の予想はおおよそ正解している。さきほどの色違いのウルフは、この辺りには生息していない。量産型ウルフの色違いではあるが、戦闘力がこの辺りのウルフとは全く違う。普通に戦えばEか、Dランクの冒険者が安全マージンになるほどの強敵だ。
色違いのウルフの強さは個人ではそこまで強くないが、集団を組織して集団戦闘をしかけてくる指揮能力が脅威だ。
なのでさきほどのバトル執事さんは腕に自信があったのだろうが、フローラと主を守りながら戦うのに組織だって攻撃してくる魔物にてこづっていたのだ。
さきほどの戦闘で優理のレベルが上がっているのだが、そんなことより街や村で過ごす時の設定を考えるのに忙しく。思考に没頭しているのだった。
考えるだけ考えたあと決心し、彼らが向かった方角へとゆっくり向かうことにした。
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