第11話 街へ
「人間の町に行く! 魔道具は無理でもなんとか火をつけるもの・・・とナイフがほしいな。それを買ってすぐ森に帰る! でも拠点は変えようかな。この辺りの魔物は飽きてきたしな。」
決意むなしく引きこもり精神まっしぐらである。
優理は腰に布袋をつけ、岩でごりごり削って作った自家製のこん棒ランス(叩く面は勿論だが、刺す面が先端にある。) を片手に持ち、ポケットに石を詰め込んで準備を完了させた。
ここ1週間でこの辺の地理は頭に入っているが、未だに拠点を中心に徒歩1時間以上進んだ領域には進んでいなかった。ここらへんは本当に住みやすく、果物や薬草が豊富で動植物も沢山住んでいて、最高の場所だった。転生してくれた方には本当に感謝だ。
それなりに身体の動かし方や森での生活、魔法の使い方などの練習にもなり、ここは思い出の場所として、またいつか来ようと、胸に秘めて前を向くのだった。
「まずは川側に向かって、山を背にして川沿いを下っていこう。川沿いは魔物が多いからな。気を引き締めないとな。」
川沿いまでは以前は40分近くかかっていたが、今では10分弱くらいで往復できる。最初の頃はできなかったが、狩りを続けているうちに生物の気配が多少わかるようになってきたので、走りながら警戒することが可能になり、走りながらぐるぐる(経験値マラソン)を行うことに成功していたからである。
喋りながらも速度は落とさず、数は少ないがすれ違う魔物のウルフやゴブリンを倒しながら進んでいく。死体はもちろん置き去りだ。
この1週間の間に倒した魔物も当然置き去りにしていたため、最近では少し魔物の数が増えている印象もあったが、自動狩りで倒す速度も速くなっているため、優理はリポップして寄ってくる養分くらいにしか考えていなかった。
このままずっと続けていたら魔物の数が増え続けて大変な事になっていた可能性もあったが、街がどのくらい離れているかもわからない現状では、拠点を変えるつもりで出発しているため、気にすることもなかった。
10分程度で走破し終えた優理は川に到着すると、まだ見ぬ人類に思いを馳せながら警戒を強めながら川沿いを歩いていくのだった。
「今日はここで野宿かな。」
辺りが暗くなってくる前に、今夜寝れそうな場所を確保した優理は、軽く辺りを警戒し近くの魔物を殲滅したあと、川で水浴びをした。
「さすがに慣れない場所は落ち着かないな。慎重に警戒しないとな。」
本日の宿は大きな連なった大岩の隙間から天然の滝が流れているどこか神秘的な雰囲気すら漂わせる景色の印象が強い場所で、その滝の下には小川が流れている不思議な雰囲気の場所の入り口だ。奥にも進めそうな雰囲気がある。続く道に洞窟がありそうだ。岩がどうやって繰りぬかれたのか、盛り上がって出来たのかわからないが、天井いっぱいに屋根のように存在し、雨風を凌ぐには涼しく、心地よい場所になっていた。
いい場所ではあるが、拠点として使うには地面が固すぎるし、見通しが良すぎて後ろも上も前もと警戒箇所が絞れないので使いにくく、もし前の仮拠点側に戻ることがあったらまた利用しようかな、と頭の片隅に入れておく程度にした。
食事は拠点から持ってきたものや、途中で見つけたりした果物で、食べ終えた後は岩壁を背にしながら入り口の方に姿勢を向け、座って岩の壁に寄りかかりその日はそのまま眠ることにした。
――次の日
まだ日が昇り切っていない朝に目を覚ました優理は、朝の軽い運動をして汗を流し、顔を川で洗い、水魔法で歯を磨いて、出発することにした。
優理は勘だと認識しているが、優理がこちらの世界にきてずっと一人でいて会話する人もいなく一人で静かに移動していた影響もあってか、優理には気配察知系のスキルが生えていた。独りぼっちならではの取得方法だ。これが優理が持つ夢系ユニークスキルと相性が良く、寝ながら起きるという謎の行動を可能にしていた。ただ待機状態である為、身体を休める必要がある。睡眠状態で脳と身体を休めるが、意識半分は起きていて警戒も出来る。一人ぼっちには嬉しいスキル構成だ。
≪夢マイスター≫
夢系スキルの最上位マスタリークラス。
眠り完全耐性、対象が寝ている場合他者への夢や精神へ干渉できる。※ステータスが大幅に離れている場合は侵入はできるが干渉はできない。睡眠時体力・魔力回復量増加
優理のオリジナルにして世界で唯一のユニークスキルだが、眠り薬品やブレス、魔法、超音波など他者から干渉される妨害攻撃の完全無効化。他人の夢に干渉して夢の内容を変えたり、夢の中に入り登場人物を操り干渉することができる。割とおそろしいスキルだ。対象の記憶から内容を読み取ったり意識体と会話して情報を聞き出すこともできる強力なスキルだ。睡眠時体力魔力回復量も増加し、これらは優理が知らないスキル内容だが本人はなんとなく使っているので全てのスキルの力を使えてはいない。
もう一つの大女神の寵愛の加護の効果の一部で、優理には取得経験値増加の月齢課金アイテムのようなバフが常についている。なのでスキルの成長速度も人より早く、取得していないスキルも経験すればどんなスキルでさえもとることができるようになるだろう。
これは優理の希望ではなく、この世界に優理を転生させたその存在が深く関わっていて、優理に第二の人生を楽しんでほしいというあれだ、過保護なところからきているのだ。
「よーし、また川下っていきますかね」
今日も呑気な優理はこの世界にきてから10日近く経つが、前世の時とは違い、なぜか活力が内から漲り溢れてくることも関係して、今回の人生を死ぬ瞬間まで楽しく過ごそうという気持ちになっていた。
(以前じゃ考えられないな・・・ここのところ毎日が刺激的で興奮しっぱなしだ)
優理が川を下り始めてから数日が経ち代り映えのない景色にいよいよ飽きてきた時、優理の目には、森の奥ではない川の方の遠くの空から煙のようなものがあがっているのを確認した。
(ニンゲン?)
(それとも前世のように陽キャがBBQでもしているのかな?)
(それとも・・・魔物?)
優理はなるべく気配を消しながら目的の場所へとゆっくり確実に向かった。
到着した先にいたのは、細そうな金髪の外見の男と、フードをかぶってよく見えないが声からして女っぽい人が2人。どちらも人間のような姿をしている者たちが河原で火を起こして囲んでわいわい喋りながら座っていた。
(冒険者? 3人だけとも限らないか)
しばらく30分くらい草の影から眺めていると、森の方から熊のような体型をしたマッチョマンが大きな鹿を引きずりながらやってきてなにやら叫んでいた。
「おーーい! 今日の獲物だ!」
「おー! でかした! 頼む! デル! ご飯にしよう!」
(ちっ・・・陽キャかよ)
遠くから眺めていると細やか会話の内容は聞こえないがなにやらキャッキャウフフを優理に見せびらかすように(私怨)楽しそうにキャンプ? しているように見える。
(ここは話しかけるべきじゃないな。陽キャとは合わないからな。)
優理は人見知りで話しかけれないだけだったが負け惜しみのように撤退を余儀なくされた。
(となるとまた森の中に入らないとか)
ここに人間がいるということは、優理は近くに人間の住む町があるかもしれないと心躍り、少しだけ足早にそして必要以上に迂回して進むことにした。
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