第10話 ぐるぐる

――翌朝 仮拠点


「ふぁーよく寝た。知らない天井だわ。腰痛いなー。」


 翌朝起きた優理は、水の心配がなくなった為、本日の目的を食べられる果物以外の食べ物と設定し、探すことにした。当然森には魔物がいることを確認しているので、今回は経験値の取得もかねて積極的に狩りにいく事にする。


 先日得た水属性魔法を使い、飲み水を生み出し喉を潤す、顔と手を洗い手で歯を磨いたあと水で灌ぐ。


(改めて これが魔法・・・すごいな)


 昨日疲れていた時にイメージと違う威力の魔法が出たため、現実を直視できなかった優理はふて寝したが、今回改めてここで魔法を使った事によって、異世界に来たという実感を再度感じていた。


「この世界で俺は生きてるんだな」


(昨日のゴブリンは1匹だったけど、倒した後そんなに嫌な気持ちにならなかったな。・・・薄情な性格なのは自覚してるけどさ)


 昨日の死骸を見ると血があまりついていないというのもあってグロさはあまり感じなかったが、やはりそこは日本人、血を大量に見たことはないが、見ると確実に掃きそうな印象は受けた。


 だが仮にもし、レベル的なものがあるのだとすれば、ゲーマーとしての血が騒ぐ。キャラも操作も自分自身で味気ないが、優理は自分の好みのアバターや数値に設定した女性キャラをよく愛用していたので、そこに違和感が少しだけあるといった具合だった。


(・・・VRMMOなんてなかったしな)


  優理が特別に好きなプレイスタイルは完全にソロ用。誰とも競う事なく、自分のやりたいようにオンラインゲームなのにオフラインのようにソロ活動するのが大好きだった。


 無駄にインスタントダンジョン内に滞在してボスがリポップするまでの時間を計算したり待ち続けて狩ると言う。効率のくそほど悪いプレイをソロでするのが大好きだった。


 他にも休憩なしでリポップする敵をトレインしまくって熟練度やレベルをあげ、素材集めをするのが好きで、休みの日には半日間ずっとやり続ける事すらあった。


 強さより、着たい服、装備したい装備、その時々で変わることはあるが、基本的に自分のやりたいことをやるのだ。無鉄砲で無計画、行き当たりばったりで非効率な事を、自分でない女性キャラですることに喜びを覚えていたのかもしれない。


 取引の時だけ他のプレイヤーと接するスタイルだが、それすらもNPCとすら思ってプレイしていた。


(レベルに経験値、周回、レアドロップ。大好きだ・・・)


 あるかどうかわからないが、レベル的なものがないにせよ、熟練度的なものはあるだろうと推論を立て、やはり今回は魔物を狩ったほうがいい気がしてきた優理は、経験値マラソンの準備にいつの間にか入っていた。


 夢中になれることがあるのは生きている証である。生存率を上げるのは、いつだって強さであり、知識であり、経験値に基づくデータだ。


「さて。頭の整理も終わったし、近くを狩りつくしますかね」


 いい拠点があれば移動することも視野に入れて、仮拠点を出発し、探索を始めた。





―― 1週間後



 優理は山の漢になっていた。若いので髭はなかったが。


 レベルあげに夢中になり、素材や新しい景色、新しい見たことのない素材、様々な経験をこの1週間でしたが、優理は相変わらず仮拠点にいた。


「ふう。ゴブリンやウルフを狩るのは飽きてきたな。」


 優理が前世でオンラインMMOの自動狩りを行う際は、十分以上の安全マージンを取り、経験値が貰えるレベル帯の範囲の弱い相手で、自動回復が間に合う範囲で、通常攻撃のみのMP回復などの消費アイテムを使わないで、なるべく数をこなす、といったことを永遠と繰り返す行為が好みだったので、こちらの世界でも行ってきたが、経験値の入りが鈍くなってきたのを肌で感じていた。


 本人は知らないが、現在ではレベルが6にあがり、

反復で使っていた水属性魔法のレベルが3へと上がり、新しく取得した投合のレベルは4にあがっていた。


 暇を見つけては反復練習を繰り返すことで、使いやすくなる。また威力があがることを目に見えて実感できたことで、この世界には熟練度的なものがあるだろうと優理は確信していた。


 それは合っているのだが、本人が魔物との戦闘の際通常攻撃と石の投合で倒すので、クリエイトウォーターしか必要としていないので、水が出る量が増えたくらいの感覚でしか理解していなかった。確認する方法もなく感覚頼りだ。


 レベルもまだまだ低く、基礎のステータスは駆け出しの冒険者のGランクの上位くらいのレベルにしかなってなかったが、能天気な優理は元の世界では味わえないレベルがあがった時のなんとも言えない充実感、幸福感がある事を知ってからは、充実感の虜になっていたので、満足しているのだった。


「食べるものにも飽きてきたしなー。あと火がないのがつらすぎる。どうしようかな。・・・でもこの強さで人間の町に行くのも怖いしなぁ」


 優理は川に水浴びやトイレにいく際に、川辺に行った時作った小さい罠があるのだがそこに魚が入ったことがあったが、さすがに淡水魚を生で食べても寄生虫が怖いしおいしくないだろうと思い、泣く泣くリリースしていたことがあった。他にも毛ガニのような見た目のカニなどがいたが、火がないことと魔物と生き物の違いがわからず食べれずじまいだったのだ。


「やっぱ人間、好きな事して生きなきゃだめだよなー・・」



 異世界に来てまで、やせ我慢しても意味がない。

 

 第2の人生、楽しんで生きると決めたのだから。

 


 その日、優理は決意した。人間の住まう街へ行くことを。



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