終わりと始まりの3日間 3日目

第6話 親友


「ふぁー。よく寝た。」


 現在時刻12:00を回ったところで、有給休暇を取っているにも関わらず、ゆっくりめの起床時刻だ。優理が目を閉じてタイムリミットを確認すると、12:00:00を切っていた。


「最後は、あいつだな」


 優理が最後に会うと考えていた人物は中学高校の全てが同じクラスで同じ部活でずっと仲の良い親友のような悪友のような存在だ。


 自分がすべてを諦めかけた時、夢を追いかけて走っている時、悪さをやっている時、田舎から出てはっちゃけて夜遊びばかりしていた時、そばであいつの代わりに見守ってくれた信人という男だ。


 一日目に仕事が終わって家に帰った時にメールを送っておいたので、返事が来ているか確認してみたら、既読はついているが返事はなく、いつも通りだな、と思いながら信人に電話をかけることにした。


 信人という男はなんというか、言わなくても伝わる男で、既読さえついていれば大体、機嫌が悪くない限り電話に出る感じで、もし優理が苦しんでいると感じたらすぐに連絡をとってかけつけてくれる、そんな男である。


 彼との出会いは中学1年の時からだが、仲良くなるのには何の抵抗もなく自然になるべくなったというのが正しい表現かもしれない。優理がもっとも信頼できる理由の一つとして、信人があるときに優理にふと疑問を投げかけてきた事があり、その質問に深く関心してしまったことが優理の中で彼を身内にできる理由となったのだ。


「優理、もしこの世界が夢の世界で。夢の世界が本当の世界だったらどうする?」


 最初は深く感じていなく、軽く笑いながら返事を返した優理だったが、信人を知っていく中で彼がこの質問に対してこめたであろう疑問というものを優理なりにあとあと解釈をしていって、その結果がこの信人を信じる材料になっていき、あまり人間に関心のない優理に、一緒に過ごしたいと思わせるだけの意味があったのだった。


「prrrr・・・・ああ、おれおれ。飲みいかん?ああうん、待っとるよ。いつものところで、あーい了解」


 急なお誘いだが、これで伝わるので十分だ。


 待ち合わせをしたので、時間は指定していないがいつかくるだろうと考え、行きつけのチーズ料理専門店のカウンターで飲みながら待つべく、向かうことにした。オーナーとは仲が良く、二人とも顔見知りだ。だが今日は飲みといっても二人で飲みたい気分の日なので、待ち合わせが終われば他のところで飲もうと思う。


チリンチリン~


「いらっしゃいませー。おー!信人じゃん!元気にしてたー?」


 信人が来たみたいなので一杯だけ飲んで店を変えようと思う。それからお互い一杯、優理は二杯目を飲んで会計をし、ほかの店にいくことにした。


(話にくいので、女の子の店はなしだ・・・何年も行ってないしな。)


 そんな事を考えながら歩いて目的の場所へ向かう。個室のある居酒屋で、ワイワイしているがそっちの方が気がまぎれるのでバーより居酒屋にした。落ち着けるバーなんかで真剣な話をする間柄じゃないのだ。恥ずかしくなってしまう。


「とりあえずー乾杯」


「うす、おつかれー」


「で、珍しいやん。どしたん」


「いやー大した事はないんやけどね、少し話したくて」


「ふーん」

 

 信人は割と無口だ。だが頭も良く、察しもいい。聞き役に徹してくれているのだろう。


「信人なー、おれ昨日実家いってきたわ」


「めずらしいやん」


「そうそうほんで墓参り・・・いってきたわ。まぁ通例みたいな感じやけどなぁ。あいつの誕生日やしな」


「そか」


「ほんでー中学のときとかさー おもしろかったよなー」


「まぁなぁ」


「ほんでー 高校もなー、おもしろかったよなー」


「あんときもー「優理」」


「なにがあった」


「特に何もないんやけどな、年かな。親父たちとも話したりしてなー」


「感傷に浸ってるっていうか、俺ら将来どんなになるんかなー」


「信人と一緒に店とかなんかやりたかったなー焼き鳥屋とか」


「やっぱ目的ないとがんばれないよなー」


「優理、違う店いくか。奢るぞ」


「あーそうやなー今日は飲みたい気分やしなーいくかー」


 信人はそれから何も話さず、トイレに行くふりをして会計を勝手に済ませていた。そのあと店を出て、女の子のいる店に来た。特にそっち系の気分ではなかったがおごりだから気にせず楽しむかってことで、何も考えずに楽しむことにした。


「はぁー、今日は飲んだわ」


「そうだな」


「おい優理・・・ちと面貸せ」


「ん?トイレかー? 川行こうぜ川w」


 信人は何も言わずに川の方へと向かって、優理は何も気にせずついていった。優理は酒が昔から強くないので、信人が強いのは知っているので、いつも酔い潰れた後は信人が世話をするのが当然の流れだ。最悪寝ててもつれて帰ってくれると思っているので毎回こうなってお世話になっている。


 信人は黙って歩き、途中でコンビニに寄るといい入っていき、酔っ払っている優理は外でタバコを吸いながら知らないおっさんに話しかけて過ごしていた。


「おい、いくぞ」


 川のところにあるベンチのところに連れていかれ静かに腰をおろした信人は優理に一本の煙草を差し出しながら


「一緒に、吸うか」


「・・・そうだな。んー やっぱうまいなこれ」


 何も言わずただもらったタバコを吸った。タバコの銘柄はク〇ルマイルドボックス。信人は苦手な銘柄のはずだ。


「お前、今日最初から酔えてねえだろ。言わせんなよくそが」


「俺はあの当時の事を良く知らないからな。お前も言わないし、俺から聞くこともないしな。ただあの時からお前銘柄変えたよな? せめて俺も一緒に謝らせてほしいと思ってな。こんなところですまないが」


「ふうー。ま、合ってるよ。これはあいつが好きだった銘柄だ。俺が吸う専用だけどな。臭いはずなんだけどな。これが俺の匂いだっていうんだよ。そんなん言われたらほかのやつに嗅がせたくないだろ?」


「まったくだ。知らんけどな。」


「はは、いいんだよ俺がわかってればw」


「なぁ信人」


「なんだ」


「俺はな、お前はお前のことを昔からライバルだと思っている。女の趣味は合わないけどな。一生。親友で。ライバルで。悪友で。大切なやつだよおまえは」


「そうか」


「俺さ、お前だけには感謝してんだ。返せてねえけどな。誰よりも俺の事をわかっているお前だからこそ感謝している。ありがとうとかくそさみーから言わねえけど、とりあえず感謝はしてる。それだけだ。」


「・・・」


「お互い、がんばろうな」


「ああ・・・そうだな」


 タバコの火が落ち、吸い終わった時が終了のお知らせかのように、目を瞑るとカウントダウンが赤く表示されていて、優理は思わず鼻で笑ってしまった。


 おそらく信人には大体伝わったと思う。俺と信人の仲だからな、両親の事も、いなくなった後の事も動いてくれると思う。残った俺の貯金も有効活用してくれることだろう。


 言わなくてもわかるし、合図とか決め事とかセリフとかいらない。そんな感じだ。



 信人が出してきたタバコの銘柄は昨日墓標の前で吸ったものと同じもので実に16年ぶりの味だった。


「信人、俺今日はここでいいわ」


「そか、風邪ひかないようにな。じゃ」


 そう言って信人は振りむくこともなく、歩いていった。優理も振り向く事もなく歩くが、歩いていくうちに涙が溢れてきて、しばらく歩いているとついには止まらなくなり、近くの公園の入り口に座り込んでしまい、小さく、それなのに激しい嗚咽が公園内に響いたのだった。


「ふう。じゃあな。信人。おやじ。おふくろ。・・・さち」


 この日、中野優理は人知れず、姿を消したのだった。




 

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