第5話 回想
彼女との出会いは高校3年の時だった。
衝撃的な出会いもなく、日常のありふれた学校生活の中での出会いだった。
彼女は幼馴染でもなければ住んでいる場所も違い、学年も違えば部活などなんの接点もなく、おそらく話も合わないだろう、そんな印象だった。
よくある入学式の時に、先輩が入学してくる後輩を教室から眺めている光景、そんな時に優理も退屈そうに外を眺めていた。
この時の優理は、学校によくいる不良グループのちょっとやんちゃないうことを聞かない生徒代表のような生活をしていて、教師に目をつけられ、先輩に目をつけられ、他校の生徒にすら目をつけられるくらいには印象の悪い生徒だった。
そんな不良には後輩も当然寄り付かず、先輩からの情報や親からの情報で、ほかの生徒も関わらないようにと言明されていたため、後輩は当然、同学年の生徒ですらあまり接点はなかった。
窓から眺めていると目に映る生徒の中にたまたま目が合った少女がいた。その子は遠目ながら目が合い、おじぎをしてくれた。優理はそんな子いるんだなとそのくらいの軽い印象で、どうせ周りの人からあの人と仲良くするのはやめなさいと言われるのも目に見えているのですぐに興味もなくなり、教室の中に目を向け机に突っ伏して惰眠を貪る日常に戻っていった。
一週間程度経ったある日の事、特に一人を除いて特別仲の良い友達もいないためいつも一人で行動している優理は、自動販売機にジュースを買いにふらふらと歩いていた時に、突然後ろから声をかけられた。
「すいませーん。優理先輩ですよね?」
「ん? そうだけど。なに?」
この時はひねくれていたため、一人でいるのが楽なのもあり、その子を睨むように後ろを見た。すると入学式くらいの時に目が合ったあの子が立っていた。大抵の後輩や先生ですら睨み返すと関わらないで去っていくのだが
「少しだけ話したいなって、だめですか?」
「別に、いいけどさ。俺と話してたらみんなから嫌われるからやめといたほうがいいぜ」
「そんなの気にしないですー。じゃあっちいきましょー」
年齢差も身長差もあり、男に睨むようにきつく言われたのに、彼女は微塵も気にしたような態度にも出さず、思わずすごいなこいつと思ってしまった。彼女に導かれるまま運動部が使う水道の近くのちょうど体育館の横の入り口付近で二人で話すことになった。
この時は人と久しぶりに話すのもあって、浮かれていたのかもしれない。黒歴史さながらズボンに手を突っ込みながら、彼女・・・さちの話を聞くことにした。
「で、どこで知ったん? 俺のこと」
「まー有名ですからねえ」
「有名?」
「喧嘩ばっかりしてるとか、タバコ吸ってるとか。・・・モテるとか?」
「ああね、てか、んなわけあるか。そんなやつと話したいって… ネタか? 別に慣れてるからいいけどよ」
「ちがいますよー、お姉ちゃんが、言ってて、気になった? みたいな」
「なんじゃそれ、だれだろ」
「まなって言いますけどーわかります? 3年の」
「んーバレー部のマネの方? テニスの方?」
「バレー部のマネージャーの方ですー」
「じゃさちはヤンキーってことでいいな?」
「なんでですかー!」
「あいつ見るからに不良じゃね? 俺が言うなら間違いない」
「お姉ちゃんと私、似てます?」
「全然、妹ちゃんの方が可愛い」
「ほんとですか? 嘘ですよね」
「かわいいよー。小学生みたいで」
「やめてくださいよー! 気にしてるんですから」
それから優理とさち・・・紗知は休み時間が終わるまでしゃべり続けた。意外にも話は合い、うまく打ち解けたんじゃないかと思う。
そうやって紗知、星宮紗知と優理は出会った。
――墓地
「さち、おれな。あと二日でなんかそっちいけるらしいわ」
「ずいぶんと待たせたなぁ・・・待ってないか!・・・おま自由人だしな」
「俺、結構頑張ったんだぜ? 努力もしたし、結果も出したし」
「貯金もしたし、あと割とモテる? うそうそ冗談だw」
「俺なぁ、やっぱお前がいないと、ダメ人間だわ」
「頑張ってもなぁ。先がみえねえんだわ」
「進んでも、進んでも、おまえいねーじゃんね」
「生きる意味、考えたけど、わかんなかったわ。約束守ろうと頑張ったんやけどな」
「マハルキタ。二人の約束。・・・愛してる、か」
「ごめんな。やっぱ俺おまえのこと忘れらんねえわ」
優理は言葉通り、懸命に生きようとはした。約束だったから。だが頑張っても頑張っても褒めてほしい人に褒めてもらえず、声をかけてもらえないことがこんなにも苦しいことだとは思わなかった。
今の今まであの頃から泣き言は言っていなかったが、口に出していなかっただけで。優理の態度は冷めどんどん感情は薄れていった。
優理も違う女性と恋愛したこともあったし、身体を合わせてみたりもした。一時的な心の緩衝材にはなったと思うし、当時の彼女らの事はきっと情もあるだろうが、好きだったのは間違いないとは思っている。
ただ優理は。本当は
甘えん坊で、弱音をはくたびに慰めてほしくて、頑張る姿を好きといって見守ってくれる人がいるだけで頑張れる単細胞で、傷つきやすく心が強くない為に必要以上に情を持ちたくなくて一定の関係で近づいたと感じたら距離を置き、両手で収まるくらいしか守る力はないから誰も近づけたくなくて離れるように威嚇をし、本当は優しいけれど人が持つ集団生活における悪感情を一挙に引き受けるために自分の存在感を上げて自分に注目させ、自分をのけものやいぢめのターゲットにさせることで他の人を陰ながら守っていたこと、それらを一度も説明した事もないのに理解してくれる人を知ってしまっているから。
さちに言われた事をまた思い出す。
”優理は煙みたいになろうとしている人だね、”
”優理は喋っててもふとした時にどこか遠いところを見ているときがあるよね”
”優理は本当は寂しいんだよね。私が見守っているからね”
「ふう・・・長くいすぎちまったなぁ。帰るか」
自宅を出るときに持ってきた水と米を墓標にかけ、軽く掃除をしたあと、さちの前でタバコを吸って、線香の代わりに据えた。
罰当たりかもしれないが、優理の思い出巡りの勝手な行動だ。一緒に吸ったタバコを据えたかったのだ。
「ありがとな。じゃまた会えたら、またな」
優理は深いお辞儀をし、その場を去った。
きた道を戻り、バスに乗り、飛行機にのって、再度住んでた街に着いた頃には辺りはもう暗くなっていた。
「明日で最後だな・・・なんだか気分的にはもうこのまま逝ってもいいんだが」
「とりあえず移動で疲れたので、寝ますかね。」
精神的に疲れたのもあり、初日からのテンションもあったので、自宅に着いたのに安心し、早く寝付くことができた。
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