第3話 実家の温もり
さて、と
優理は会社のPCからとあるデータを持ち帰っていた。もちろん会社の機密事項に該当するものではない。自分の記録させていた個人閲覧用の情報だ。そのデータを抜いた後は社用PCの個人データは削除した。見られたら恥ずかしいのだ。
一旦会社に行った理由の一つである。他の理由としては前日の案件の事務処理を終え、上司に休暇のお願いを出す為だ。今日の午前中にそれらのことは終えているので、現在会社で行える思い残すこともなくなった。辞表を出すべきだったのかもしれないが・・・
優理の会社のPCに保存されていたデータは、落ち込んだ時などに見ていた小中学校や高校大学のアルバムのようなモノで、仕事で疲れた時に見るようとしてファイリングしておいたものだった。懐かしい。
優理が今朝思い浮かべた中に、当時の記憶で後悔してもしきれない当時思い悩んだ苦い思い出があり、その思いを確かめる為に再度見直しておこうと思い、持ち帰ったのだ。
若い頃は淡い青春時代でもあり、何事も楽しく取り組む事もでき、楽しかった思い出として記憶されている。当時の写真に写った自分自身の写真を見て見ると、何を思ったのか誰よりも目立つヤンキーのような恰好をしている黒歴史的な写真もあり、ギャル男のような髪型をしている写真もあったりで、恥ずかしくもあり、懐かしくもあり、この時の記憶があって今の自分が構成されているのを思えば、認めてあげないとなと思う優理だった。
「元気にしてるかなぁ」
優理の中で、死のイメージは未だに鮮明なものであるが、必ずしも絶対であるか、現時点では確認することも出来ないといったこともあって、自分がいなくなったあとどうなるのかわからない為、犯罪行為や何振り構わずっといった行動は自粛する必要があった。
「家族や知り合いに迷惑かけないように逝かないとなぁ」
目を瞑り、ちらっとカウントをみてみると 【13:30】【58:29:25】
「一便はもう出てるな。実家に一度顔を出したいところだが」
優理の実家は両親は健在で、共働きの為いまの時間であれば自宅にはいないだろうが、今から出て夜までに着けば夜にはどちらも家にいる可能性が高い。両親には会っておきたい優理はすぐさま飛行機のチケットを予約して旅支度を整え、一通のメールを知人に送り、飛行場へと向かった。
離島であるため時間はかかったが、夕方には実家へつくことができたのであった。
「ただいまー。」
「おうお前か。どうしたんか」
優理は実家へと弾丸で帰ってきていた。実に4年ぶりである。両親は驚きなにごとかと構えはしたが、仕事もひと段落して少し時間があったから顔見せにきただけといったら暖かく出迎えてくれた。
「来るんなら言ってくれりゃ飯も用意しとくのに」
「ああ、いいんだ、すぐ帰るからな。土産、置いておくよ」
「すぐ帰るんか、何しにきたんや。そんなもんいらんが、まぁどこでん置いとけ」
両親は不思議そうにしていたが、優理は今日は親と過ごそうと決めていた。今まで親孝行らしき孝行もしたことはなかったが、タイムリミットもあるために優理は自分がやりたいこと、してあげたいことを自分本位でやると決めたのだ。
「そういや親父、老けたんじゃない。そろそろ大人しく趣味の釣りでもして過ごしたら?」
「バカいうなよ。まぁもう年やけな。あと何年かしたらゆっくりするわ」
両親は昭和の人なので、考えも固く、子供の頃はその頑固さと理不尽な子供だからっていう説明のない態度に腹が立ちよく文句を言い返していた。仕事は熱心に定年まで働き、節約して生活し、家も建て、親戚付き合いは部落の会合などは積極的に参加し、子供の近くにいない親戚の世話も行っているとこをよく見ていた。趣味やパークゴルフや釣り、裁縫やお菓子作りや菜園など地味に過ごしているが、口に出したことはないが、現代の子としては今でこそ尊敬できる素晴らしい両親だ。
(とても真似できる根性が俺には備わっていない。親の背中見て育ったはずなんだけどな・・・)
(やっぱしぬ前ってなんだかんだ感謝するもんなんだなぁ)
こうやって過去を振り返り、苦労させてきたななどと考えていると
「なんかあったんか。」
と
(まぁ両親にはわかっちゃうみたいですねー)
「んにゃ、なんもないよ。ただ暇やったけ来ただけやしねー」
「そうか。なんか困ったら言えよ。家族なんじゃけな」
「わかったよ。ちょっと外の風辺りながら。たばこでも吸ってくるわ」
家の裏に川がある。幼い頃は整備されていない川だったのでよくイノシシやシカが駆けあがってきて夜中行けたもんじゃなかったが現在では補強され、そんな動物も上がっては来れない
田舎なので街頭もなく、森と森に囲まれているために真っ暗だ。夜空に光る星は綺麗で、月も光彩をはなって都会じゃ見れない景色なのはまちがいないだろう。そんなとこでタバコを吹かしながらさきほどの事を思い出していた。
「家族なんじゃけ、か」
その日優理は幼少期から育ってきた思い出に耽りながら
誰にも見られないところで人知れず涙を流したのだった。
田舎の星は綺麗じゃね、なんて話ながら戻り、こたつに入りながら両親が寝るまで話をした。そして久しぶりの自分の実家の部屋に懐かしさを感じながらぐっすり眠りにつくのだった。
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