第3話-3 初めての冒険

まだヤキモチを妬いてるのか少し不機嫌だった魔王ちゃんだったが、レストランの前に着くと驚きの表情に変わる。


「ゆ、ゆうり!これはなんじゃ!?なぜ箱の中にご飯が飾られておるのじゃ!?」


「これはね、食品サンプルって言って本物じゃないんだよ!どんな料理か分かりやすいように見本を飾ってるんだね!」


「ふわぁ!まるで本物みたいなのじゃ!人間はすごいのじゃな!」


「うんうん!あ、それで魔王ちゃんはどれを食べてみたい?お店の中で本物が食べられるよ!」


「そ、そうじゃなぁ!我は…」


ガラスケースの中を楽しそうに眺めながら魔王ちゃんが決める。


「あの黄色いキレイなやつが良いのじゃ!」


「オムライスだね!それじゃあ中に行こっか!」


魔王ちゃんの手を引き店内へと。


隣同士に座り、注文を済ませると、待っている間しばらく魔王ちゃんと雑談をする。


「初めて冒険をしたが、楽しいのじゃな!」


「うん?初めて?」


「うむ!初めてなのじゃ!いつも魔王城におったからの!」


「外に出たことなかったの?」


「うむ…。配下が城の外は危険だからダメじゃと。外の世界は話に聞くだけだったのじゃ。我は配下からの信用がなかったのかのぉ…。」


「それはきっと魔王ちゃんのことが大好きだからこそ、心配だったんだよ!」


「そうだと良いのじゃが…。だがそうなら嬉しいのじゃ!我も配下達のこと好きじゃからな!」


「あ、もちろんゆうりも好きなのじゃ!」


「私も魔王ちゃん好きだよ!」


「えへへ。嬉しいのじゃ。」


魔王ちゃんがかわいくて思わず頭を撫でる。


嬉しそうにする魔王ちゃん。


だけどそっかぁ。


初めての冒険だったんだ。


それならと魔王ちゃんに提案する。


「魔王ちゃん!まだまだこの世界には楽しいところがいっぱいあるよ!」


「それはまことか!?」


「うん!だから今日だけじゃなく、これからもいろんなところ冒険しよっか!」


「行きたいのじゃ!見てみたいのじゃ!」


「私がたくさん案内するね!約束するよ!」


「約束なのじゃ!」


こうして、魔王ちゃんがこちらの世界にいる間にやりたいことが決まった。


それから、しばらくすると注文していた料理がやってくる。


嬉しそうにオムライスを頬張る魔王ちゃん。


顔がケチャップまみれに。


「ま、魔王ちゃん顔が汚れちゃってるよ!」


「うむ?」


顔をナプキンで拭いてあげる。


「はい!これで綺麗になったよ!」


「ゆうりありがとなのじゃ!」


「どういたしまして!オムライス美味しい?」


「うむ!美味なのじゃ!」


「そっかぁ!よかった!」


満面の笑みを浮かべる魔王ちゃんに、思わず私も笑顔になる。


「ゆうりはまるで母様みたいなのじゃ!」


「私が?魔王ちゃんのお母さんみたい?」


「うむ!すごく優しくて、いつも我をかわいがってくれてたのじゃ!それに我が魔王を引き継いでからも、困ったことがあると手助けをしてくれたのじゃ!」


「そっかぁ!良いお母さんなんだねぇ!」


「そうなのじゃ!我の自慢の母様なのじゃ!」


そんな素敵なお母さんと一緒だと思ってもらえていることが嬉しい。


それから、魔王ちゃんがお母さんのことを嬉しそうに話してくれるのを聞きながら、食事を済ませる。


そして、二人でドリンクを飲みながら一息ついている時だった。


魔王ちゃんが申し訳なさそうに話し出す。


「ゆうりにこんなにお世話になっているのに、今の我にはなにも返せるものがないのじゃ。」


「そんなこと気にしなくていいよぉ!私が好きでやってることなんだから!それに魔王ちゃんと一緒にいると楽しいからそれで充分だよ!」


「うむぅ。そういってもらえると嬉しいのじゃ。だが、いつか必ずゆうりにお礼をするのじゃ!楽しみに待ってて欲しいのじゃ!」


「うん!待ってるね!」


それからそれから、話題は変わり魔王ちゃんの配下の話へと。


「そいえば、魔王ちゃんの配下ってどんな姿だったの?」


「うーむ。そうじゃなぁ。こちらの世界で例えると…。」


「ゆうりが先ほどかわいいかわいいと撫でておった犬とやらに似ておる者やあそこで丸くなっておる者などじゃな!」


魔王ちゃんが指差す方を見てみると、猫が気持ちよさそうに日向ぼっこをしていた。


「えー!絶対かわいいやつだ!いいないいなぁ。見てみたいなぁ。もふもふしてみたいなぁ。なでなでしたいなぁ。」


「だ、だめなのじゃ!ゆうりは人間じゃから!き、きっと襲われるのじゃ!だから我をかわいがっておれば良いのじゃ!」


あれれ?


もしかして魔王ちゃんまたヤキモチ妬いてる?


「えー。それじゃあ…。」


「魔王ちゃんのこと、たくさんかわいがっちゃうー!」


魔王ちゃんに寝る前の時のようにぎゅっと抱きしめ、頬と頬をすりすりする。


「ま、またなのじゃ!?ゆうり!くすぐったいのじゃぁ!」


その後満足すると、レストランを後にし、またショッピングモールを見て回り、帰宅する。


家の玄関に着くとふと思い出す。


一人暮らしだと、つい忘れてしまうことを。


「あ、そうだ!魔王ちゃん!自分の家に帰って来たら、ただいまって言うんだよ!」


「うむ?じゃが、ここはゆうりの…」


「ううん。これからここは魔王ちゃんのお家でもあるんだから!」


「ゆうり…。ただいまなのじゃ!ゆうり!」


「おかえり!魔王ちゃん!」


これで魔王ちゃんの初めての冒険は終わり。


だけど、これからまだまだたくさんの楽しい冒険が待っている。

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今日も魔王ちゃんに癒されたい たるたるたーる @tarutaru_ta-ru

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