第3話-1 初めての冒険

ピピピピピ


いつもの起床時間にセットした目覚まし時計が鳴り響く。


寝ぼけながらも時計を止めると、抱きしめていた魔王ちゃんを確認する。


スヤスヤと眠っている姿もかわいく、頭を撫でるとふにゃあと笑顔になる。


しばらく、眺めていると目が覚める魔王ちゃん。


「おはよ。魔王ちゃん。」


「んん。おはようなのじゃ。ゆうり。」


「ずっと抱きしめちゃってたけどちゃんと休めた?」


「ゆうりのおかげでばっちりなのじゃ。」


「うん?私のおかげ?」


「うむ。なにも知らぬ世界。華奢な人間の身体で力も僅かしかなく、元の世界に戻る方法もわからぬ。本音を言うと不安だったのじゃ。」


魔王ちゃんの表情が少し暗くなる。


「じゃが、ゆうりが一緒にいてくれて。提案したのは我からじゃが、こうやって抱きしめてくれて。安心して休めたのじゃ。」


「えへへ。そう言ってもらえると嬉しいなぁ。」


抱き枕をダメにしちゃって、代わりを提案したと思っていたけど、本当は不安だからでもあったんだね。


なにもわかってなかったけど、結果的に魔王ちゃんの役に立ててよかった。


私は嬉しくなり魔王ちゃんをぎゅっと抱きしめる。


「こ、こら!ゆうり!安心するとは言ったがさすがにこれは苦しいのじゃ!」


「あはは!ごめんごめん!それじゃあ、朝食済ませて魔王ちゃんの服を買いに行こっか!」


「うむ!今日もよろしくなのじゃ!」



二人で朝食を済ませると、玄関に立つ。


不安から緊張しているのか、少し震えている魔王ちゃん。


だけど、私が一緒なのを確認して、気持ちを落ち着けるとドアを開け、初めての外へと出る。


そして、マンションの外まで出ると、驚きの表情に変わる。


「ゆ、ゆうり!すごいのじゃ!高い塔がたくさんなのじゃ!昨日ゆうりの部屋から見た時も驚いたが、下から見るとさらにすごいのじゃ!」


「そ、それにあれはなんじゃ!?箱の様な物が動いているのじゃ!」


「あれは、車っていって人が乗って移動するものだよ!魔王ちゃんの世界だと荷台を引いてくれる馬を必要としない、馬車みたいなものかな!」


「そ、そうなのか!?不思議なのじゃ!まるで、魔法なのじゃ!」


「乗り物はあれだけじゃないよぉ!空を飛ぶ乗り物とか、海を渡るための船とか、他にもいろいろ!あ、船は魔王ちゃんの世界にもあるのか。」


「な、なんじゃと!それは見てみたいのじゃ!」


「あ、ちょうど空を飛んでるね!上を見てみて!」


「あ、あれは!ドラゴンなのじゃ!こちらにもドラゴンがおるのじゃな!」


「あはは。あれは違うよ!飛行機っていって、車とかと同じ生き物ではない乗り物だよ!」


「こちらの世界はすごいのじゃ!初めて見るものばかりなのじゃ!」


先ほどの緊張が嘘の様に、はしゃいでいる魔王ちゃん。


そんな魔王ちゃんを見て、私まで楽しくなってくる。


それから、また魔王ちゃんが気になる物を見つけては説明しながらショッピングモールへと向かう。


「とうちゃーっく!今日はここで買い物しようね!」


「ふわー!他の建造物よりも遥かに大きいのじゃ!ここは城なのか!?」


「ちがうよー!ここはたくさんのお店が入った建物で、魔王ちゃんの世界だと武器屋とか道具屋とかが集まってる場所だね!必要なものは大体ここで買えるよ!」


「配下から話は聞いたことがあるのじゃが、実際見たことがないから楽しみなのじゃ!」


「まぁ、さすがに武器とかは売ってないんだけど。」


「そうなのか…?残念なのじゃ…。」


「でも、ほんとにいろんな物があるから楽しいと思うよ!」


「うむ!早く見たいのじゃ!じゃが…」


「ん?どしたの?」


「ここは人間が多いのじゃな…。」


「やっぱり怖い…?」


「うむ…。怖いのじゃ…。でも、いろんな物を見てみたいのじゃ…。」


んー。この世界に魔王ちゃんを恨んだりしてる人はいないんだけど…。


でも、魔王ちゃんにはまだ信じられないよね…。


「魔王ちゃん!手を繋ご!」


魔王ちゃんに左手を差し出す。


「手を…?」


「うん!これでずっと一緒だよ!そして、なにがあっても側で魔王ちゃんを守るからね!」


魔王ちゃんが私の手をぎゅっと握る。


そして、腕に抱きつく。


「これで、もっとゆうりの近くなのじゃ。安心なのじゃ!」


「あはは!転ばない様に気をつけてね!」


「うむ!それでは、ゆくのじゃー!」







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