06.頻発する怪事件
だがその晩から、奇妙な事件が起こるようになった。
あの骨董品屋から少し離れた町に、放置された空き家があった。板葺き屋根は朽ちかけて、
空き家の前を、千鳥足の男がゆきすぎる。先程にも増す大声で歌い出した男を、今夜は待つ者がある。
「ちょいとお兄さん」
艶っぽい声が、愛想良く呼びかけた。中年男はよろよろと振り返る。
「後ろじゃないよ、右を向いてごらん」
「そこかぁ。こんな時間にかわいこちゃんかぁい」
崩れた塀によりかかる女を、街灯が白く照らし出す。背中に隠した右手に何か長いものを持ち、紺の
「どうしたんだぁい、終電過ぎちまったんならおれんちに来てもいいんだぜ」
とろんとした目で近付く男に、
「そんなことより
「せ、せ、なんだっけ?」
塀に背中をこすりつけ、地べたにすべり落ちる。
「野田泉光院だよ。知らないんだね」
男は座り込んで、ああ、と言うようにうなずいた。
「それなら、あたしの遊びにつきあってもらおう」
「遊び?」
と見上げた男が見たものは、抜き身の刀をぶるさげた女の妖しい笑顔だった。
「ひ、ひぃぃ」男の口を、悲鳴がついて出る。「ひ、人殺し、気狂い!」
酔いも吹き飛び、腹這いのまま逃げ出す男を、女はけらけら笑いながら、わざとゆっくり追いつめる。
「た、助けてくれ、誰か」
言葉はのどに張り付き声にならない。人影求めて視線を巡らせば、崩れた塀から空き家の縁側が見えた。そこに腰掛ける白い影――子供がじっと女をみつめている。その目にはかすかに、嫌悪の色があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます