ぽんかん

どもども

激しく音を立てながら流れる川。

その中を静かに遊ぶように泳ぐ川魚。

どれもが自我を持って強く生きているんだ。

窓ガラスに反射する私の瞳には底からの魂が無いように見えた。

私は今何をしていんだろう…?そう手を伸ばしても、答えは空気のように指と指の間から落ちていく。


カップに残っているコンソメが鼻を突く。


意味もないのにLINEを開く癖がついてしまった。


「おはよ~」あ、岡だ。「おはよ」


「最近さ~一組の真鍋が花火大会行かない?って誘ってきたんだけどさ~」


花火大会か懐かしいな。まあ、いいや「へー良かったじゃん」


ポロン


「そうかな~?でもあいつ彼女いなかったけ?」


あーめんどい。知らんちゅうの「そうだっけ?そしたら断った方がいいよ」


「だよね~どうしよ」


結局そうだ。私は相手に同意することしか出来ないんだ。


でも何故か求めちゃう、意味のない会話に。


「まぁ頑張れ!私今からご飯食べるから返信できない。ごめん」


冷え切ったカップを横目に見ながらフリックする。


スマホをテーブルに伏せソファに顔を埋める。


足をバタつかせる。顔を枕にスリスリする。何か人に愛想振りかけてるみたいだな、


窓で黄昏てる人みたい。


蛍光灯の光が眩しい。瞼を擦りながら散らかった新本紹介を手に取る。


はて、今日はライトノベルに行ってみるのも吉だな。


「超爆発!乙女の心を繊細に描く淡いロマンス小説!フィローリ!好評発売中!!!」


好評発売の反対ってなんだ?まあ、知らなくていいや。


今日はこれにしてみよう。そそくさと服を着替えていると、微かに雨音が響いている。


傘でも持っていこうか。傘立てもない玄関にしばしの告げる、


ガチャン。ドアがいつもの音を立てて閉じる。


長いアパートの廊下に人影は見えない。


パイプをつたって排水される水の音が、湿った空気にこだまする。

雨が土を打ち付ける音が静かに流れている。


鍵を閉め、ポケットに入れると引き換えにイヤホンを取り出す。


ノイズキャンセリング。


私たちがノイズと思っている物は地球の祈り声なのかもしれない。


くだらないか、待ってたように口が微笑する。


鋭く息を吸い体全部に新鮮な空気を送り込む。やっと体が起き始めたらしい、


エレベータで1Fを選択する。扉が開くと幼い子供がエントランスで遊んでいた。


「おい!それ僕のイヤホン!」「しらないよ~二つあるんだからいいだろ?」


また口が微笑する。子供は何も知らずに与えられる物を信じ込むのか。


まるで目隠しされた私みたい、


左手の傘を広げ道路沿いを進む。


雨に濡れる生垣が折れた枝を必死に直そうとしている。


カランコロン…コーヒーカップが道のど真ん中で右往左往している。


誰も近くにはいない。え?これ私が取れってこと?


出来るだけ冷淡な顔をしてカップを拾う。


実際出来ていたかはわからない、自分に嘘を付ければいいんだよ。所詮。


アスファルトの黒い色素がカップを汚している。


道は所々穴がほげて水たまりになっている。車が向かってきた。


身を家壁に寄せる。通過した後の空気が体を差す。


自分の体温が冷めていくのを感じる。そうしている内にもう橋だ。


ここを越えるとすぐ本屋。


指たちがピアノを弾くように手すりの上を移動する。


雨は昨日から降っていたんだろうか。川が勢いを増しているようだ。


捨てられた自転車をすり抜け強い流れとなって、

一本の波となって橋の下を通過する。


すると何処で落ちたのか、ポンカンがゆっくり流れてきた。


他と同じように波に沿って上下し川を通過していく。


その時だった。


ポンカンは波に乗っていたのにもかかわらず道を外れた。


突き出た石に刺さった。


ポンカンは沈黙した。


波も黙って流れた。


私は足がすくんだ。


死んだポンカンが目から離れなかった。


雨音が小さく聞こえた。

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ぽんかん どもども @sosoalways

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