第6話
「ハァっ!!」
「コビー・シュルツ君、126」
「「「おー……」」」
魔力測定器は一つ。そこに一人一人手をかざし、自身の魔力をありったけ注いで魔力値を測る。
予想通りと言うべきか、100を超える魔力値を出す者には響めきが起き、そうでない者は見向きもされないと言うのが現状であった。
「やっぱ皆んな魔力高いんだなぁ……」
そんな光景を、どこか他人事の様に見つめるアイル。
よほど自身の魔力に自信があるのか、それとも別の理由があるのか。皆が緊張している中、異様な程いつも通りだった。
「大丈夫……大丈夫……この学校に入れたんだから、魔力測定だって……」
この魔力測定で今後のカーストが決まると言っていいのだ。
普通ならアイルの前にいる少女の様に緊張するものなのだが、アイルは次々に魔力測定をするクラスメイトを、観察する様に見つめている。
「でも……もし私の魔力が低かったら……うぅ……」
………しかし、緊張し過ぎではないだろうか?
そう思うほど、アイルの前にいる少女はブツブツと呪文の様にネガティブな言葉と自分を奮い立たせる言葉を繰り返している。
「次!、12番!!」
「も、もう来る………!」
しかし、時間は待ってくれない。順番が近づいていく度に、その少女の動揺は大きくなっていった。
「……えーっと……緊張してる?」
「……へ?」
何だか居た堪れなくなったアイルは、痺れを切らした様に前の少女に話し掛ける。
「いや、さっきから何だかソワソワしてるから……」
困った様に笑ってアイルがそう言うと、少女はゆっくりとアイルの方向に振り返る。
「あ、あなたは緊張してないの?」
「いや、まあ、なる様になるし……」
今にも泣きそうな顔でそう尋ねる少女に対し、苦笑いでアイルはそう返す。
少女は小柄で、その身長の低さと怯えた姿はまるで小動物の様だ。
青いストレートの髪は腰の辺りまで伸びており、それと同じく目も青い、子供っぽい体格とは裏腹に、中々に端正な顔立ちをしていた。
飄々としているアイルに対し、その少女は羨望の眼差しを向ける。
「す、すごい……私なんか……」
かと思えば眉毛をハの字に曲げ、不安げに少女はそう呟く。
なんとも感情の起伏が激しい少女だ。
「……とりあえず、ネガティブな事を考えない様にしたら?」
「む、無理だよぅ……」
あいも変わらずネガティブな思考を拭えないのか、困り切った表情で少女は弱々しくそう返す。
………入る学校を間違えたのでは無いだろうか?アイルはそんな事を思う始末だった。
「次!、14番!」
「は、はひぃ!?」
すると、残酷にもその少女の順番がやってきてしまった。
全く心の準備が出来ていないのか、未だにガチガチに緊張している。
………こりゃダメかもな。
アイルが真っ先に抱いた感想はこれだった。
自身の魔力を高めるには、相当な集中力を要する。だからこそ気が抜けていたり、緊張していたりすると逆効果なのだ。
この様子ではいくら魔力が高くてもせいぜい60〜70が関の山だろう。ご愁傷様と思いつつ、アイルは目を瞑って集中力を高める。
次は自分の番だ。自身の最大魔力値はアイルとしても知っておきたい。
「14番!アリア・ヒルストン。98!!」
「………え?」
教師が言ったその数値にアイルは耳を疑い、慌ててその少女の方を見てみる。直前で吹っ切れでもしたのだろうか?
しかし、表情は先程と同じで緊張したままだった。
数値だけを見ればただの平均値だ。周りも特に驚いている様子は無い。
しかし、先程までガチガチに緊張していたあの少女が、こんな数値を出せるとは思えない。
何故ならば集中出来てない状態で魔力を込
めても、半分ほどの力しか出ないからだ。
……もしその状態でのこの数値だとしたら、彼女が本来の魔力を出せれば相当な値が出るんじゃ無いんだろうか?
「次!15番!!」
「え?あ、はい!!」
そんな事を思うのも束の間、今度はアイルの番がやって来た。
_______________
「お疲れ。ビミョーだったな。106君?」
「へーへー。全く、137様には頭が上がりませぬ」
測定を終え、互いにそんな冗談を飛ばすテグナーとアイル。
測定を終えての結果はアイルが106。テグナーが137と言った具合だった。
「その割には全然落ち込んでねーじゃん。何?お前手を抜いたのか?」
「いや、一応全力は出したよ?」
そう言うアイルだが、悔しがっている様子は微塵もない。
と言うか、そもそもそんなに数値に固執している様には見えなかった。
「テグナーはどうなの?満足の行く数値だった?」
すると、今度はアイルがテグナーにそう聞く。
「うーん、まあ、及第点ってところかな。そもそも魔力値ってのは生まれ持った素質でも大きく左右されるからな。あんまり参考にしちゃいねーよ」
「おー、その数値で満足行ってないとは。目標がお高い」
のんびりとした口調でアイルがそう言うと、テグナーは少し顔を顰めた。
「………本音を言え。お前、魔力値に関しては殆どどうでも良いと思ってんだろ?」
直接的なテグナーの言葉。今までの言動からして、そうとしか思えない様な態度だった。
しかし、アイルはそれを受け流す様にヘラリと笑う。
「どうでも良いとは思ってないよ。……ただ、それに目が眩んでる連中が多いなーって。……まぁ、魔力値106の俺が言っても説得力無いんだけどねー」
ケラケラと笑い飛ばしながらそう言うアイルに対し、肩透かしを食らったテグナーは頭を押さえて大きくため息をついた。
「……はぁ……いつかはお前の化けの皮を剥がしてやりたいもんだよ」
一体、このアイル・ベントラーデと言う男が何を考えているのか。
テグナーにはまだ分からなかった。
ウィルヘルム魔法戦記 浅井誠 @kingkongman
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