第5話
「どうだった?入学式」
「……別に、なんにも」
「なんにもって何だよ」
中庭、入学式を終え、今日一日の学校が終わる。本格的な講義は明日からだ。日もまだ高い春の陽気の中、寮に向かってアイルとリーラは会話をしながら歩く。
「どんな感じ?機動科」
「強そうな人いっぱい居る」
「そりゃそうだろうね。ついて行けそう?」
「……分かんない」
相変わらず淡々と、アイルの質問に必要最低限の言葉を返すリーラ。
その様子を見て、やはりアイルは困った様に笑う。
「その様子じゃ、友達も出来てなさそうだな」
アイルがデリカシーの無い言葉を掛けると、案の定リーラは顔を顰めた。
「………別に、友達作る為に
「はいはい、そーですか」
そんな彼女に対し、受け流す様にそう返すアイル。
この調子では数多の人間が居るこの学校では上手くやって行く事は出来なさそうだ。
しかしそれとは別に、アイルには聞きたいことがあった。
「そう言えば、今日の新入生挨拶、リーラも見たろ?」
アイルがそう言うと、今まで淡白だった対応から一転、一瞬リーラの肩がピクンと跳ねる。
どうやら何か知っている様だと、アイルは心の中でほくそ笑む。
「何か話したりしたか?」
「……別に。ただ、同じクラスなだけ」
「おお!そりゃ幸運」
確か機動科のクラスも12クラスだ。その中でリーラとフレンが一緒のクラスになったと言うのは、アイルにとって幸運だった。
「どう言う人だった?その、フレンってやつ」
「………何でアンタが気にするのよ?」
「情報収集だよ。大講堂であんだけの啖呵を切ったんだ。どんな人間なのかは把握しておきたいだろ?」
機動科ながら、新入生挨拶の代表を務めたのだ。今後軍に入った時のパイプとして、もし機会があれば仲良くなっておきたいと言うのが、アイルの狙いだった。
「………なんて言うか、よく喋る人だった」
一瞬考える様な仕草をしてリーラがそう言うと、アイルは意外そうな表情を見せる。
「ホント?大講堂じゃあんだけ喧嘩腰だったのに?」
アイルが持つ印象としては常にピリピリしてる様な尖った少女と言う認識だった為、リーラの言葉に驚きを隠せない。
「じゃあ、自分の目で確かめなさいよ」
そんなアイルの反応が気に入らないのか、無表情の顔を少し顰めてリーラはそう言い放つ。
「なに不機嫌になってんだよ。……まあいいや。今後もそのフレンについて聞くこともあるかもだから、そん時はよろしく頼むよ」
「…………あんまり期待しないで」
そしてアイルが困った様に笑ってそう言うと、難しい顔でリーラはそう返す。
学校が始まってまだ初日ではあるが、中々に濃い人間が多そうだなと言うのが、アイルの士官学校に対する感想だった。
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「おはようございます。では早速、本日から魔力測定を行います」
翌朝。授業開始早々、教師からそう宣言されると、教室の雰囲気がピリッと張り詰める。
魔力や魔術がモノを言うこの士官学校において、魔力測定と言うのは今後の学校内での自身の立場を決定付ける事にもなる。
その事を皆、理解しているのだろう。
「……来たな」
「………だね」
教師の言葉に対し、アイルとテグナーも真剣な面持ちになる。
教室を見回しても、張り詰めた表情を浮かべる者ばかりだ。
「測定は今から配る番号札の順番で行います。測定が終わるまでは杖などの魔具の使用は禁止です。その後の実技では自身の魔具を使用する事を許可します」
淡々とそう述べる教師に対し、教室の緊張感が更に増して行く。
「よろしいですね?」
「「「は、はい!!」」」
最後に確認する様に教師がそう言うと、慌ててクラスメイトも返事を返す。
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魔力測定。
それはユーキリンス士官学校。いや、魔術大国であるウィルヘルムにおいて、最重要のイベントとも言っていい。
魔力の数値化。魔力値と呼ばれるそれは、つまり優劣を付けると言うことでもあり、皆自身の強さを示そうと血眼になって魔力を高めようとする。
そしてこの魔力測定の平均値は100と言われる。それ以上になれば羨望の眼差しが送られるし、それ以下であれば軽蔑の眼差しが向けられる。
「……魔力値だけが全てじゃないんだけどなぁ……」
「まあ、一番数値が出て優劣を付けやすいのが魔力測定だからな」
そして今アイル達は、鍛錬場の様な場所に連れてこられている。
顔を顰めてアイルがそう呟くと、苦笑いになってテグナーがそう返す。
鍛錬場の中央には大きな魔鉱石がガラス張りに囲まれ、何やら物々しい機械の様なパイプが張り巡らされている。
そしてそのパイプの行き着く先に、手のひら程の空いたスペースがあった。
これが魔力測定器だ。この魔具に片手をかざし、自身の魔力を測るというものだ。
「それでは、各自配られた番号札順に並んで下さい。席順とは違うので間違えない様に」
あいも変わらず教師が淡々とそう言うと各自、自分の番号を確認しながら列を作っていく。
「じゃあ。まあテキトーに頑張ってね。テグナー」
「テキトーってなんだよ。アイルも恥になる様な数値出すなよ?」
「分かってるって」
そんな軽いやり取りをして、番号札が離れているアイルとテグナーも別れる。
皆緊張し切っていると言うのに、この二人には何故か余裕があった。
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