第4話
「強烈だったな」
「強烈だったね」
入学式も終わり教室に戻ると、アイルとテグナーはすぐさま壇上で喧嘩を売ったフレンの話題に入る。
フレンのあの挨拶が他の人にも衝撃的だったのか、まだ教室内でも騒めきが治らなかった。
「アイルにはどう映った?あの女」
「映ったって?」
「個人的にどう思うか聞いてんだよ」
テグナーにそう聞かれると、アイルは少し考え込む様な仕草をする。
確かに喧嘩を売る様な言葉を彼女は投げかけた。しかし、それが虚栄心でない事は口調や表情からも読み取れた。
「……個人的には悪くないと思う。あれぐらい強気な方が機動科には合ってるだろうし、俺の知り合いにも、機動科に似たような尖った奴が居るからね」
「へぇ、意外だな」
アイルの回答に、言葉通り意外そうな表情になるテグナー。
「なんで?」
それに対し、アイルも首を傾げる。
「さっきも少し触れたが、魔導科ってのはエリート意識の強い奴が多いからな。お前もプライドが傷つけられたんじゃねーかと思ってよ」
テグナーがそう説明すると、半笑いになって「無い無い」とアイルは否定する。
「俺自身、小さな田舎村の出身だからね。他人よりも多い魔力がある事は自負してるけど、エリート意識なんてこれっぽっちも無いよ」
ニコニコと笑いながら、アイルは当たり障りのない事を言う。
「……どうだか、俺の見立てじゃ、お前は本心を曝け出さないタイプと見た。いつかはその面の皮剥がしてやんよ」
しかし、テグナーはそのアイルの笑顔に違和感を感じたらしく、直接的な言葉を掛ける。
「出会ったばかりだってのに酷い人間だねぇ、テグナーは。今のこの俺も本当の俺だよ?」
しかし、それを受け流すように、アイルは軽い口調でそう返す。
中々面の化粧は厚そうだと、テグナーは心の中で舌打ちをする。
「テグナーはどうなの?」
すると、今度は逆にアイルから質問される。
「俺か?、俺は気に入った!強い女は嫌いじゃ無いしな。それに、天狗で鼻が伸びきってる"貴族魔導士"の連中。あん時のアイツらの顔を思い出すと今でも笑いそうになるわ」
心底面白がるような顔で、テグナーはそう言う。
どうやら快活なだけで無く、思った事がそのまま口に出るような人間らしい。
本来ならこう言う性格はあまり軍に向いていないのだが……
「……あまり敵は作らない方が良いと思うよ………でも……」
そう言って、アイルは教室を一通り見渡す。
「何様だよ、あの機動科の女」
「機動科だから、虚勢張ってるだけじゃ無いのー?」
教室から、そんな会話をしているのがチラホラ聞こえる。
それを見て、アイルは少し悪どい笑みを浮かべた。
「あの程度の挑発に乗る人間がこの学校にも居るって分かった点は、収穫かな?」
見下す様にアイルがそう言うと、テグナーは一瞬驚いた後、苦笑いを浮かべる。
「………お前、相当良い性格してるな」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
皮肉たっぷりのテグナーの言葉にも、なんとも無い様にそう返すアイル。
正に食えない男と言う言葉がピッタリだなと、テグナーはアイルに対しその様な印象を抱いた。
そして、何より人をよく見ている。この教室で最初にアイルに話し掛けた時も、観察する様にこのクラスを見回していた。
視野が広く、器用で性格の悪い奴。本来なら自分とは会わないはずの性格なのに、何故だか悪い気はしない。そんな矛盾した違和感がテグナーの中にあった。
「……やっぱり、お前とは仲良くやれそうだ」
「え?、今の話を聞いて?」
予想外の言葉がテグナーから飛び出し、少々驚いた様な表情を見せるアイル。
「ああ。性格は悪いが性根は腐ってない。是非とも味方には付けておきたい」
「……どーも。性格が悪いのは昔ながらなので」
悪口なのか、誉めているのか分からない様な言葉を投げかけられ、微妙な表情になるアイル。
「ところで、機動科に知り合いが居るって、アイルは言ってたよな?」
取り敢えずは友人として接していこう。そう思ったテグナーは話題を変える。
「うん、それが?」
「どんな奴なんだ?流石に機動科に入るくらいだから、筋骨隆々の益荒男みたいな奴なのか?」
先程アイルから聞いた機動科に知り合いが居ると言う言葉。それを思い出し、興味本位で聞いてみたのだ。
「いや、違うよ?むしろちゃんと食べてんのかってくらい細い。その分、すばしっこさはあると思う」
「へぇ、意外。ここに入る男共なんざ、みんな暑苦しくてガタイの良い奴ばかりだと思ったんだがな」
どうやらイメージしたものとは結構違いの差があったらしく、テグナーは少し驚く。
しかし、次のアイルの言葉によって、テグナーは更に驚く事になる。
「いや、そいつ女だよ?」
「詳しく」
アイルの発言に、餌を見つけた鯉の様にすぐさま飛び付くテグナー。
どうやら色ボケもしやすいタチらしい。
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