第3話


 「マジか、めちゃくちゃ広いな」


 「流石は国随一の士官学校ってところか」


 入学式。学校内に併設された大講堂に入ると、アイルとテグナーも感嘆の声を漏らす。

 ここに来てからは何もかもがスケールが違う。田舎にいた頃とは比べ物にならないほどの違いに、アイルは驚いてばかりであった。

 そんな中席に着き、しばらくするとステージの上から、一人の男性が前に出て来る。


 「コホン、それでは、これよりユーキリンス魔導士官学校、第51期生の入学式を開始します。先ずは各教師の______」


 教師の一人だろうか、淡々と入学式は進められて行く。流石は将来の士官候補生と言ったところか、皆真剣に耳を傾けている。真面目でご苦労な事だ。


 「ふぁーっ……なげーよ」


 「目立つよ、テグナー」


 しかし、テグナーは緊張感が全く無いのか、呑気に欠伸なんざかましている。

 周りの生徒から少し訝しむ様な目線を向けられた。

 

 「どうでも良いだろ。どうせ授業で嫌ってほど顔を合わせる事になるんだし」


 「こう言う場では体裁を保つのも大事だよ?」


 「ハッ、知った様な事を言うねぇ、アイル様は」


 入学式の最中だと言うのに、なんとも自分勝手な事か。士官学校では珍しいタイプだと思っていたが、どうやら想像以上だったとアイルは困った様な表情を見せる。


 「それよりアイル、メインイベントだ」


 すると、テグナーはステージの方を指差し、面白がる様にそう言う。アイルもその方向へと顔を向けると、金髪の髪を後ろで一つに纏めた美人さんがステージの前に出ていた。


 「それでは、新入生代表の挨拶です。機動科、一年。フレン・ウィグナー」


 「はい」


 教師から"機動科"と言う言葉を聞き、講堂が少し騒つく。


 「え?機動科?」


 「新入生挨拶は魔導科の人間じゃねーのかよ」


 少し、異様な雰囲気になる大講堂。その空気に、アイルも少し困惑気味でいる。


 「……なんでこんな騒ついてんの?」


 「そりゃ、機動科の人間が新入生挨拶してるからだろ」


 アイルがそう聞くと、さも当たり前かの様にテグナーがそう返す。


 「……どう言う事?」


 しかし、それだけではこの異様な雰囲気の正体が分からないのか、更にアイルは表情を困らせる。


 「ここは魔法国家だぜ?アイル。つまりは魔法が出来る奴が一番偉いんだ。だったら新入生の代表となるには魔導科の奴しかいねーだろって事」


 端的なテグナーの説明に、なるほどと頷くアイル。

 何度も言う様に、ここウィルヘルムは魔法国家だ。自身の持つ魔力やその技術が、そのままステータスとなる。そしてこの士官学校は、実践的な戦いを学ぶ"機動科"と、魔法を極める"魔導科"で分かれている。どちらが優先されるかは明白だ。


 つまり、この異様な雰囲気は、魔導科が機動科の面々を下に見ていると言う裏付けでもあった。


 「そろそろよろしいですか?」


 すると、壇上の上から圧を感じる様な声が聞こえる。

 凜とした声でありながら、明確な強さも感じるその声に、新入生達も一斉に黙る。

 そして講堂が静まり返った事を確認すると、その少女、フレン・ウィグナーは喋り出した。


 「ユーキリンス魔導士官学校、51期生、機動科一年、フレン・ウィグナーです。この度は皆さまと同じく、この権威ある学舎に入学でき、大変喜ばしく思います」


 淡々と、しかしハッキリとした口調でフレンは語る。手元のカンペを見ている限り、用意して来た台詞なのだろう。


 「ここで研鑽を積み、切磋琢磨し合い、皆様と共に国を守る中枢となるべく、私自身も勉学実技共にに励んで行く次第であります」


 静かな講堂に、彼女の凛とした声が響く。


 「……案外普通?」


 「みたいだな」


 当たり障りのない事を言うフレンに対し、そんな感想を抱くアイルとテグナー。

 しかし、そんな事を思ったのも束の間、フレンは目線をカンペから外し、新入生を見渡す様に真っ直ぐ見つめる。


 「……しかしながら、今私がここに立っている事をよく思って居ない人がいた事に、私自身、非常に驚いています」


 恐らく用意された台詞ではないのだろう。フレンのその言葉に、再び講堂が騒つく。

 しかし構うものかと、彼女は淡々と言葉を続ける。


 「ここ、ユーキリンス魔導士官学校は、実力が全てです。私が『機動科の人間だから』と言う理由で不満を持つのは構いません。しかし、その"慢心"で自身の足元を掬われる事になる事を忘れないでいてもらいたい」


 正に喧嘩を売る様な挑発的な言葉。それに対し、魔導科の人間の何人かの表情が強張っているのが確認出来た。


 「以上、これにて挨拶を終了させて頂きます。1年、『機動科』、フレン・ウィグナー」


 そして、そう言って一礼すると、フレンはステージの後方へ下がっていく。最後の言葉は、『機動科』と言う文言を強調しているかの様にも聞こえた。


 

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