第2話


 ユーキリンス魔導士官学校。


 ウィルヘルム随一のこの士官学校には、この国中の魔法のエリートが集まって来ると言っても過言では無い。

 年齢制限は20歳まで。それ以外は不問。即ち魔法使いとしての資質があれば、社会階級、財力、家の身分の差は一切排除される。

 小さな田舎から出てきたアイルとリーラがこの学校へと入学できたのも、魔力が人よりも強いと言う理由だけだった。


 「サイズは問題ないな……リーラも大丈夫そう?」


 制服に着替えたアイルがリーラにそう聞くと、彼女は黙って頷く。

 アイルは黒ベースの制服の上に、これまた被せるような黒のポンチョ。魔法使いのオーソドックスな格好と言えば分かりやすいですあろうか。

 対してリーラは、身体のラインが出る様なピッタリとした服装。正に騎士とも呼べるその格好は、これまたアイルと同じ黒ベースの制服だが、リーラの方が動きやすく機動力がある様な格好だ。


 「リーラは"機動科"だろ?俺は"魔導科"だから、別々の教室だな」


 この士官学校には、二つの学科がある。それが"機動科"と"魔導科"。機動科は、正に前線部隊の要とも言って良い。魔力よりも身体能力が重視される学科で、魔術の他に剣術、体術、馬術なども習得する、戦いにおける実践的な技術を身に付けることを目的とした学科だ。

 対して"魔導科"。こちらは、魔術に特化した学科と言える。風、水、炎と、覚える魔術の範囲も広く、後方支援や遠距離の攻撃を行う事を目的とした学科だ。

 実際の戦場でも、前線を戦うのは機動部隊。その後方に魔導士の部隊が携えると言うのが、魔法国家であるウィルヘルムの戦い方だった。


 「じゃあ、これで。上手くやれよ?リーラ」


 制服の具合を確かめると、アイルは揶揄う様にそう言う。


 「……余計なお世話」


 それに対し、少し不機嫌そうな顔でリーラはそう返すと、お互いに反対方向へと歩いていく。

 これから入学式だが、先ずは機動科と魔導科に分かれてそれから入学式を行うのだ。



_________________




 「うわ、やっぱ多いな……」


 魔導科のクラスは、全部で12組ある。

 1組で大体40〜50人程度。小さな田舎出身のアイルからすれば、同年代の人間がこれだけいる光景は新鮮そのものだった。

 黒板に張り出された席の割り当てを確認し、席に座る。

 周りを見てみると、緊張気味でいる者、もう他の生徒たちに声を掛けている者。一人静かに本を読んでいる者など様々だ。

 アイルは俯瞰的に、この教室にどう言う人間が居るのかを観察する。男ばかりだと思っていたが、存外女性の姿も多く見られる。皆この狭き門を潜り抜けて来た者ばかりだ。ぱっと見ではあるが、甘い考えを持っている様な人間は見当たらない。


 「何見てんだ?」


 すると、背後から声が掛かる。アイルが声の方へゆっくりと振り返ると、ストレートの少し髪が長めの、快活そうな男が話しかけて来ていた。


 「いや、どんな人が居んのかなって、観察」


 丁度良い。味方は早めに作っておいた方がいいと、アイルは友好的にその男子生徒と接する。


 「お、早速ですかい。強そうなやつを探してんのか?……それとも、可愛い女の子を?」


 どうやら冗談も飛ばせるタイプの人間の様だ。それなら都合が良いと、アイルも体制を男子生徒の方に向ける。


 「どっちも。強い奴に女の子を取られちゃ、学校生活もつまんなくなるしね」


 アイルも冗談を返すと、男子生徒は嬉しそうに目を見開いた。


 「ははっ、お前、面白い奴だな」


 「そう?」


 すると、男子生徒は周りに聞こえない様にする為か、口元に手を当てて小声で喋る。


 「……実はな、お前が教室に入って来る前にも何人かに話しかけてみたんだが、どいつもこいつも頭の固い連中ばかりでよ。冗談が通じねーんだ」


 「……そりゃ、"国を背負ってる"って自覚があるからじゃ無い?」

 

 対して、アイルも小声でそう返す。


 「にしてもだ。年がら年中気を張ってる奴と一緒に戦場に居たいか?俺は嫌だね」


 「……確かに、言えてるね」


 アイル自身も頭が固い人間が多いだろうと踏んでいたが、どうやら予測は当たっていたらしい。

 しかし、目の前のこの男はどうやら違う様だ。


 「お前とは仲良くやって行けそうだな。……俺はテグナー。テグナー・ウォルツだ。年は17。お前は?」


 どうもアイルの事を気に入ったらしく、テグナーと名乗った男子生徒はアイルにも自己紹介を求める。


 「アイル。アイル・ベントラーデ。年は16。一個年下だね。敬語使った方が良い?」


 「いや、いいよ。クラスの同期だ。逆に気持ちが悪い。じゃあ、アイルで良いな。俺の事も、テグナーと呼んでくれ。よろしくな」


 そう言うと、テグナーは右手を差し出して来た。

 

 「よろしく。テグナー」


 それに対し、アイルもその手を握り返す。士官学校にも、こんな人間が居るんだなと言うのが、テグナーに対するアイルの第一印象だった。

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る