第1話
ウィルヘルムの首都、ユーキリンス。大国の首都とあって、その賑わいは相当なものであった。
何人もすれ違えるほどの広く舗装された道。遠くを見つめても途切れる事のない街並み。そこをひっきりなしに行き交う馬車、人。村にいた頃とは比べ物にならない程の雑踏だった。
「流石は首都。どこ見回しても人が居るな」
「………多すぎ。私あんまり好きじゃ無い」
そんな光景に、各々の反応を示す二人。アイルは活気付いている街の様相に興味津々だが、リーラは少し人疲れしているのか、地面を見つめながら悪態をつく様にそう言う。
「これから学校で嫌ほど人と接するんだ。今のうちに慣れとけよ」
「……別に。私、そんなに人付き合い得意じゃ無いし」
困った様に笑ってアイルはそう言うも、リーラは更に顔を顰める。
「お前なぁ、軍に入るんだぞ。一人で戦争に勝つつもりか?今の内に人に慣れとかないと士官学校で苦労するぞ」
「いいわよ。強くなれればそれで良いし」
説教臭くアイルがそう言うも、あまりリーラには響いていない様だ。
今のやりとりでも分かる様に、この二人は真逆の性格と言って良い。
一言で表すなら、アイルは外向的で、リーラは内向的。しかしこの性格の差が、今後二人の道を大きく左右させる事となる。
「お、あれじゃねーか?」
すると、アイルが正面を指差してそう言う。釣られる様にリーラもその方向にに顔を向けると、この街でも一際目立つ様な大きな建物が目に入った。
「流石は首都の士官学校。4階まであるぞ」
その建物に近づきながら、少し興奮気味にそう言うアイル。
眼前には立派な鉄門を携え、門の先には校舎と同じぐらい大きな庭がある。その中央には立派な噴水があり、建物のどこを見ても細部に細かい装飾が施されていた。
そう。ここがこれからアイルとリーラが通う事になる、"ユーキリンス魔導士官学校"だ。
「すげーな。まるで貴族の屋敷をでっかくしたみてーだ」
興味津々に建物に近づき、外観をまじまじと見つめるアイル。
見るからに金が掛かっていそうな建造物。まるでここが、『国の中枢たる機関』とアピールしているかの様な豪華さだった。
「良いから、行くよ。アイル」
しかしそんなものには一切興味がないのか、早く中に入ろうとするリーラ。それに従いアイルもその人間の身長の3倍はあるであろう鉄門を潜ろうとする。
「入学者か?」
すると、門の前で警備をしていたであろう、鎧を着た兵士らしき人物に声をかけられる。
「はい。51期生になります、アイル・ベントラーデと、リーラ・シェルガードです」
それにアイルが丁寧に返す。
「なら"聖紋章"を提示しろ。合格の際に国から支給された筈だ」
兵士がそう言うと、アイルとリーラはバッグの中から蓮の花の彫刻が模された青色のバッジを取り出す。
それを受け取った兵士が、隣に用意された台にそのバッジを置く。アイルもリーラも見たことのない"魔具"だ。
そしてそこへ兵士が魔力を込めると、二つのバッジは青白い光を放った。
「………偽物ではない様だな。ようこそ、ユーキリンス魔導士官学校へ。この門を潜った瞬間、君達は一人の立派な"兵士"だ。その名に恥じぬような立ち振る舞いをする様に」
鎧の兵士からバッジを渡されながら、その言葉にアイルとリーラの心臓もキュッと締まる。
「返事は?」
「「は、はい!!」」
そして少し緊張気味の返事を返し、二人はその門の中に入って行った。
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