第4話 冒険者ギルドからの依頼

 俺は店に置いてあったありったけのスライムをバケツに入れて、ギルド長にも持たせた。

 両手にバケツを持って走るギルド長と俺。さすがに現役時代は特急冒険者と言われてただけある。ギルド長、もう五十過ぎくらいなのに走るの速ええってーの。俺は息を切らせて追いかけることになった。


「で、いったいどこに開いた穴なんです?」

「北門だ」

「うへえ。すぐ近くだ」

「やばいんだよ。北門が破られたらこの辺の民家は全滅だろう。もう人が通れるくらいの大きさになってる。今のところ騎士団が魔物を防いで入るが、その穴を塞いでほしい」

「人が通れるくらいか。けっこう大きいな」

「そこをなんとか、頼む」

「頑張ってみますわ」


 北門の周りには騎士や兵士がいっぱいいて、どうやらまだ魔物を食い止めてるっぽい。

 でも、大きく開いた穴から牙をむきだした魔物が何体も、こっちに向かって吠えたり門に体当たりしてる。今にも穴が広がりそうだな。

 こっちからは騎士たちが槍で突き刺して応戦していた。


「すみませーん。槍でそのまま魔物を押えといてくれます?」

「なんだお前っ」

「穴塞ぎ屋ですよ。その穴、塞ぎますからねー」


 あまり近付くのは怖いから、少し遠くから自分のバケツのスライムを穴の向こうの魔物にぶちまける。ジェル状のスライムが、穴からこっちに向けて顔を突っ込んでいる魔物たちに当たった。


「硬化」


 騎士の槍も魔物の体も一緒くたにして、スライムが固まった。今、俺のスキルでできる一番の硬さ、オリハルコン並みの硬度だ。

 これで穴は半分くらい塞がった。そこに居た魔物も一緒に固めたから、蓋になっていてちょうどいい。もう近付いても大丈夫だろ。

 槍が抜けないと騒ぐ兵士たちを押しのけて、門の前に立つ。もう一つのバケツからスライムを掬い、ベタベタと塗って穴を塞いていく。

 普段は厚みや色、硬さを素材にそろえるが、今回は緊急事態なので見た目は悪くても問題ない。スライムの量も心もとないから、半透明のすりガラスのような状態のまま薄く延ばして固めていった。

 向こう側で暴れる魔物たちが見える。


 こういう素材感の違う塞ぎ方をするときには、継ぎ目に神経を使う。門は分厚い木でできている。魔物に壊されて裂けたところから、スライムを一度ゆるゆるにして木の中に染み込ませる。そして全体をもう一度ガッチリ固めるといい。

 ついでに薄く門全体も強化しておくか。

 よし。なかなかの出来だ。

 どうよ!

 この穴塞ぎの技!

 振り返ると、騎士団の人もギルド長も呆気にとられてぽかんと口を開けてた。


「悪いけど、この槍はもう抜けないんで」

「お、おう」

「ここはこれで大丈夫と思う。ギルド長、まだスライムが余ってるから、他にも穴があったら塞ぐけど」

「お、おう。だったら……」


 ギルド長がなんか偉そうな人と話してる間に、もう一か所、近くの石壁が破られそうだったからそこも補強しておいた。石壁なんかでも、意外と思うかもしれないけどスライムならごく小さい隙間に染み込むことができるから補強も可能だ。

 染み込まない素材の場合は上から塗ってコーティングするが、染み込ませた方が強力に固めることができていい。


「すげえな、あんた」

「この塞いだところ、さっきから魔物が突進してるけどびくともしないぞ」


 騎士団の人たちが俺を囲んで褒めてくれる。

 いや、俺のことはいいから、外にいる魔物をどうにかして倒してくれよな。


「俺、防御は得意なんだけど攻撃はからっきしだからなあ。みんなのほうがすげえって。頑張って倒してきてよ」

「いや、防御だけって……」

「壁に取り込まれた魔物は倒したも同然だろ。一級魔物のホーンベアもいるぞ」


 みんながざわざわと話してるから何言ってるのか聞こうとしたら、ギルド長が戻ってきた。


「ディル、次は南を頼む。馬で行こう」

「えっ。俺、馬には……」


 乗ったことないけどなーって言おうとしたら、騎士にかかえられて物のように運ばれた。

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