第26話 光軟石の秘密

 実際に光軟石に何度も近づいたことがあるという大人から、詳しく話を聞けることになった。その人は夫婦で散歩していて、たまたま発見したそうだ。最初は不審に思っていたが、いつも同じ場所にあるので近づいてみたそうだ。

 さらに実際に光軟石に触ってみたそうだ。プニプニとしていて柔らかく、臭いが鼻をツンと抜けたということだ。それは僕も同じように感じた。子どもの場合は一回目で被害があったが、大人の場合は何も起こらなかった。

 子どもと大人という以外に何か違いがあるのか調べてみた。すると、光軟石への触り方などで有意な差は見られなかった。やはり子どもと大人という違いが原因なのだろうか。しかし、僕も十分に子どもである。なのに、特に何も起こらなかったのだ。もう一度現場に戻ってみることにした。



 光軟石のある場所に戻ってきた。やっぱり何の変化もないようだ。臭いの強さも変わっていない。いつも通り風を起こして臭い対策をする。ギリギリまで近づいて様子を観察したが、やっぱり何も起こらない。何が違うのだろうか。

 臭いは何とか耐えるとして、いったん風を止めてみることにした。すると、光軟石の臭いがドッと押し寄せてきた。そして、それを待っていたかのように光軟石が揺れ始めた。水面が揺れているだけかと思ったが、注意深く見てみると実際に動いているようだ。

 そしてついに石の内側が光り始めた。この後ホントに巨大化するのだろうか。飲み込まれないように気をつけながら、観察を続けた。すると石の持つ気が強くなっていくのを感じた。念のために距離を取りつつ、石が少しずつ大きくなっくのを見ていた。

 そして、瞬く間に巨大化してこちらへと近づいてきた。戦闘の態勢を取り、剣を構えた。スカイが前に出て、石に噛みついた。そしてそのまま石の一部を食いちぎった。しかしなんと、その食いちぎられた一部が自ら大きな本体の方へ飛んでいき、くっついてしまった。



 その後、スカイには目もくれずに僕の方へと向かってきた。おそらく子どもだけがターゲットなのだから、理解できなくはないけれども。しかし、なぜ急に僕にも反応するようになったのか。それはもしかすると、魔法を使って風を起こしていたからかもしれない。

 長老に聞いた話だと、敵の組織内では世界の救世主がやってくるという予言があるらしい。その救世主は剣を持ち、魔法が使えるのだという。まさに僕そのものと言えるだろう。だからこそ、魔力を感じとって反応が起こらないように設計されているのだろう。そのような相手では返り討ちに愛、石の損失に繋がりかねないのだから。

 そう考えると、組織の技術力はかなりのものだろう。ワールド・トリッパーとしてではないかもしれないが、世界の救世主という存在を認識しているのだ。それだけ防御策を講じていてもおかしくはないだろう。今回の任務は一筋縄ではいかないかもしれない。スカイと協力して、素晴らしい連携が出来ればと思う。



 僕は剣を構えて、光軟石と対峙した。何度か剣を振って切ることはできたものの、やはりまた元通りにくっついてしまう。何か別の手段を考えなければならないだろう。光軟石は燃えるのだろうか。試しに、炎魔法をぶつけてみることにした。すると石の急に動きが俊敏になり、一気に後退りした。

 炎は苦手と見ていいだろう。あとは動きをどう封じるかだな。石はかなり巨大化している。氷魔法で全身を凍らせるには、あまりにも魔力の消耗が激しい。かといって、段階的に凍らせるのも現実的ではないだろう。

 敵の攻撃を防ぎつつ、何か対策がないか考えた。敵を斬って分離させてから再び結合するまでに、そこそこの時間があることに気がついた。そこで、敵を斬った後に素早く凍らせてしまうことを考えた。実際にやってみると、超集中を身につけている僕にとっては容易いことだった。

 そして本体が襲いかかってくる前に素早く炎魔法で焼き払って、本体の攻撃を剣で受けた。それを何度も繰り返すうちに敵はすごく小さくなり、動きも鈍くなっていた。最後の一撃として、氷魔法と炎魔法を放った。そして無事に光軟石を破壊することができた。



 しかし、まだ数多の石が残っている。おそらく普通に近づけば、また戦闘になってしまうだろう。風を起こしながら近づけば、何の変化も起きない。その状況で魔法を放って倒せるのか、水の中であっても炎魔法が無効化されることがない練度まで上がってはいる。しかし、水中では無敵という可能性もゼロではない。

 どんなに迷っていても、何も始まらない。とりあえず試しにやってみることにした。変化のない状態であれば動きは止まっている。一つだけに魔法を打つと、周囲の石が何か反応するかもしれないと思い、密集している場所では複数の石を同時に破壊するのがいいだろうと思った。

 実際に炎魔法をぶつけてみると、最も簡単に破壊することができた。これであれば苦労することなく対処できる。この辺り一体にある光軟石の全てを破壊して、拠点の洞穴に戻った。



 洞穴に戻ってくると、寝袋に寝そべって体を伸ばした。流石に魔力を使いすぎてしまったようだ。思ったよりも疲労を感じる。スカイも手伝ってくれて疲れているようだ。早速ご飯を食べることにした。村の人たちが差し入れを持ってきてくれる。とてもありがたいことだ。今日はこの世界では有名な魚の発酵食品を持ってきてくれたようだ。臭いは多少強いものの、一度食べてしまうとその美味しさに病みつきになってしまった。

 スカイと一緒に美味しく食べた。スカイも嬉しそうに食べていた。食事を終えたあとはしばらく休息を取り、村へ向かった。光軟石を全て破壊したことを長老に報告すると、すごく感謝された。とはいえまた組織が新たに仕掛ける可能性もないとは言い切れないが。

 僕たちが長老の家を出ると、村の中央付近で何か騒ぐ声が聞こえた。様子を見に行ってみると、村人たちが誰かに問い詰められているようだ。その人物と目が合うと、すごい形相で僕の方へ向かってきた。おそらく組織の人間だろう。



 住民たちとは大きく異なる格好をしているのだから、僕がどんな存在であるのかぐらい想像することは簡単だろう。やはり光軟石のことを問い詰めてきた。僕は臆することなく、自分が破壊したと答えた。この人物、シャクトレージと名乗る男は組織の幹部で、光軟石を生み出したのだという。自分の発明を破壊されたことで恨みを持っているようだ。

 僕は戦うことは構わないが、これは僕が独断でやったことで村は関係ないというと、場所を変えて戦闘することになった。僕としても村の外であれば被害を考えなくても良いのでありがたいことだ。

 どうやらこのシャクトレージは剣術を使うようだ。僕も剣を構えて戦闘の準備を整えた。そして少しずつ間合いを詰めていく。相手は幹部であり、どんな闘い方をするのか分かっていない。相手の動きから癖や傾向を読み取りたい。かなりの経験があるのだろう。軽はずみな行動は取らず、一切の隙を見せない。



 しかし、そんな彼にも穴がある。それは僕が超集中を身につけているということだ。超集中を持って敵を見ると、剣の動きにわずかな、本当にごくわずかな隙があるのだ。そこを狙って斬り込んだ。すると、相手は弾き飛ばされて尻もちをついた。僕はとどめを刺そうとしたが、急に光に包まれて敵が消えてしまった。

 運悪く逃げられてしまった。しかし、光に包まれて姿を消す、それはもうコンゲルネの光そのものではないか。気になったのでコンゲルネに聞いてみると、コンゲルネより下位の神が光転移の技術を勝手に持ち出し、人間となってこの第3の世界に降り立ったというのだ。

 つまりこの世界で対峙している組織、アイアンプロダクツのボスは元々、天界に住む神だったということだ。だからこそ尋常ではない技術が使えるのだ。かなり手強い組織だが、だからといってそう簡単に諦めるわけにはいかない。任務遂行のため、全力で取り組むだけだ。

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