第27話 セイバー・ソード

 シャクトレージと対峙してから、数日が経った。今のところ特に変化はない。住民も普段通りの生活を送っている。拠点を出て、光軟石があったところへ様子を見にいくことにした。

 川の水は相変わらず酸化鉄の影響で赤茶色に染まっている。しかし色が薄まることもなければ、濃くなることもない。そして光軟石があった場所へ到着した。今のところ、石は復活していない。もう諦めたのか、それともさらに高度なものにクオリティーをあげようとしているのか。それについては分からないが、たとえどんな壁が立ちはだかろうとも、しっかりと任務を遂行するだけだ。

 拠点に戻ってすぐ、住民の一人が僕たちを呼びに来た。どうやらシャクトレージが再び村にやってきたというのだ。ただし住民には手を出していないようだ。あくまでも彼の狙いは僕たちというわけだ。それならありがたい。



 急ぎ村に向かった。到着してみると、本当に住民たちには手を出していないようだった。それどころか、シャクトレージは大人しく座って待っているのだ。どうやら彼にとっては対峙すべきもの以外を巻き込むことが本望ではないようだ。それを正義としているらしい。

 なので、住民に被害が出ないように場所を移動することにした。前回の時と同じ、川の近くまでやってきた。ここまで来れば安心だ。思いっきり戦うことができる。両者、剣を構えた。スカイも戦闘態勢に入った。

 少しずつ間合いを詰めていった。今回は逃げられないようにしなければならない。間合いを詰めて、お互いに睨み合っている。どちらが先に仕掛けるか、一触即発の状態になった。剣先が擦れ合っている。隙を見せてしまえば、斬り込まれてしまうだろう。



 相手が隙を見せる気配がないので、超集中の状態に入った。するとやはり相手の動きが手に取るようにわかる。普通では見えない相手の隙も見えてくる。これほどに素晴らしい能力を得られたことに感謝だ。

 スカイと力を合わせて、シャクトレージを倒しにかかる。この世界ではスカイも人間の姿で行動している。剣術を使い共に斬り込んでくれている。超集中の状態でいる僕より動きは当然遅い。それは仕方ないことだ。それでもスカイは自分にできることを必死に頑張ってくれている。

 僕たちの絆はかなり強固なものになっている。心で通じ合っていると思う。その強さが奇跡を起こしたのだろうか。いつの間にかスカイが僕と同じスピードで動いているのだ。そして二人の息を合わせて、シャクトレージにとどめを刺すことができたのだ。

 シャクトレージは塵となって跡形もなく消え去っていった。するとコンゲルネの声が聞こえてきた。僕とスカイの絆の強さが奇跡を起こし、スカイも超集中の状態を会得したというのだ。純粋に嬉しいことだ。スカイも頑張っている成果だと喜んでいた。一緒に頑張っていてよかったと思う。



 シャクトレージを倒した後は、村に戻った。彼を倒したことを、住民たちに報告した。住民は安心したようで、家の中に入っていった。その後、長老に呼ばれた。長老の家に入ると、地下の部屋に導かれた。

 地下室の中に入ると、中央の奥に大きな水晶が鎮座していた。赤く透き通った水晶で、それが周囲の松明の炎で照らされているのだ。僕たちは長老と共に、その水晶に近づいた。そして長老から説明を聞かされた。

 長老の話によると、この大水晶は先祖代々伝わるもので、この世界が危機に瀕した時に現れる勇者の剣にエネルギーを与えるものなのだそうだ。それを聞いた僕たちは、さっそく剣を水晶に掲げて見た。すると、僕たちの剣と水晶が青く輝き始めた。さっきまで真っ赤に光り輝いていた水晶が、急に青く輝いたのだ。それに剣も銀の光沢で輝いていたのが青く輝き始めたのだ。

 その場にいた全員がその神秘的な光景に驚くと共に、その美しさに見入っていたのだ。そんな中で僕とスカイは、剣の持つ気が強まっていくのを感じた。さらに今までとは違うエネルギーを感じるようになった。これは土の気だろう。

 剣そのものに土の気、属性が宿ったと考えるのが妥当だろう。さらに予言の続きによれば、この世界には全部で7つの大水晶があり、それぞれが属性を持っているのだという。全ての気を剣に宿した時、「セイバー・ソード」が蘇るのだという。それが今回の任務で必要かは分からないが、剣を強化できるのであればそれも意味があるのかもしれないと思った。



 コンゲルネにこの世界について聞いてみることにした。アイアン・プロダクツが今回の最終目標なのか、それとも他にも組織があるのか。コンゲルネの答えはアイアン・プロダクツこそ最終目標だが、各水晶を悪用しようとする組織が各地にいるのも間違いないということだった。

 つまり、水晶巡りをしながら各地の敵を倒して、セイバー・ソードを復活させてからまたここに戻ってくるというわけだ。今回の任務は長旅になることは間違いないだろう。しかしこの村で支援を受けることができたように、各地でさまざまな力を借りることができるそうだ。すでにこの村の長老が各地へ便りを出してくれたのだ。長老に感謝しつつ、次の目的地へと向かった。

 次の目的地は水の大水晶だ。それがある町は水の都と呼ばれており、至る所を川が流れている。住民たちはその川の上に橋をかけて住んでいるそうだ。そこまでの道のりは、それなりに休憩をとって進んだとしても3日くらいだ。その間の食糧は最初の村で譲ってもらうことができた。



 今は村を出て4時間くらい進んだだろうか。時間の概念が僕の世界とは異なっているが、この世界にも地球にとっての太陽のような恒星が存在している。暗くなってからは行動しないことにしている。恒星の動きを元に時間を推測する。今はほぼ真上の位置にある。つまり地球でいう正午、日照時間の約半分ということになる。近くの木陰で昼食を取ることにした。

 スカイと一緒に座って、冷たい水をグビっと飲んだ。喉が潤って、生き返る心地になった。そしておにぎりの包みを開いた。長老が麦などの雑穀で握ってくれた特製おにぎりだ。二人で美味しく食べた。

 そしてしばらく体を休めていた。今は森の中にいる。さまざまな植物が生い茂っていて、心地よい風が吹いている。しばらく休んだ後、再び行動を再開した。今日のうちに森を抜けておきたいところだ。

 しばらく歩いていると、目の前に大きな川が現れた。泳いで渡るしかない。服を脱いで渡ろうと思ったら、スカイがオオカミの姿に戻った。このくらいの距離なら簡単に飛び越えることができるというのだ。以前と比べて、体格がしっかりとしているようだ。たくましい姿になっていた。



 スカイの背中にしっかりと捕まって、振り落とされないように気をつけた。スカイは少し後ろに下がると、勢いよく走り出して助走をつけた。そしてパッと飛び上がった。かなりの高さまで上がると、対岸へ向けて着地の体勢をとった。そしてほとんど衝撃を感じることなく、無事に対岸へ辿り着くことができた。

 スカイは人間の姿に戻ると、僕に抱きついてきた。どうやら僕に褒めて欲しいみたいだ。最大限の労いと感謝の言葉をスカイにかけて、頭を撫でてあげた。スカイはすごく嬉しそうだった。僕と一緒に行くことを決断してよかったと言ってくれた。それは僕も同じ気持ちだ。スカイのおかげで楽に川を渡ることができたのだ。とてもありがたいし、スカイのことを改めてすごいと思った。

 そしてさらに先に進んだ。だいぶ日が傾いている。今日はあと少し進めるくらいだろうか。できれば森を抜けておきたいのだが。夜の森は何があるか分からない。夜行性の動物がいないとも言い切れないのだ。



 しばらく進んで、やっと出口が見えてきた。あと少しなのでこのまま行ってしまった方がだろう。僕たちは足早に出口へと向かった。そして森を抜けると、もう暗くなり始めていた。今日はここまでだな。近くにキャンプを張れる場所がないか探して回った。ちょうど良さそうな横穴があり、そこへ入ることにした。

 中へ入ってみると、少しジメジメしているようだった。そこで炎魔法で空気を乾燥させてみた。うまく行ったようで快適な湿度になった。どうやら穴の奥で水が染み出しているようだ。浸水するほどの露湯ではないので心配はない。

 ちょうど座ることができそうな窪みがあったので、そこに座って食事を取ることにした。スカイと一緒に楽しく食事を食べた後は、少し他愛もない話をしてから眠りについた。



 翌日、スカイがもう起きていた。僕が起きると、寝癖や顔がすごいことになっていたのだろう。スカイが笑いながら、顔を洗って髪を整えてこいと言った。鏡がないので手触りでなんとか髪を整えた。

 顔を洗って戻ると、すでにスカイが食事の用意をしてくれていた。一緒にご飯を食べて、今日の予定を確認した。森を抜けると残り半分の距離だと長老から聞いている。しかし、そのうちの半分は山越えになる。山の高さはそこまでではないので高山病などの心配はないだろう。しかし体調管理は大切だ。

 食糧も十分な量あって問題ない。装備品としては雪の心配もないので現状で問題ないだろう。山の麓にたどり着いた。山頂の方を見上げてみると、確かにそこそこの高さがありそうだ。おそらく2000mは超えているだろう。あまり無理をしすぎず、体調を見ながら登った方がいいだろう。

 登るにあたっての道は自然のままになっている。あまりいい道ではないので歩くのも簡単ではない。ただ住民が行き来することがたまにあるので、崖上りのような難しいことはない。意を決して、登山を開始した。



 実際に山に入ってみると、緑が生い茂って適度に陰を作っている。道もそこまで極端に凸凹しているわけではない。ずっと直線というわけではなくて、少しでも傾斜を抑えるために蛇行して道が造られている。ただそれとは別に直線で山を突っ切る道が4本造られている。つまり、体力がある人は近いルートで行けるということだ。僕たちは両方をうまく使い分けながら進んでいく。

 この世界には倒すべき敵がいるのだ。あまり疲れすぎないようにしなければならない。いざという時に戦えなくなってしまうからだ。もちろん休憩も取りつつ進んでいく。熱中症にも気をつけて水分補給をする。

 だいたいお昼くらいになった頃だろうか。だいたい半分くらいまでは進むことができた。ここで昼食の時間だ。近くに湧水が出ているところがあり、そこで水を飲んだ。水が透き通っていて、舌触りが柔らかい。冷たくてとてもおいしい湧水だ。そのすぐ近くに座れそうな岩がったので、それに座ってご飯を食べる。

 事前に作った料理を乾燥させてドライフーズにしたものを携行している。それは水でも戻すことができる。湧水を使って戻して食べるのだ。今回は二人でカレーにした。水をかけると、すぐに元の状態に戻った。カレーを完食した後は、少しだけ仮眠を取った。

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