第25話 組織の技術力

 洞窟で昼食を食べたてしばらく休んだ後、再び行動を開始した。敵のアジトは川沿いをずっと進んで源流地点まで行ったところの高台にあるそうだ。周囲に気をつけながら先へ進んでいく。

 上流へ進むにつれて、鉄の匂いが強くなっていく。それと同時に、何か違うものの匂いもするようになってきた。直感的にあまり好ましくないように感じる匂いだ。すぐさま害を生じるようなものでは無いと思うが、長時間嗅ぎ続けない方がいいだろう。できる限り風下を避けたいのだが、川の左右には組織が人工的に築いた壁がそびえ立っている。おそらくこの川を造る際に削った土砂を積み上げて壁にしたのだろう。

 風上に回り込むことが難しいので、魔法で風を起こしながら進むことにした。しばらく進むと、川の色が変化しているところがあった。他のところは酸化鉄の影響で赤茶色だが、その部分は他と混ざることなく紫色のまま止まり続けている。何の成分なのか調べてみる価値はありそうだ。

 どうやら紫色になっている部分はところどころに点在しているようだ。気をつけながらその部分の臭いを嗅いでみた。さっきしていた臭いの正体はこれだったようだ。この物体が他と混ざらないのは、スライム状になっているからだ。水には溶けない物質のようだ。



 紫色をしている理由については人工的につけたものなのか、それとも元々そういう色をしているのか。少なくとも僕の世界では見かけないものだ。触った感じはスライムそのものだ。しかし臭いがあまりにも強すぎる。

 鼻の奥を刺激する臭いで、思わず咽せてしまった。スカイは平気なようだ。オオカミなので、嗅覚は人間の何千倍も優れている。これくらいの臭いはどうということないらしい。むしろ野生で腐敗した肉の臭いの方が強いらしい。

 それに、臭いだけではない。この謎の物体から何か不思議な気を感じ取ることができる。自然な気ではないため、やはりこの物質は組織が作ったものと考えて間違いないのだろう。

 より詳しく調べるために、物質の一部をサンプルとして採集した。そして一度村に戻って話を聞いてみることにした。長老に見たことがあるかどうか聞いてみたのだが、分からないということだった。

 ただ、何人かの子どもが近くで遊んでいた時に好奇心から口の中に入れてしまったそうだ。その子どもは命に別状はないものの、手足の痺れが残ってしまったり、お腹の痛みが続いてるそうだ。

 長老に紹介してもらい、その子どもの家を訪ねてみることにした。実際にその子どもたちに直接会って話を聞いてみると、急に紫色の物質が眩しい光を放ち始めたらしい。そして気がつくと、その物質が巨大化して飲み込まれてしまっていたらしい。なんとか抜け出そうとジタバタしたのだが、どうにもできずに気を失ったということだ。

 そして気がついたらみんな川の横に倒れていたというのだ。大人たちは全くもって信じていないようだ。しかし、僕は不思議な気を感じ取っていたのでそれが嘘ではないとわかっている。



 サンプルとして採集したものからは、ほとんど気を感じない。ごく僅かには感じるものの、特に問題ないくらいのレベルだ。突然光を放ったり、巨大化するというのはどんな仕組みなのだろうか。

 物質の中に何か光るものが入っていて、それが光り出すというのなら珍しくはないだろう。だけどそれならば、物質の見た時に気づくはずだ。あるいは蛍光塗料のようなものが含まれているのかもしれない。僕の知らないものが存在する可能性だって否定はできないのだ。

 急に巨大化して、しかもそれが人間を飲み込むなどという、とんでもないことがこの世界では現実に起こるのだ。これについては、全く想像もつかない。なんせ僕の世界では起こるはずがないのだから。

 そういった点では、非常に興味深い現象ではあるだろう。可能な限り調査をして、真相に迫りたいと思う。きっとそれが組織の情報にもつながるはずだ。もう一度、物質があった場所へ戻ることにした。



 再び謎の物質がある場所へ戻ってくると、さっきと変わらず川の中で一定の場所に留まり続けている。臭いも相変わらず漂っている。特に何も変わったところはない。物質が放つ気も変化はない。ひとまずこの物質を光軟石こうなんせきと呼ぶことにした。

 この光軟石がどのくらいの数あるのが調べることにした。どうやら一定の間隔を保って並べられているようだ。数えてみたところ、全部で20個あった。どれも状態は全く同じで、変化する兆しはない。子どもたちの話によると、光軟石が光り始める前に音がしたらしいのだ。その音はみんなが同じように聞いていて、何かがぶつかり合うような音だったようだ。

 今のところそんな気配は全くないし、辺りは静寂に包まれて水の流れる音だけが聞こえている。それだけ静かなので、何か音がすれば聞き逃すことはないだろう。今までにそのような音はしなかった。スカイにも何も聞こえていない。



 この光軟石を光らせたり、巨大化させたりするトリガーとなるものがあるはずだ。それを見つけることが先決だと思う。しばらく観察を続けていたが、特に変化は起きなかった。もう一度村に戻って住民の話を聞くことにした。

 他に光軟石を見た人が居ないか聞いて回った。すると、大人で近くへ行ったことがあるという人がいた。その時の状況がどうだったかを詳しく聞けることになった。その人は特に何も起きなかったそうだ。一回だけではなく何度も見に行ったが、無事に帰ってこれたということだ。より詳しく聞いてみる必要がある。

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