第19話 世界樹のエネルギー
白銀の雪化粧をして聳え立っている樹、これが世界樹だ。この世界を護りたる存在、その雰囲気の荘厳たるや偉大なものである。守護の役割を持つというだけあって、そのエネルギーがひしひしと伝わってくる。
この世界の始まりから、全てを見守ってきたのだろう。いわば親のような存在なのだ。人々から神聖視され、崇められている。この世界では自然のありとあらゆるものに神々が宿ると強く信じられている。自然信仰というわけだ。僕の世界でもはるか昔には同様のものがあった。
現代の科学文明においては、それを信じる人はほとんどいないだろう。だからと言って、この世界の人々を否定するつもりはない。そもそも世界が異なっているのだから、どちらが正しいかという議論は野暮である。
族長から頼まれたお供え物を世界樹の前にある祠に捧げた。祠はとてもきれいに整備されていて、普段から住民たちが大切にしているのだなということがよく分かる。僕はこの世界を守るために来たことを伝え、祈りを捧げた。
ふと、どこからともなく声が聞こえてきた。注意深くその声を聞いていると、どうやら世界樹が発しているようだ。樹がしゃべるなんてことがあるのかと驚いたが、どうやら本当にそのようらしい。
あらゆるものに神々が宿るというのが事実であることに驚いた。少なくともこの世界においてはそれが紛れもない真実なのだ。
僕は世界樹の前にひざまづいた。この先に進むためには、世界樹が課す試練に打ち勝たなければならない。その試練がどのようなものであるかは自分の目で確かめるしかない。しかも課題は一つではなく、複数あるそうだ。その課題を遂行することで世界樹から認められ、力を授かることができるらしい。
この世界樹は高位の存在らしく、コンゲルネを知覚することができて、さらには会話することもできるそうだ。それを聞くと、住民たちが崇拝するのも頷けるし、しゃべることも可能なのだろうと納得できた。
僕はさっそく試練を受けることにした。休憩を適宜に取りつつ来ているので、すぐ戦いに入ることができるのだ。最初に現れたのは、第1の世界で戦ったプラント・インテリジェンスの幹部だ。
2番目と3番目に戦ったふたりだ。もちろん幻影だが、敵のまとっているオーラがはるかに強い。そう簡単には倒せないだろう。気を抜かずに立ち向かう必要がある。攻撃の方法は全く同じようだが、なんせパワーが違う。
攻撃力も防御力も、どちらも幻影でありながら数倍は強いのだ。おそらく倒し方は同じでいいのだろう。ただし、インテリジェンスと人間のコンビは結束が強い可能性がある。コンビネーションを発揮されて、痛手を負わないように気をつけなければならない。
インテリジェンスの幹部はやはり体内にコアがあるようだ。それを破壊すればいい。ただし、人間の幹部がそうはさせまいと盾になっている。そちらから倒すのが賢明だろう。
人間の幹部とは魔法戦になった。お互いがどんどん魔法を放ち合う。同時に僕は相手の魔力を吸収していった。相手も同じようにしてきたが、それは回避したり防御したりして対応した。敵の魔力を吸収することで、こちらは魔力を回復しながら攻撃することができる。
相手の魔力が完全に尽きたのを見計らって、最大限の力を込めて魔法をぶつけた。すると敵の幻影は跡形もなく消え去った。これで残るはコアを持つ敵だけになった。コアは露出していないので、剣で相手の体ごと貫くのがいいだろうと思った。相手は動きが素早いので、何らかの方法で動きを封じたいところだ。
剣を振るう力を残しつつ、出せるだけの力を込めて氷魔法を放った。敵はカチコチに凍ってしまって動けない。その隙をついて、僕は剣に炎をまとわせて敵の体を貫いた。すると、しっかりとコアに直撃した。
そして、敵の幻影はすっかり消え去ってしまった。何とか敵を倒すことができた。とはいえ、試練はこれで終わりではない。しばしの間、休息の時間が与えられた。次も強敵が待ち受けていることだろう。気を引き締めて臨まなければならない。
十分に回復したのを確認したのち、次の試練が始まった。今度の敵はドラゴンのようだ。ただし、よく知っているそれとは姿がまるっきり違う。全身が真っ白なのだ。うろこが雪のように白く輝いている。あたり一面白銀の雪景色の中では擬態もたやすいことだろう。口からは炎ではなく、吹雪を吐き出すようだ。それに当たってしまうと全身が氷漬けになってしまうのだろう。
敵のドラゴンが氷属性なのであれば炎魔法を使いたいところだが、体格があまりにも大きすぎる。全身に魔法を当ててしまうと、周囲の雪もかなりの量が溶けてしまうだろう。環境への影響は最小限にとどめなければならない。
かといって、普通に剣で攻撃したのではほとんど効果がないだろう。よくよく観察してみると、うろこは氷が含まれているようで、かなりの硬さを持っている。その頑丈なうろこは力いっぱいに剣で斬りつけても、ビクともしなかったのだ。
そこで僕は考えた。周囲に影響が出ない程度であれば、炎魔法を使えるのではないかと。現に、先の試練では氷漬けにした敵に対して魔法を使用しているのだから。僕はさっそくその方法を試してみることにした。すると、今度は敵にダメージを与えることができた。そうなれば後は繰り返し攻撃していくのみだ。
敵の攻撃を上手くかわしつつ、隙をついて剣を打ち込んでいく。次第に相手の体力が落ちてきたようだ。動きが鈍くなったのを見て、一気に止めを刺した。ドラゴンがいた場所に、一枚の羽根が落ちていた。その羽根は無色透明、向こうが見えるほどに透き通っていて綺麗だった。それでいて、すごく力を感じるものだった。
すると世界樹が呼びかけてきた。それによると、この羽根は世界樹のエネルギーで満たされていて、身に着けているだけで敵の攻撃によるダメージが半減するそうだ。とてもありがたい代物だった。だけど、試練はあと一つ残っている。
再び休息をとってから、最後の試練となった。最後の敵はいったいどんな相手なのだろうか。たとえ敵が何であれ、落ち着いて対峙して招致をつかみ取るだけだ。もしもここで負けてしまうと、任務遂行ができなくなってしまう。大事な場面であることは明らかだった。
目の前にモヤモヤした光が現れた。よく見ると、その光の中に何かがいるようだ。それが最後の敵なのだろう。光に包まれながらの登場とは、よほどの実力を持っているのかもしれないな。
光が消えて敵の姿を確認した瞬間、僕は言葉を失った。なぜなら、そこにいるはずのない相手だったからだ。どうして今、僕の目の前に母さんが立っているのか、理解が追い付かなかった。どうやら母さんそっくりに作られたアンドロイドらしい。本人に剣を向けなくて済むことにまずは安堵した。
しかし、母さんそっくりであることに変わりはない。それでも立ち向かい、打ち勝っていく強い精神力が必要だというのだ。そうでなければ、この先に待ち受ける数多の世界を救うことなどできないと言われた。
この壁を越えなければ、先には進めない。僕はしっかりと剣を構えた。そして、少しずつ間合いを詰めていった。むやみやたらに攻撃すればいいものではない。自分は隙を作らず、相手に隙ができる瞬間を狙う。
しかし剣を交えれば交えるほどに、本物の母さんと戦っているのではないかという感情を覚えた。だけどそこで流されてしまっては元も子もないのだ。自分の意思をしっかりと持って戦いを進めていった。
かなりきつい状況ではあったものの、なんとか勝つことができた。世界樹から祝福の言葉を受けた。そして、剣をパワーアップしてもらった。世界樹のエネルギーで満たされた剣は強力なものとなったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます