第16話 出発へ

 いよいよ出発の時を迎えた。次の敵もきっと手強いことだろう。油断することなく、慎重に進んでいかなければならない。

 高度な科学技術を持っている集団だ。今までに見たことのない、僕の世界には存在すらしていないものがあるかもしれない。情報収集をしておいたほうがいいだろう。住民たちに話を聞いて回ることにした。


 住民たちが口をそろえて言うのは、何か巨大なものが空を飛んでいるということだった。飛行機の類なら僕の世界にもありふれている。詳しく話を聞くと、それはすっと姿を消すそうだ。どんなに注目して見ていても、みんなが見失ってしまう。急に消え去ってしまうのだそうだ。

 その話を聞いただけでも、ニューワールドメーカーの技術力がどれほどに高いかを思い知ることとなった。ただ、この世界には魔法という概念が存在していないようである。もし敵が魔法を使えないのなら、その点でこちらが有利かもしれない。


 そして村を発つ時だ。族長たち住民に見送られながら、僕は氷の山へと一歩を踏み出した。氷の山はとても滑りやすい。族長からもらったスノーブーツを履いている。敵のアジトは山頂にあるらしい。

 体調を崩さないよう、少しずつ登っていくことにした。僕の世界でいう「高山病、高度障害」と呼ばれている状態に陥ってしまうのを防ぐためだ。

 食料などは十分に確保してある。山の中で調達することはできないだろう。コンゲルネの力で特殊に圧縮された固形食をリュックに詰めている。水分もそれから摂取できるようになっているそうだ。


 防寒対策はばっちりだ。すでに村で用意を済ませてある。休む時は洞穴などを探さなければならない。これまでは何かに襲われる心配をする必要がなかった。この世界には人類以外が存在しなかったからだ。

 だけど、今は状況が違う。敵の組織が新たな生物を作り出そうとしているのだ。それを阻止しようとしている僕を邪魔だと思わないわけがない。洞穴で休む時には結界を張っておく必要があるだろう。

 トイレは簡単にはできない。気温がかなり低いのだ。洞穴の中でかろうじて暖かい場所を探して、そこですることになる。外でなど、できるはずもない。寝る時も低体温にならないよう細心の注意が必要だ。

 それほどに寒い氷の山は危険なのだ。敵は高度な技術を持っている。何かしらの対策があっても不思議じゃない。こちらも油断せずに動かなければならない。


 2時間おきに休憩をとることにした。先に進むのは日中のみで、夜は絶対に動かないほうがいいだろう。休憩中も洞穴の外に注意を向けておかなければならない。何かあった場合にすぐに動けるようにするためだ。

 この世界での任務はまだ始まったばかりだ。しっかりと遂行できるようにしたいと思っている。

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