3
鬱蒼とした木々の中を、そろりそろりと歩く。
霧が濃くて前がまともに見えなくて怖い。姫育成系ゲームなのに雰囲気ダーク過ぎませんか、制作者さん。
「……ん?」
鼻腔をくすぐる、芳しき香り。
私は釣られるように香りがする方へとふらふらと向かう。
「お~……これは凄い」
そこには美味しそうなスイーツのオンパレード――お菓子の家とティータイムセットが輝いていた。
シュークリーム。
マカロン。
バウムクーヘン。
プリン・ア・ラ・モード。
あと大福。
ドリンクも紅茶にコーヒー、炭酸飲料まできっちり完備。
どう見ても至福の一時を過ごせる最高の空間。否、どうせならずっとここにいたくなるような夢のような場所だ。
「いやいや、ダメダメ!こんなところでのんびりしてる場合じゃないから!」
いけない。
いつもの自堕落さが出てしまうところだった。大体こんなに糖分に糖分をかけて糖分でデコレーションした物を食べてばかりいたら太るし美容にも悪い。だから美人から遠のいているというのに。
「で、でもひとつくらいなら……」
そうそう。今から山を越えるんだから、少しだけエネルギー補給しても悪くないはず。途中で倒れたら元も子もない訳だし……。
ひょい、とマカロンをひとつ摘まんでぱくり。
「ん~っ♪しわわへ~(幸せ~)♪」
どかん、と。
お菓子が大爆発して。
至福の空間からぶよぶよした肉塊が飛び出してきた。
「ぎゃあああああああああっ!?」
あまりの不気味さに、私は踵を返して猛ダッシュで逃げ出す。
その瞬間、頭上に光り輝く文字が現れた。
『試練1:迫り来る脂肪から逃げ切れ!』
あれ、脂肪の塊なのね。
どっちにしろ気持ち悪いわ。
「ってどんどん迫ってくるぅぅぅぅっ!?」
脂肪は物凄い速さで追いかけてきて、私を飲み込もうとしている。
高速で上り坂をローリング、大爆走する脂肪率百パーセントの巨体。
それに対してのろまな私。ただでさえ運動が苦手な上に、坂道を駆け上がっているので全然走れない。このままでは脂肪の中に埋もれてしまう。
「そうだ、こんな時こそお札よね!?」
私はお札を一枚取り出す。すると札はたちまち消滅、代わりに二足歩行のウサギちゃんが登場。
「速く走りたいならこのオレにお任せさ!」
うわぁ、凄く自信満々。
確かによく亀と徒競走しては自尊心を高めているという噂は耳にしているけど――
かち、かち。
――ん?
何か、妙な音がした気が……。
「って、熱っ!?熱い熱い熱い!?」
このウサギ、可愛い顔なのに何の躊躇も無く私のお尻に火を点けたよ。
「何してくれてんのよ、もーっ!?」
「火を消したければ全速力で走ることだな」
「もう少しまともな方法にしてよぉ!?」
「ケツに火が点けば誰だって死にものぐるいで走れるさ、月の裏側までだってあっという間だぜ?」
「ホントに燃え死ぬぅぅぅっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます