第3章「うらぎり」 4-4 連続不審死開始

 既に、テント内にはランタンがうっすらと灯っている。


 そのランタンの光に、それぞれ真翠と蒼天色に輝く宝石が一同の前に差し出された。


 (組成的に、エメラルド及びサファイアにほぼ同じ……ここでも、宝石類は地球圏とほほ変化なし)


 ストラが顔色一つ変えず、一瞬で探査する。

 「こ、これで、ひと先ず……84,000トンプ相当です」

 「プランタンタン」

 「へいッ!」


 ストラに指示され、プランタンタンがうやうやしく受け取るや、同じように美しく光る緑の眼でサッとランタンにかざし、


 「へえッ! モノホンでやんす。御有難うござい……」

 すぐさま、専用の丈夫で小さなな革袋へしまった。


 「いつのまに、そんな袋を用意してたんだよ。それに、宝石鑑定なんかできるのか?」


 フューヴァが、不思議そうに尋ねた。

 「へっへ……その辺は、山エルフに教わったことがあるんでさあ」

 「ふうん……」


 金目に関してはプランタンタンを全面的に信用していたので、フューヴァはそれ以上は何も云わなかった。


 いつのまにやら起きていた寝起きのペートリューは、最初は驚きと喜悦をたたえた笑みで宝石を見つめていたが、袋にしまわれて見えなくなるともう興味が移り、手配してもらった焼酎の大甕から柄杓ひしゃくで酒を直接飲んだ。


 「せめて、割って飲めよな」

 フューヴァが何度もそう注意するが、うすら笑いで誤魔化すだけだった。

 「では、ストラ殿……」

 ルシマーが声をひそめ、難しい顔でそうつぶやいた。


 「分かりました。ではこれより、全グルペン兵排除作戦を開始します。手始めに、ルシマーさんを尾行している三名を排除します」


 「え? 尾行?」


 常に周囲に気を配っていたルシマー、当然ここに来るのも護衛を連れているし、怪しい奴はけして近づけさせていない自信があった。


 「お、おい、どうした、しっかりしろ!」

 テントの外から声がして、ルシマーが身をすくめた。

 「副長殿、が、一人、御倒れに!」


 ルシマーが、息をのんでストラを見る。まさか、遠征以来、ずっと側に従えていた護衛の一人が、グルペン兵だったとは!?


 「副長殿!」

 「い……いま行く! 医兵を呼べ!」

 「ハッ!」


 そう声を張り上げ、すぐにまたストラを見た。ぼんやりとした光の中、無表情で中央に座り、その両脇にフューヴァとプランタンタンが座っている。プランタンタンの眼もいま渡した宝石のように翠に光り、フューヴァは影となって浮かんでいた。ただ、後ろのほうでペートリューがグビグビと酒を飲む音だけがした。


 「こっ……これにて、失礼……!!」

 ルシマーが、逃げるようにテントを出た。


 そこに、

 「副長殿! 護衛係の他、もう二人、陣内で急に倒れた者がおります!」

 「う……!」

 「こ、これはもしや、何か悪い……疫病か何かでは……!?」

 若い伝令係が夕闇の暗がりの中、泣きそうな顔になっている。


 「い、いや違う! たまたま、たまたまだ。飲み食いが過ぎたのだろう。みな、気を引き締め、摂生しろと伝えろ!」


 「あ……は、はい!」

 若者が、勢いよく走ってゆく。

 ルシマーが、ストラのテントをふり返った。


 (我々は……金と勢いにまかせて、悪魔を雇ったのだろうな……!)

 それが吉と出るか、凶と出るかは、まだ分からない。

 


 翌朝、目覚めたら五人、死んでいた。


 五大隊や、将軍の近衛兵の中にも死者がおり、まったく無関係に思われたので、不審死、突然死として片付けられた。


 それから二日で、七人、死んだ。合計で十五人、死んだことになる。

 四日で、ストラの把握しているグルペン兵が半壊した。

 ここにきて、医兵も様子がおかしいことに気づきだした。


 見た目、死体にまったく損傷がないし、何の兆候もなくいきなり死んでいるからだ。


 「敵の呪いか……!?」


 そんな噂も、飛び交い始める。兵士達にとっては、まったくランダムで仲間が次々と不審死していることになる。

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