第3章「うらぎり」 4-5 襲撃、グルペン兵

 当然、焦っているのはターブル大隊長だ。死んでいるのは、密かに自らが統率している特殊工作員ばかりなのだから。


 (魔法戦士……!! こんな、恐るべき秘術も可能とは……!!)

 将軍側近の魔術師に、密かに相談した。が、


 「何らかの呪いにせよ、暗殺の魔法にせよ……魔力が動いておりませぬ……まったく、未知の魔法……いや、魔法かどうかも分かりませぬ……」


 などと、首を横に振るばかりだった。

 「そんな、バカな話があるのか……!?」

 「分かりませぬ……分からないので、手の施しようが……」

 「もういいッ……!」

 そうして、沈鬱で険しい表情を消し、


 「やあ、どーもどーも、やや、これはサンタール殿、将軍閣下へ御用ですかな? どーもどーも、私はこれにて……」


 などと、いつもの明るい御調子者を演じつつ将軍の仮館から出たとたん、ターブルがいきなり倒れ伏した。他のグルペン兵と同じくストラの不可視のプラズマ球電が突き刺さり、体内で炸裂したのだ。


 その死体には、笑顔が貼りついていた。

 


 少なくとも我々の医学レベルでも、遺体を司法解剖すれば、脳幹や心臓が不自然に熱変性……つまり、高熱に曝されてというのは容易に分かる。しかし、この世界の迷信と経験則に従う原始的な医療では、呪いと云う他はない。


 さしものカッセルデント将軍も、正常な判断を恐怖が打ち消した。


 その夜のうちに、残ったグルペン兵十五人(ストラの探知より三人多い)に、ラグンメータ襲撃を命じた。


 そうなると、暗殺というより陣内の誅殺襲撃になる。

 ラグンメータが謀反でも企まない限り、あり得ない事態だった。

 「追加の三名は、後払いで結構です」


 既にラグンメータの近くに、ストラがいる。動きを探知し、先んじて護衛に来ていた。


 「いよいよ、先に動いてくれたか」


 ラグンメータは軍議を行う広間の隊長席にどっかと座ったまま、足を組んでいた。が、さすがに緊張している。


 「どど、どうやって防衛するんですか?」

 ルシマーも、眼が泳いでいた。

 「卿の兵は、動かさなくてけっこうです。余計な被害は必要ありません」

 「ストラ殿がおひとりで!? ……って、無駄な心配なんでしょうが……」


 「ここは一つ、派手に立ち回りましょう」

 ラグンメータが苦笑し、大きく深呼吸して、

 「では、お手並み拝見する」

 椅子の背に身体を預けた。

 「わかりました」


 ストラが云うや、仮宿舎を包囲し、二段に分けて波状攻撃を仕掛けたグルペン兵の第一陣七人が、二つの出入り口と窓から飛びこんできた。


 そして、物も云わずに近接武器であるククリナイフに近い大型屈折ナイフや、ジャマダハルのような握り短剣を振りかざした。みな、猛毒が塗布された暗殺用だ。


 ストラが光子剣アンセルムを抜きはらい、準超高速行動セミ・ハイマニューバに突入する。本当の超高速行動ハイ・マニューバでは、超音速衝撃ソニック・ウェーヴにルシマーやラグンメータを巻きこむため、室内では使用できない。


 それでも、空気振動の衝撃でルシマーがひっくり返った。

 この部屋にもしガラス窓があったら、全て割れていたのは間違いない。


 七人のグルペン兵は第一目標がラグンメータ、第二目標がストラであったから、ストラに三人がとびかかってきていた。


 その三人が、人間の動体視力では「同時に」輪切りとなって血液をブチまけた。


 しかも、洗濯機の脱水のように血しぶきが全周囲に振り撒かれる。


 天井際まで壁に一条の血痕が走り、人間だった肉の塊も勢い余って弾け飛んだ。


 そして、ラグンメータに踊りかかった四人は、ラグンメータが迎撃のために動く間すら与えず、やはりほとんど同時にストラが後ろから斬りかかっている。


 逆袈裟から燕返しに袈裟、そこから水平胴斬り、最後は振りかぶって真向斬り。


 それで四人を、魚でも下ろしたようにバラバラにした。

 最後の一人などは、脳天から股下までだ。

 それが、5秒とかからずに終了した。


 気がつけば、広間は血の海だった。

 その中に、ストラが佇んでいる。

 戦闘を終え、右手の光子剣アンセルムの刃が明度を下げてうっすらと光っていた。

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