第3章「うらぎり」 4-3 お金、稼いできた

 「ストラにとっては、将軍も兵卒も、同じ手間で殺せるということだ。だから値段が変わらない。当然……、な」


 「……!!」

 やっと意味が分かり、ルシマーが青ざめる。

 「ラグンメータ卿は、攻撃の対象には入っておりません」

 「……だろ?」

 「はい」

 「ハ、ハイって……ストラ殿!」

 動揺するルシマーを手で制し、ラグンメータが席を立った。


 「それでこそ凄腕の傭兵だ! 逆に信用できる! 雇っているあいだは、絶対に安全なのだからな!」


 そこでストラが、珍しく微笑を浮かべた。

 「28人、全員依頼しよう! 84,000、きっかり前払いで払うぞ!」

 「わ、若殿、それは!」

 「最初が肝心だ」

 「ですが……!」

 そこでルシマーはストラを気にしてチラッと見つめ、


 「グルペンでない者までグルペンとして勘定されては、キリがありません! それに、軍資金はもう……!」


 「……あとで聞く」

 そこでストラへ向かい、

 「では、頼んだぞ。カネは、すぐにテントへ持ってゆく」

 「わかりました。

 そう云って、ストラが音もなく踵を返して退室した。


 「すぐ、すみますって……」

 ルシマーが反復し、

 「……こわっ」

 ラグンメータ、思わず身震いした。

 


 「お金、稼いできたよ」


 テントへ戻るやストラがそう云ったので、暇を持て余して寝ていたプランタンタンとフューヴァが飛び起きた。(ペートリューは、酔いつぶれている。)


 「いっ、いくらでやんす!?!?」

 「84,000トンプ」

 「ははッは! はちまん……!!」

 プランタンタンの眼が、トンプ金貨に変わった。満面の笑顔に、ヨダレまで出る。


 「いったい、どうして?」

 フューヴァも寝起きながら、衝撃のあまり目が見開いている。


 「ちょっと、カッセルデント将軍が極秘裏に動かす特殊工作員を暗殺することになった」


 「は……!?」

 フューヴァが息をのみ、プランタンタンを見やったが、


 「はっちまん、はっちまん……はっちまん……よんっせん……ゲヒィッ……シッシッシッシシシシッシシシ~~~ヒッヒヒ……シッシッシッシシ……!!」


 そう、ブツブツ繰り返しながら肩を揺らして笑っているだけだったので、何も云わなかった。


 「ですが、こんなトコロで八万……四千トンプ? ですか? ど、どうやって隠しておけばいいんでしょう?」


 「そうでやんす、旦那、お宝はけっこうでやんすが、持ちきれねえほどの御金様おかねさまを、こんな戦場のど真ん中で、いきなりドッサリと渡されても……」


 急にプランタンタンが素に戻ったので、フューヴァが驚く。

 しかし、そこもストラは既に探査済みだ。


 「貨幣の他に、遠征軍陣地にしては不釣り合いな宝飾類も数多く持参している。マンシューアル人の文化的な慣習かと思っていたけど、どうも軍資金の一部っぽい」


 「ははあ、なるほど……まだ自国内でやんすし、農民やそこらから食いもんを分捕るにしても限界がありやあす。フランベルツに侵攻するまでは、買付の御金様おかねさまが入用ということで。しかし、御金様おかねさまのが世の常。宝石やらなんやらで携帯してるんでやんすね」


 金に関しては、さすが、プランタンタンは回転が速い。


 「そういや、マンシューアルは宝石がたくさん出るんだよな。ギュムンデで出回るデカイ宝石類は、たいていマンシューアル人から買い付けたやつだって聴いたことある」


 フューヴァも、レーハーにいたころを思い出した。レーハーは色街を管理していた関係で、宝飾類の取り扱いも多かったのだ。


 「……ってえことは、84,000トンプ相当の御石様おいしさまってことでやんすか……それなら、まだ持ち運びに便利でやんす」


 果たして……。

 「御免」

 夕食前に、なんとルシマーが直々に現れた。

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