第1章「めざめ」 6-3 旦那の独り言
「つ、つまり、安いというのか!? 20倍だぞ!?」
「300倍であれば、費用対効果に見合うと推測します。これは、当該世界の商慣習をまだ完全に把握していないがための、保険的金額を含んでいます」
「さんびゃッ……!!」
ランゼが絶句。プランタンタンとペートリューも同じだった。
「……あ、ああ、足元を見おって!! 後悔するなよ!! なんたる、なんたる強欲!!」
怒りのあまり、ランゼの姿が歪みだした。魔法の集中力が切れかけている。
「どうなっても知ら……!!」
そのまま、忽然と消えてしまった。
「未知素粒子群を固定する未知法則が途切れ、構造体が崩壊しました。未知素粒子が拡散しております」
「?」
プランタンタンが眉をひそめて、ペートリューを見やった。
「魔法が解けて、分身が消失しました」
「はあ……」
プランタンタンが大きく息を吸い、
「しっかし、旦那あ、さっすが、肝が大きいでやんすねえ~~。あっしですら、圧倒されやしたよ。まさか、300倍もの額を吹っかけるなんざあ……恐れ入りやした」
心底感服しきった感じで、大げさな手ぶり身振りも下卑た笑みも笑いも無く、プランタンタンがつぶやいた。
「で、ですが、ストラさん……プランタンタンさんの云う通り、絶対、今夜のうちに仕掛けてきますよ……城内で剣を抜くのはご法度……魔法戦になります!」
酒を飲むのも忘れ、ペートリューが身をよじりながら云う。
「マッホー戦……よくわからないけど、武器を使用しなければいいの?」
「え、ええ、まあ……」
「大丈夫でやんすよお、ストラの旦那は、素手でも滅法、強いんでさあ。魔法の戦いは……あっしは、よくわからねえでやんす」
「どど、どうします?」
「ペートリューさんは、魔法で助太刀できねえんですかい?」
「あッ! あた……し、はあ~……ランゼ様の魔法に対抗できるような術は……その……」
「ま、期待はしてやせんでしたけど、そうあっさり云われると、逆に気持ちいいでやんす。流石に、
変なところに感心し、プランタンタンが無邪気に笑った。
「たぶん、大丈夫」
「さっすが旦那でやんす! 魔法の戦いも、お手の物たあ!」
「でっ、でも、城内ですから、あまりハデな戦いは……ランゼ様も、暗殺系の魔法を使ってくるでしょうし」
「……その、マッホー戦がどのような戦闘かまだ不明ですが、相手のマッホーを大幅に弱体化あるいは無効化することが可能と推測します」
「エッ、ストラさん、そんなことができるんですか!?」
ペートリューがそのバサバサの前髪の奥で、目を丸くする。
「はい。先ほど未知素粒子凝縮体を構成する未知の式構造が崩壊して、大量の未知素粒子が空間中に拡散しましたが、私は、それを特殊な力場を構成して自己エネルギーに変換吸収することが可能と判明しました」
「???? え? え? え……と、つまり……まま、魔力を吸収できるんですか!?」
「はい」
「…………!!」
ペートリューがアングリと口を開け、陸に上がった魚みたいにパクパクする。
確かに「相手の魔法を打ち消す魔法」は存在するが、原則「敵の魔力を吸収し自らの魔力を補填する魔法」又は「魔力を吸収して相手の魔法を無効化する魔法」というものは存在しない。魔力は自然に回復するのが基本で、特殊な修行をすれば、ある程度強制的に補充を速めることができるが、それとて、あくまで自然魔力を吸収する。
相手の魔術師あるいは行使された術から魔力を吸収するというのは、前代未聞であり、ストラ固有の特殊能力に近い。
じっさい、その通りである。
「え……どうやって、やるんですか?」
ペートリューが、興味本位で尋ねた。
「プログラム開示に関することは禁則ですのでお答えできませんが、私の通常的エネルギー補充機能に当該世界の未知素粒子及び未知素粒子反応効果エネルギーが合致しました」
「……え、と……?」
首をかしげて戸惑うペートリューに、プランタンタン、
「まあ、なんでもいいじゃあ、ありやあせんか、ペートリューさん。旦那のひとりごとをいちいち気にしてたら、先に進みやせんぜ」
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