第1章「めざめ」 6-2 魔術師ランゼ
ベンダが状況を説明し、
「そりゃあ、その魔法使いがグルだってんなら、事が露見して一巻の終わりでやんしょうから、何かしらの作戦を伝えるでやんしょうねえ」
「どんな作戦ですか!?」
「そこまでは……」
プランタンタンが肩をすくめ、思わず尋ねたベンダも、そりゃそうだ、という顔になる。
「ス、ストラさん、どうしたら……」
「私たちの任務は、お二人をダンテナまで連れて行き、タッソまで連れ帰ることです。それ以上でも、それ以下でもありません」
つまり、領主、ランゼ、代官と組合との揉め事に首を突っこむほど金はもらってないし、そういう契約でもないということだ。
当たり前すぎる返事に、ベンダとアルランの二人も、何も云えなくなる。また、ここで契約を改訂あるいは新たな仕事を契約する権限も無い。
「とにかく、無事に、タッソまで戻りやあしょう。話は、それからで……」
「そ、そうだな」
二人が部屋を出て、自室へ向かった。
それを見送って、プランタンタンがボソリと、
「あの二人……今夜のうちに、暗殺されちまいやせんか?」
「ひゅぐっ」
と、またペートリューが喉を詰まらせたような息を発した。無意識で酒を探したが、ここにはない。
一気に汗をかいてそわそわするペートリューをよそに、
「あの二人に死なれたら、
「その通りです。それは、私が常時探知、索敵しておきます」
「さいでやんすか……それなら大安心で」
「それより、当該重要人物が訪れます」
「へ?」
云うが、ストラの部屋を何者かがノックし、
「どうぞ」
ゆっくりと扉を開けたのは、明かりを手にしたランゼだったので、ペートリューが引きつって震えだした。
「ど……どちらさまで?」
ランゼと分からないで尋ねるプランタンタンと、かつての配下だったペートリューを完全に無視し、ランゼはストラに向かって、
「貴殿と二人きりで話がしたい……」
厳しくも陰鬱な表情で、そう切り出した。
「却下します。未知素粒子集合体による疑似構成体。本人ではありません」
「ぶ、分身の魔法……!」
ペートリューの声に、チッ、とランゼが舌を打った。
「許されよ。身の安全のためだ」
「それは理解します」
「私の意識は、本体とつながっている。私の言葉そのものだ」
「了解しました。ただし、ここで、三人で話を聞きます」
そこで再び、ランゼがプランタンタンとペートリューを見やった。エルフに、元配下。グラルンシャーンの野望を阻むエルフがいるとは思えない。ただ、きつい労働に耐えかねて逃げてきただけだ。またペートリューには、作戦を伝える前にクビにした。残って代官の目付役をしている三人が漏らす理由もない。ペートリューが、今回の件を知るはずがない。
従って、この二人がここにいるのは単に偶然だろう……。そう判断し、
「わかった。ここで話そう。どうだ、ストラとやら……10倍……いや、20倍出す。私につけ。私の味方をしろ。簡単な話だ。あの二人が死ぬのを見過ごせ。それだけだ。それだけでいい」
「に! 20倍!!!!」
プランタンタンが思わず大声を出し、またランゼが舌打ちしたのですぐに口へ手を当てた。
「どうだ……お前は傭兵だろう? 金の額で契約先を変えるのに、何の不都合も無いはずだ」
「却下します。大いに不都合があります」
「な、なに……!?」
ストラが断言したので、プランタンタンとペートリューも驚いてストラを凝視した。
「それは、どういう了見だ……!?」
「契々は、これが当該世界における初めての契約です。二人が殺された場合に、あなたの作戦が表に出ないというのであれば、最初から依頼に失敗したことになります。又、作戦が明るみになった場合では、契約信義則に反し、いきなり敵対勢力の買収に安易に応じたことになります。どちらにせよ、今後の仕事に大いに支障を与えます。提案額は、その失われるであろう信用を取り戻すための費用対効果に、とても見合うものではありません」
「なァ……!?」
淀みない発言に、ランゼも戸惑う。
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