第1章「めざめ」 6-1 領主との謁見
プランタンタンとペートリューが別室で待たされ、ストラが通されたのは、豪勢な謁見室ではなかった。
どこか、裏の会議室のような……城の奥の秘密の部屋というような場所だ。
中には、部屋の奥に座る領主のリーストーン公、そのかたわらの少し離れたところに立っているのは魔術師ランゼ、衛視長のバッカル、護衛の兵士四人……そして、ベンダとアルランだった。
「ス、ストラさん!」
少しやつれたような面持ちで、二人がストラを見やって安堵する。
「そなたがストラか」
ほのかな明かりに照らされた領主が、胃に穴でも空いているかのような厳しい苦悶の表情で云い放った。ストラは三次元探査で把握したリーストーンの礼法通りに片膝を引いて礼をし、胸に右手を当て、
「左様にございます」
「組合の訴えはまことか……いやいや、そのようなこと、其方には関係のないこと……事実だけを申してくれ。この者たちを、ゲーデル牧場エルフのグラルンシャーン殿の兵士が襲ったというのは、まことか?」
「はい」
何の淀みもなくストラが応え、ランゼが領主に見えぬように目をつむって顔をしかめた。
「其方が、撃退したのか?」
「はい」
「どこだ? どこで撃退したというのだ?」
「森の中にある、いまは使われていない旧街道のような場所です」
「……なぜそこを知っている!?」
リーストーン公の顔が強張る。非常時にタッソとの連絡などに使う、領主家で秘匿してきた秘密の裏街道なのである。
「探査で知りました。なお、タッソから代官の兵が我々を追って街道を下がってきて……」
ストラはそこで、探査魔法(と、いうことにして)裏街道を発見し、避難したこと。しかし、その裏街道を通ってゲーデルエルフの竜騎兵が襲ってきたこと。おそらく、自分たちを挟撃しようとしていたこと。先んじて竜騎兵を全て倒したことを、台本でも朗読しているかのようにスラスラと一気に説明した。
リーストーン公が思わず、両手で顔をおおった。長年信頼を寄せてきた、甥であるタッソ代官に裏切られたという思いだった。
「なにを考えて……組合を通さず、ゲーデル山羊製品を……いや、グラルンシャーン殿か……あの老獪な詐欺師は、祖父の代から気を抜くなと云われてきたのだ……それを、ヨートルホーンめにも、しっかり伝えていたつもりだったが……金か話術かで、まんまと丸めこまれるとは、な……。私が、甘かったようだ」
両手をどかすと、そこにあるのは伯父としての顔ではなく、領主としての顔だった。
「訴状は確かなものだ。よもや、偽りの訴えではあるまい。もし偽りであったなら、組合長のクビが飛ぶだけではすまぬ。じっさい、エルフの兵に組合員が襲われておる。明日、早々に代官を召喚する。兵を準備せよ。ランゼ」
「は……ははっ」
「何のための目付だ。魔術師を四人……いや、三人か……三人もつけておきながら……みすみす……」
「お、畏れ入りましてござります……私めの眼が、曇っておりました……もう、年でございます……この件がすみましたならば、その責を……」
「そんなことはあとで良い!!」
「ハハッ……」
ランゼが、深く礼をした。
「では、明日にも、兵50……いや、80に召喚状を持たせてタッソへ向かわせる」
(80だと……!)
内心、ランゼが動揺。ダンテナ守備兵の十分の一もの数だ。使者を送り届ける規模ではない。タッソ守備兵300余と、一触即発の事態にもなりかねない。
「二人とストラ殿も、付き従ってもらいたい。ストラ殿は、今日は城にお泊り下さい」
一同が礼をし、領主の前より下がった。
「いやあ……これで、一安心です……」
ストラと共に暗い廊下を歩くベンダが、心底安堵した声で云った。
「そうでしょうか」
ストラの返事は、どこまでもぶっきらぼうだ。
「既に、ランゼが未知素粒子集合体である自律式鳥類型情報伝達端末を複数、タッソに向けて放っています。なにか、危急を告げているのでしょう」
「な……なんですって……!」
ストラはいったん、プランタンタンとペートリューが待っている控室へ入り、そこからストラにあてがわれた部屋へ皆で移った。
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