第1章「めざめ」 6-4 マギコリノ
「ええー……」
「というわけで、旦那、じゃあ、ベンダさんとアルランさんの護衛はお任せいたしやす。あっしらは、明日に備えて、休まさせていただきやす」
「いいよ」
「え、いいんですか!?」
主人を働かせて従者が先に寝るなど、この世界の常識ではあり得ぬ。
「じゃ、そういうことで……」
プランタンタンがストラの部屋を出て、ペートリューも続いた。
「え、ほ、本当にいいんですか? プランタンタンさん」
うす暗い廊下で、ペートリューが後ろからささやいた。
「いいんでやんすよ。だって、どうせ、あっしらにゃあ、何もできないんだし……」
「まあ、たしかにそうですけど」
ペートリューが、あっさりと同意。プランタンタンがふと、立ち止まって、
「ストラの旦那と出会えたのは、神様の思し召しでやんすよ。こう云っちゃあなんですが、旦那は、アタマをお打ちになったようで……御覧の通り、ちょいとオカシイんでやんす。あっしらは、せいぜい捨てられねえように、旦那の邪魔をしねえで……うまく、やりやあしょう」
振り返って、細い松明の明かりに不敵な笑みを浮かべて、そう云った。
ペートリューは息をのんで、
「……そうだね、あたしは、お酒が飲めればそれでいいし!」
(それでいいんでやんすか!)
思わず口から出かけたのを飲みこんで、プランタンタンが口元を引きつらせた。
さて……。
どうせストラに寝るという機能は無いので、城中を三次元探査して過ごしている。物理的探査だけではなく、「マリョク」なる未知素粒子の移動も探査していた。
「マリョク」は空間中に漂っており、常に対流していた。それをこの世界の一部の者が未知の手法で集め、凝縮し、様々な効果へ変換しているのだ。
(その手法及び効果が、『マッホー』……)
そこで、ストラは気づいた。
(もしかして『マッホー』って、空想的概念における魔法のこと?)
魂魄移植型であるストラには、人間だったころの記憶が刻まれている。普段、特に作戦行動中はその記憶を読みこむことは無いが、時折、無意識に蘇る。
(そっか……魔法があるのか……ここ……いいなあ……魔法……)
気がつけば、ストラは暗闇で微笑んでいた。
(で、あれば、以後、未知素粒子を『
その時、その「魔法」が発動したことを探知し、瞬時に準作戦モードに移行する。
魔力の塊が、ぴっちりと合わせてある石材や木材の隙間を、インクが滲むように移動する。
まるで、不定形生物がジワジワと這って歩いているかのようだ。
自律型か、操作されているのか不明だが、行き先は容易に予測できた。
まだ寝つけないでいる、ベンダとアルランの部屋だ。
(やつめ……
血走った眼で虚空をにらみ、魔法陣の中に立ち、小さな蝋燭の明かりの前で印を結んで呪文を唱えながら、ランゼが脂汗を浮かべて秘術を行使していた。
暗闇でまんじりともせずに何度も寝返りを打つ二人をめがけて、闇に闇が形を作る。この地方にいるはずのない猛烈な毒を持つ毒蛇に変じ、壁を伝ってベッドに近づいた。
既に、窓の外にはストラが重力干渉による空中浮遊で浮かんでいた。
しかも、ご丁寧に全身に光学迷彩をかけ、完全に闇に溶けている。
(
チュッ、と、ものすごく小さな蝋燭を洗面器の水につけたような微かな音がして、毒蛇が消失した。
「え……」
ランゼが、呆然として息をのんだ。
(な、なにが……!?)
まさか、魔術式に干渉され、打ち消されたとは思わぬ。そんな発想がない。ついでにストラが空間に放散した魔力を空間内に補充網を張って吸収したが、補充量としては、超巨大ダムに霧雨の一滴が落ちたような感覚だった。
(非効率……この規模での回収は、以後禁止)
そして、壁際を飛んで、城の反対側へ行く。
城の角にあたる場所で壁の前に浮かび、三次元探査。
そう。
壁の向こうには、あわてて二度目の暗殺秘術を一から構築するランゼがいた。
(術式作動本体へ干渉開始)
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