第1章「めざめ」 4-3 竜騎兵

 ストラも、騎兵単縦列に向かって走り出す。

 そして、ついに腰の光子剣を抜いた。


 ほぼ直刀、細身の片刃剣で、鍔の無い両手持ちの束は四角く、握りづらいように見受けられるが、ストラの手の内に合わせてモーフィングされ、自在に握りの部分が変化する。さらに、刃の部分に微細な光子が集まり、光子振動により原子構造を破断しながら物体を破壊してゆく。


 従って、剣自体が発光した。

 キースィヴ式光子振動型原子構造破断剣、通称「アンセルム」だ。

 「…な、なんだ!?」

 無理もないが、先頭を走る竜騎兵が、鏡か何かに日光が反射していると勘違い。


 進軍速度低下を意味する左手の肘を曲げて掲げた瞬間、超高速行動ハイ・マニューバに移行したストラが竜ごと先頭の兵を細切れにしていた。


 数メートル後ろを走っていた兵士にビシャビシャと血しぶきが降り注ぎ、無意識で手綱を引き絞って減速したところに後ろの兵が衝突する。


 さらに多重衝突を起こし、10人の竜騎兵のうち7人がひっくり返り、または投げ出されて木々や地面に打ちつけられた。


 かろうじて、後方の三騎が衝突を免れる。しかし、三騎のうち、前の一騎は止まりきれず、ジャンプして転倒した仲間を避けて進んだ。


 「ギャッ!」

 不幸なことに、竜から投げ出されてうめいていた仲間を竜が踏みつけたようだ。

 「止まれ、止まるんだ!」


 なんとか竜を止めようとしたが、興奮し、動揺した竜はなかなか止まらなかった。

 そのころには、後ろの二人の両手と首が、音も無くストラに落とされている。


 豆腐やバターを切るというレベルですらない。空振りでもしているかのように、飛び上がったストラが空中で回転しながら光子剣アンセルムを振り回しただけで、手綱を持つ腕と首が切断されて転がり落ちた。


 しかも、二人同時に、だ。

 「どう、どう! どう!」


 どうにかこうにか竜を止めた兵士が、状況確認のために竜を回して坂道を登ろうとしたとたん、ストラの額の辺りより発射されたプラズマ弾が胸を貫いた。人の頭が通るような大穴が空き、即死した兵士が崩れ落ちる。


 さらに、強烈な磁力線で操作されたプラズマ球が複数、出現。まだ生きているエルフたちめがけて宙を舞い、次々に突き刺さった。プラズマ球は生体内で高圧電気となって弾け、心臓を一撃で止めた。


 「戦闘終了、兵士の生存者無し。生存の未知騎乗用生物は、放置します」

 音もなく、日本刀の縦納刀で光る片刃を鞘に納め、ストラがつぶやいた。

 およそ、三十秒ほどの出来事だった。


 一部始終を目の当たりにしていたプランタンタンは、ヤモリのように岩肌にへばりついたまま、ガタガタと震えだした。


 「……おい、どうなった?」

 急に静かになったので、岩の下からアルランが声をかける。

 「おい!」

 「……ッタ……!」

 「なに!?」


 「…ッタヤッタあああああああーーーーーー!! ヤッタでやんす! ヤッタでやんす! ヤッタでやんす! ヤッタでやんすううううううううう!!!!!!!! すげえ! すげえ! 目にも止まらねえ!! 眼にも止まらねえとは、このことでやんす!!!!」


 プランタンタンが巨岩の頂点まで一気に登り、そこでピョンピョン飛び跳ねながら、雄たけびを上げた。


 「ウオオオオオオオオ!! 旦那! ストラの旦那が!! グラルンシャーンの兵隊どもを!! 眼にも止まらねえ早業で!!!! ウッ……ウゥッウ……!! ウォオオオオン!」


 感涙、慟哭してやまなくなる。


 なんだなんだと、三人が助けあいながら巨岩の後ろから裏街道まで出てきた。最初は何が何だかわからなかったが、山道を数十メートルも遡ったところの惨劇を発見し、ベンダとアルランは絶句して震えだした。


 「あれは……!」


 何頭かの竜が横たわってもがき、または起き上がって森の中に逃げだしている。エルフの兵士が、全滅していた。何人かは、ド派手に血しぶきを巻きちらしているのが分かった。


 「ヤッタヤッタヤッターーーー!! すっげえ! すっげえ!! すっげすっげすっげ!!!!」

 泣きながらまだ喚いているプランタンタンに向かい、岩の下から、

 「う、うるさい! 黙れ! 代官の兵に聞かれるだろうが!」


 ベンダの怒鳴り声に、プランタンタンがヤバッ、と口に手を当てる。そして、すぐさまと岩を降りてきて、


 「な、なあに、代官の兵士たって、ストラの旦那にかかっちゃあ……」

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